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トップページ>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】神戸大学発の認知症予防プログラム「コグニケア」とは?

【専門家インタビュー】神戸大学発の認知症予防プログラム「コグニケア」とは?

神戸大学大学院 保健学研究科 リハビリテーション科学領域 教授
同認知症予防推進センター
古和 久朋

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神戸大学発祥の「コグニケア」とは一体何?

編集部:まず、コグニケアの名前の由来や、取り組みの内容についてお聞かせください。

古和様:まず名前の由来ですが、「認知」を意味する「コグニション」と「ケア」を組み合わせた造語で、認知機能のケアをしていこうというものです。

先日、アデュカヌマブというお薬の承認が見送られたというニュースがありましたが、くすりの標的としては正しいけれども、使用する「タイミング」の問題だというふうに考えています。

認知症に限らず脳の病気というのは、脳の神経細胞が歳を重ねるごとに失われていった結果発症するわけです。
ですから、それを治すためには神経細胞を元に戻すしかありません。

例えば、心臓や肝臓であれば他人の臓器を移植するという方法があります。
しかし、脳ではそれが難しいですよね。仮に脳の移植ができたとしても、それは記憶や経験が他人のものですので、その人ではないわけです(笑)

そう考えると、認知症など脳の病気は、物忘れが始まってからアデュカヌマブのようなお薬を使っても、脳内のシミはとることができますが,神経細胞は減ったままなので物忘れは治らないということです。

ですから治すのではなく、「脳を守る」という概念が重要なのではないかと思っています。

認知症は完全に治すことはできない病気という前提を受けいれた上で、「認知症にならないためにはどうするか」「これ以上悪化させないためにはどうするか」という予防的な介入をそれぞれのステップで行う必要があります。
そういった中で、高齢者であればコグニケアを行いながら、定期的に実施するご自身の認知機能の変化に向き合っていただいて、病院に行くべきかどうかの判断をしていただきたいと思っています。

コグニケアで具体的にどういったことをしているかについてですが、一般に認知症に良いと言われている、「運動」「二重課題運動(デュアルタスク)」「社会的なコミュニケーションの維持」に加えて「認知症に関する定期的なレクチャー」「年に1度の運動・認知機能評価」を実施しています。

編集部:評価というのはどういった方法で行われているのですか?

古和様:基本的に病院でやるような認知機能検査を使用しています。
改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)をはじめ,5行程度のお話をおぼえていただき30分後に確認する検査、数字の下に指定された符号を書いていく検査など、複数の検査を実施しています。

編集部:なるほど、コグニケアは認知症の予防や改善を目的とした取り組みということですね。

古和様:実際のところ改善というよりは、認知機能の維持を目指すといった方が近いんですかね。
なかなか地味なことですけど。

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コグニケアの効果について

編集部:2018年から始まった取り組みだと伺ったのですが、実際にコグニケアの効果は出ているのでしょうか?

古和様:最初は少人数で、参加される方も入れ替わりが多かったです。
2019年の10月辺りから人が集まり始めたのですが、コロナ禍が直撃してしまいまして、、

そして2020年の10月から「eコグニケア」というネットでできるサービスを開始しました。
2021年の10月からは株式会社 Moff様と協力しまして、自宅からコグニケアに参加しても運動機能を高精度に評価できるようになりました。
Moff様は、独自のウェアラブル端末を開発しておりますので、それを利用し評価している形です。

ということでして、数年かけて評価をできる人がまだほとんどいらっしゃらなくて、現時点で効果の測定ができていないという状態です。

編集部:なるほど、eコグニケアが誕生し、全国から人を集められるという良い面もあると思いますが、オンラインなりの難しさもやはり感じていますか?

古和様:そうですね、やはり画面上で全員を確認し、コミュニケーションを取らなければいけないので、全員の状態を把握することが難しいと感じております。
もし何かがあった時のキャッチアップ等もできませんし、、

一方で移動時間なくお家ででき、リラックスできるということで悪いことばかりではないですね。
また、認知症の評価等もテレビ会議ツールなどを使えば問題なくできます。

しかし、お子さんやお孫さんの力を借りないと、システムを使えないという方もいらっしゃいますし、事務員がケアをしなければいけないという状況もあります。

編集部:確かに、高齢者だけの世帯だとさらに難しそうですね。
コグニケアにはどれくらいの人が参加しており、また年代の割合などもお聞きしてよろしいでしょうか?

古和様:現時点では220名の方に参加していただいています。
年代はやはり70,80代が圧倒的に多いです。ごく稀に50,60代の方にもご参加いただいているという状況です。

編集部:理想としてはやはり若い方に受けていただきたいという思いがあるのでしょうか?

