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トップページ>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】アルツハイマー病における終末糖化物質の神経障害メカニズムの研究

【専門家インタビュー】アルツハイマー病における終末糖化物質の神経障害メカニズムの研究

鈴鹿医療科学大学 薬学部 教授
郡山 恵樹様

鈴鹿医療科学大学 薬学部ではアルツハイマー病における終末糖化物質の神経障害メカニズムに関する研究を行っています。今回はその研究内容について教授 郡山 恵樹様に詳しくお話をお伺いしました。

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研究内容

編集部:「アルツハイマー病における終末糖化物質の神経障害メカニズムの研究」についての研究内容と研究結果についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

郡山様:糖尿病は、アルツハイマー病の発症リスクを約2倍上昇することが知られています。
糖尿病患者の血中には、色々な種類の糖とタンパク質が反応して作られる終末糖化産物(AGEs)が多く存在していることが知られています。
たくさんの糖とタンパク質の入った食材を加熱したときに褐色に変化しますが、その「おこげ」がAGEsであり、糖が多い体内においてもたくさんのタンパク質の「おこげ」ができているということです。

我々は、AGEsを産生しうる糖の中でも、特にグリセルアルデヒドと呼ばれる糖からつくられるAGEsが脳に対して強力な毒性を示すことを見つけました。
また、共同研究者である金沢医科大学の竹内正義教授は、そのことからグリセルアルデヒド由来のAGEsを、毒性AGEs(TAGE)と定義しました。

一方、なぜ糖尿病がアルツハイマー病の発症を促進させるのか、詳細な作用機序が分かっていませんでした。
我々は糖尿病患者の脳内では大量のTAGEが作られていて、神経細胞にダメージを与えているのではないかと考え、TAGEによる脳の神経細胞毒性とアルツハイマー病発症の関連性を調べてきました。

脳はたくさんの神経細胞で構成されています。神経細胞は近接する神経細胞どうしで軸索という腕を伸ばし、情報を相互に送りあって記憶や学習を行っています。
また、一般的にアルツハイマー病の脳の神経細胞内部では、神経原線維変化という「神経軸索のもつれ」が起こっているため、正しい情報のやり取りができない状態と考えられています。

我々は、グリセルアルデヒドが軸索を構成するタンパク質に結合してTAGE化することで、正しい軸索の形成が邪魔されることを見つけました。
神経が軸索を伸ばさなくなれば、神経の情報のやりとりに異常が生じるので、それがアルツハイマー病の発症原因ではないかと考えています。
興味深いことに、アルツハイマー病患者の脳神経細胞の内部で観察される、TAGEの蓄積パターンは、神経原線維変化と非常によく似ており、その原因のひとつと考えています。

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研究を始めたきっかけ

編集部:なぜアルツハイマー病と糖尿病の関係に関する研究を始めたのですか?

郡山様:私が薬学部の学生であった1990年代において、すでに世界中でアルツハイマー病患者数は増え続けていましたが、当時はまだ治療薬が存在しないことにとても大きく驚き、その発症や治療薬の研究に携わりたいと思い、これまで一貫して「脳を守る、脳を再生させる研究」を続けてきました。

また、1970年代の米国において、大量のトウモロコシから異性化糖の人工合成が可能となった結果、果糖ブドウ糖液糖が食文化を大きく変化させ、その後の成人肥満率上昇に続いて、糖尿病患者数の増加と認知症患者数が増え続けています。
しかし、それらの因果関係を分子レベルで詳細に説明した論文報告が少ないことを知り、この研究に着手しました。

研究の意義

編集部:郡山様が考える本研究の意義を教えていただけますか?

郡山様:我々は、果糖ブドウ糖液糖から生成されやすいグリセルアルデヒドによって、軸索を構成するタンパク質の「おこげ」が、神経軸索の「もつれ」をもたらすことがアルツハイマー病発症の原因のひとつであると仮説を立てています。
その「おこげ」や「もつれ」を軽減あるいは回避することができれば認知症の予防や進行抑制につながると考えています。

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今後の目標

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

郡山様:これまで培養細胞モデルを使ったデータ収集が主でした。
我々の研究室では、実験動物を用いて脳神経細胞の軸索が伸びる様子を観察できる独自技術を保有しております。
これまでの研究で得られてきた知見について、動物モデルを使った研究を進めているところです。
最終的には糖尿病由来のアルツハイマー病発症において、どの程度同じことが起こっているか、とても興味深いところです。

編集部:郡山様が目指す最終的な目標を教えてください。

郡山様:私たちの研究が、アルツハイマー病発症の病態メカニズム解明や予防法及び治療法開発に役立つことを期待しています。また、実際のアルツハイマー病のなりやすさと脳のグリセルアルデヒド量の関係は明らかではありません。
しかし、グリセルアルデヒド及びTAGEが、アルツハイマー病発症の早期診断や発症・進行の予測を可能とするバイオマーカーとして貢献できると考えています。

健達ねっとECサイト

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

郡山様:本研究結果が、アルツハイマー病の早期診断法の確立や、発症・進行の予防法のヒントとなることを期待しています。また、それらが認知症の方々、そのご家族の心の安らぎを得る助けになればと願って研究を進めています。

参考文献
Koriyama Y, Furukawa A, Muramatsu M, Takino J, Takeuchi M. Glyceraldehyde caused Alzheimer’s disease-like alterations in diagnostic marker levels in SH-SY5Y human neuroblastoma cells. Sci Rep. 5:13313. 2015

Nasu R, Furukawa A, Suzuki K, Takeuchi M, Koriyama Y. The Effect of Glyceraldehyde-Derived Advanced Glycation End Products on β-Tubulin-Inhibited Neurite Outgrowth in SH-SY5Y Human Neuroblastoma Cells. Nutrients, 12:2958. 2020

薬の使い方

鈴鹿医療科学大学 薬学部 教授

郡山 恵樹こおりやま よしき

北米神経科学会
日本生理学会
日本薬学会・日本薬理学会

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