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対談

杉本浩司×丹野智文さん対談 認知症とともに「 普通」を生きる。

杉本浩司×丹野智文さん対談 認知症とともに「 普通」を生きる。

杉本浩司 × 丹野智文さん

2020.12.15

39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断された丹野智文さん。創業当時から認知症と向き合ってきたMCSから、
認知症とともに前を向いて生きてきた丹野さんにしか感じることのできない思いをお聞きしました。

これまでの生活を続けたい

杉本
認知症と診断された当初は、悲観的になったこともあると思うのですが、前向きになれたきっかけを聞かせていただけますか。

丹野
認知症と診断されたときネットで調べると、“2年で寝たきりになる”とか全然良い情報がないんですよね。地域包括に行ってもどこに行っても介護保険の話ばかりで、「仕事をやめてデイサービスに行ったらどうですか」と言われたんです。でも、僕が一番知りたかった情報は、どうやったらこれまでの生活を続けていけるかということだったので、何を言っているんだろうと思ったんですよね。

そんなある日、「認知症の人と家族の会」で、当事者の方に出会ったんです。その方は笑顔で元気で明るくて、「認知症と診断されてから6年経ったけど、今こうやって元気なんだ」と話してくださいました。
その話を聞いて2年で寝たきりって嘘じゃないかと元気が出て、この人のように生きたいと思ったんですよね。認知症って暗いイメージしかないでしょ。でも、朝、地域の人に「おはよう」と元気に挨拶したり、友達に「僕、認知症なんだ」と打ち明けると、周りもサポートしてくれるし、認知症に対するイメージも変わると思います。

財布一つ持たせてもらえない

杉本
丹野さんはこれまでの生活を続けられるよう、工夫して生活していると仰っていましたよね。

丹野
よく、「丹野君のように工夫できる人は少ないよ」と言われるんです。でも、これは違います。
工夫しなくていいように家族が守りすぎてしまうんですね。ひとり暮らしの人はみんな工夫していますよ。たとえば、鞄を入れ替えるときには忘れ物がないよう、中の袋だけ入れ替えればいいようにしたりね。家族がいる当事者は鞄や財布一つ持たせてもらえてないんです。財布をなくすなら、どうしたらなくさないか工夫すればいいのに。僕だってGPSを入れて携帯で調べられるようにしています。色んな方法があるのに、工夫なしに持たせないという選択肢を取るから自尊心や行動を奪われて気持ちが落ち込んでしまうんだと思います。

杉本
財布を持たせないって僕もよく聞きます。

丹野
僕はね、財布を持たせてもらえないと困るんです。ガチャガチャが好きでたまにやりたくなるから(笑)。
それは、自分のお金だからできるのに、認知症になったからといって遮られる理由はないでしょう。ジュースを買いたいからといちいち誰かに断らなければいけないのは買いにくいですよね。女性は特に化粧品を買ってもらえないケースがよくあるんです。認知症だから必要ないと言われたりしますが、女性にとっておしゃれは大切なんですよ。そこをわかってほしいです。

「やりたいこと」を実現する、そればっかり

杉本
丹野さんは「おれんじドア」の代表も務めていらっしゃいますが、「おれんじドア」ではどういう活動をされていますか。

丹野
僕が当事者に出会って元気になったので、それを他の人に伝えないかとお医者さんからの提案で始めた活動です。おれんじドアでは、「病名聞かない、困っていること聞かない、アンケートとらない、メディアいれない」この4つを徹底しています。困っていることを聞いても助けられないから。何を聞くかというと”やりたいこと〞を聞く。それを実現する。そればっかりです。

杉本
とてもわかります! ぼくも介護福祉士をやってて、何やりたいか、どこ行きたいかを聞くことを徹底していました。

丹野
それでね、中途半端はだめなんですよ。よくあるのが、釣りをやりたいって方を近くの釣り堀に連れて行こうとするんです。その人はずっと海で釣りしてきた人なのに。それで、ある年の夏、仙台から愛媛まで行ってきました。船を持っている方にお願いして、船釣りして刺身にして美味しかったねって言って帰ってきたんです。行きたいと言った人は行きは一番後ろを歩いていたのに、帰りは一番前を歩いていたんです。それくらい自信になっているんですよ。

他にも、美容室をやっていたおばあちゃんがいて、「悔しい悔しい」って言っていたから、「何が悔しいの?」と聞くと、認知症と診断された途端に仕事と車を取り上げられて家にひきこもっていると言っていたんです。「切れるの?」と聞くと「馬鹿にするな」って怒られました(笑)。今は、仲間の施設でおばあちゃんに切ってもらっていますよ。そうすると本人もうれしいし、切ってもらった人もうれしい。それに無料でしょう、こんな良いことはないですよ。そのうちお金取ってるかもしれないですけど(笑)。とにかくみんな笑っていますよ。

ご利用者と同じ目線に立てば
気がつくことがたくさんある

杉本
MCSが運営しているグループホーム(以下、GH)は認知症の方専門の事業所ですが、その方たちが生活しやすくなるにはどういった工夫が必要だと思いますか。

丹野
僕もよくGHには行きますが、まずご利用者の横に座りますよ。でも、ご利用者がお茶を入れようとしてくれると、スタッフが止めるんですよね。結局リスク管理ばっかりして、行動を止めてしまっているんです。
あとは、だいたい本棚が端っこにあって、本や将棋などのゲームが置いてあります。認知症の人は目にしないと忘れてしまうので「本棚を動かそう」と言ったら、「レイアウトを変えたらご利用者が混乱する」とスタッフに言われたんです。じゃあ一緒に動かしてもらおうよと。本人がもし忘れたとしても、「昨日一緒に動かしましたよね」と言えばいいだけ。本人がいないところで動かすから混乱するんですよ。「みんなで遊べるようにするためにさ」って言えば全く問題ないことですよね。部屋の真ん中に置いたら、みんな将棋をはじめましたよ。

当たり前のことを当たり前に

杉本浩司

杉本
MCSはGHの運営居室数が日本一なのですが、だからこそできること、やらなければいけないことは当事者の目線から何かありますか。

丹野
当たり前のことを自分都合にしないこと。食器一つとっても、食器を片付けようとすると、危ないって取り上げようとしたりするでしょ。でもそれを見たら、お皿はプラスチックだったりするんですよね。だったら、陶器とか美味しそうに見える食器にしなよと思います。ご利用者の気持ちを考えず行動している場面もよく見ます。以前見たのが、麻雀を4人でやっていた方にスタッフが、「午後からのリハビリどうしますか?」と聞いて、「やらないよ」と怒られていたんです。だってその人一人負けしてるんですよ。それは怒られますよね。

杉本
僕も以前施設長をしていた時、陶器を使っていましたが、スタッフは「投げたらどうするの?」と言うんですよね。でも陶器にしたら割ったのは全部スタッフでした(笑)。ご利用者は前よりもおいしいと言ってくれるんですよね。

丹野
「認知症の人=大変な人」と決めつけて過度なサポートをしないでほしいんです。助けてほしいときに「助けて」と言える環境が大切で、助けてと言われたらサポートしてくれる。それくらいでいいんです。そして、認知症の人はみんな同じじゃないんですよね。
眼鏡も視力が0.1と0.9の人は違う眼鏡をかけるでしょう。それと一緒です。軽度の方に重度の方と同じサポートをしたらどんどん症状は進行してしまいます。「自立」を常に考えなければいけないのに「自立」を奪ってしまっている人が多すぎるんです。
「普通」でいいんですよ。

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