太郎さんが教えてくれたこと②

大堀 具視
大堀 具視作業療法士 / 株式会社Start movement代表

 

太郎さん(仮名)の奥さんが、あるエピソードを教えてくれました。

訪問リハビリに、理学療法士(Kさん)がやってきた時にだけ、太郎さんは決まって「うんこがしたい」と言い出すのだそうです。他の理学療法士や作業療法士の訪問の時には、そういうことはないようで「どうしてなのかしら?」と不思議に思われていたようです。

当時、太郎さんのトイレ介助は、立位を支えながらズボンや下着を下げたり、尻を拭いたりしなければならないため、なかなかの重労働でした。また、トイレの間はリハビリができませんから、「うんこがしたい」という太郎さんの訴えには、Kさんがトイレに付き合うことになっていたそうです。

 

このエピソードには二つの大切な要素が隠されています。

太郎さんは、とても正直な方でした、おそらくKさんがトイレを介助してくれると、安心して楽に気持ちよく用を足すことができるとわかっていたのだと思います。だから、Kさんが訪問してくるタイミングでトイレに行こうと思っておられたのでしょう。

そして、おそらく何よりKさんの顔を見るや、本当にトイレをもよおしておられたのだろうと想像します。条件反射のように、Kさん=(イコール)トイレとなる、そう考えますと人の生理機能とは奥深いものです。それは決して、一方的に介助する者の技術が長けているというだけでは果たしえない、二人の間の目に見えぬ交流によって、必然の時間として太郎さんの体に組み込まれていったのだと思います。

 

そして太郎さんは、Kさんが訪問した時にトイレに行けば奥さんを休ませられる、Kさんは、それに加えて、もよおした時にトイレに行くことが太郎さんにとって一番のリハビリ、だからトイレによってリハビリ時間が削られてはいない、そう考えていたに違いないと思います。

 

これから人工知能が動きを分析して、最適、最良な介助を「答え」という形で示してくれる世の中になるのかも知れません。しかし生活動作は、介助する人とされる人というドライな関係の中で加工されるのではなく、ドラマのように思いを互いに投影させながら、常に変化し成長する生きたものです。

そう考えますと、介助に上手いも下手もありません、もちろん正解も不正解もありません。したがって、まずは同じ体を持つ人として、その時の思いに委ねて介助をしてみると、それなりにできるものです。

「先義後利」道義を優先させ、利益を後回しにする)という言葉がありますが、それに真似て“先義後技”道義を優先させ、技術は後回しにする)で介助に臨んでみると良いと思います。

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筆者プロフィール

その他
作業療法士 / 株式会社Start movement代表
その他
北海道出身。株式会社Start movement代表、作業療法士。著書に「お互いが歩み寄る介護実践45のヒント」「利用者の"動き出し"を引き出すコミュニケーション」などがある。
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大堀 具視
大堀 具視
作業療法士 / 株式会社Start movement代表
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