古和様:もちろん理想を言えば50代の方に受けていただきたいですよね(笑)
おっしゃる通りそこにはミスマッチがありますね。

20年前から進行がスタートする認知症の特徴を認識してもらって、50代のうちから生活習慣を改めたり、薬剤による血圧や血糖、コレステロール値のコントロールを行うことで避けることもできるということを広めていきたいです。

編集部:そうですよね、やはり認知症には高齢者の病気というイメージがついてしまっているので、50代のうちから予防活動している人は少ないですよね。

古和様:親御さんの介護があるとか、そういったことがきっかけで健康に気を使い始める方はいらっしゃいますよね。

神戸市では認知症を理解しようという動き、いわゆる「共生」ですよね。そういった部分に力を入れています。

学校教育等で若いうちから学ぶことによって、認知症を自分ごととして捉えられるのだと思います。

我々は大学ですから、研究に加えて教育の担う場所なんですよね。その上で社会、自治体と協力して社会実装をする,という3つを柱にしています。
この3つの中でやはり教育が1番難しい部分ですので、神戸大学では認知症を自分ごととして捉えるための講義を今後やっていこうと計画中です。

編集部:今までのお話を聞くと、神戸市は非常に認知症に対する取り組みが進んでいるんですね。

古和様:神戸市は「認知症の人にやさしいまち」ということで、診断助成制度という制度を実施しています。
65歳以上の神戸市民は無料で認知症の検診を受けられるという制度です。

それだけだと他の市区町村でも実施されている取り組みなのですが、さらに詳しい診断が必要になった場合は病院で画像検査も含めた精密検査を実施することになりますが、それにかかった自己負担分の費用を償還払いするという取り組みもしています。

これを神戸モデルと呼びますが、始まって3年で50,000人近くの市民が無料で検診を受けています。

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認知症予防として普段の生活からできること

編集部:普段の生活を通じて、認知症の予防に役立つことはありますか?

古和様:こういった質問が出ると、私はいつも「認知症予防の10箇条」ということを伝えています。

  1. 規則正しい生活をしよう
  2. 適度な運動
  3. 腹八分目の食事
  4. 血圧を抑える
  5. 禁煙
  6. 飲酒は適度に
  7. 日頃から家族とコミュニケーションを取る(自分が認知症になった時のことについて)
  8. 趣味や社会と繋がれる場所を作る
  9. 認知症に対する正しい知識を身につけ、必要以上に不安に感じない
  10. セルフモニタリングを意識する

編集部:セルフモニタリングとは?

古和様:自分は周囲からどう思われているのか、どういう評価を持たれているのかということを意識することです。

認知症になる前は認知症にならないか不安なわけですよね?
ところが認知症になると自分は大丈夫だという考えに変わってしまいます。
これはセルフモニタリングができなくなるからだと思います。

例えば女性の化粧というのは、基本的に周囲から見られることを前提とした行為です。

私も外来をしていると、女性の患者様が化粧をしなくなり、認知症が一歩進んだのかなと思ってしまいます。
ところがデイサービスに通い始めて、また化粧をするようになってくると、「元気になったんだな」ということがわかります。

さらに化粧というのは、鏡を見ながらするのでデュアルタスクの側面も持っています。

ですから、常に周囲からの目を意識するというのは脳の活性化にもつながりますし、認知症の早期発見にもつながることだと思います。

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健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

古和様:認知症というのは経過の長い病気です。
発症する前の段階から様々な段階を経て、徐々に症状が明らかになり、支援が必要になる病気です。

私はそれぞれの段階で予防のためであったり症状を緩和するためのやるべきことがあると思います。

認知症になってからも,周囲のひとが認知症に対する正しい理解を持ち、認知症の人が得意なことを見つけ、得意なことを介して役割を賦与することで、自分が貢献できているという思いを持ってもらうことが重要だと思います。

そしてそのことを、「ありがとう」「助かりました」という言葉で知らせてあげることが非常に重要だと思います。

私の担当する認知症の人が、先日、叙勲を受賞されました。すでに進行されておられるので普段感情をはっきりと表に出したりはしないのですが、「すごいですね、おめでとうございます」という言葉をかけ肩をかるくたたいたら、その時だけすごい笑顔になったんです。
その時私は、これは偶然なんかではなく、こちらの言葉が伝わり、本当にその方もうれしかったんだと思いましたね。

ですから、その人の誇りに対して正しく評価をして、伝えるということは非常に重要です。
「もう進んだ人だからどうせ伝わらない」とは絶対に思わないで欲しいです

予防として適度な運動や食事管理を行う、認知症の初期と診断されたら飲むべきお薬を飲んで、受けるべき支援を受けるなど、それぞれの置かれた状況できちんとやるべきことを理解することが大切ですね。

こういったことが認知症に対する悪いイメージを払拭して、正しい理解につながるのだと思います。

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神戸大学大学院 保健学研究科 リハビリテーション科学領域 教授 同認知症予防推進センター長

古和 久朋こわ ひさとも

日本神経学会 代議員,専門医,指導医
日本内科学会 総合内科専門医
日本認知症学会 評議員,専門医,指導医

  • 日本神経学会 代議員,専門医,指導医
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