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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】血中リンパ球の減少が認知症の予測に役立つ?

【専門家インタビュー】血中リンパ球の減少が認知症の予測に役立つ?

京都大学大学院 医学研究科 

帝京大学 先端統合研究機構 特任研究員

関西電力医学研究所 睡眠医学研究部 特任研究員

月田和人

京都大学大学院 医学研究科 月田和人様らの研究グループは、ビックデータを用いて、APOEε4を保持するパーキンソン病の患者さんにおいて、診断時の血中リンパ球の減少がその後の認知機能の低下を的確に予測することを発見しました。さらにこの研究から発展させた研究で、パーキンソン病の患者さん1人1人にあった運動法が、疾患の進行を抑制する可能性があることが分かりました。

今回は月田様にビッグデータを用いたそれぞれの研究内容や今後の目標についてお伺いしました。

<プレスリリース資料>

①パーキンソン病では前認知症段階で血中リンパ球が低下 -先制治療・病態解明の鍵-

②パーキンソン病における運動習慣の長期効果を確認 -進行抑制に光明、活動の種類により異なる効果-

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有病率の高いパーキンソン病

編集部:パーキンソン病についてまず詳しくお話をお伺いしてもよろしいでしょうか。

月田様:はい。パーキンソン病は有病率が高く、神経変性疾患の中ではアルツハイマー病に次いで2番目に有病率が高い疾患です。

日本の患者数は現在約15〜20万人と言われておりますが、年齢とともに有病率が上がり、65歳以上の約100人に1人がパーキンソン病にかかっています。さらに日本では高齢化に伴い、近年有病率が急激に上昇しています。

パーキンソン病は、アルファシヌクレイン凝集体というタンパク質のゴミのようなものにより、中脳の黒質という領域にあるドパミン神経細胞が減少することが主な病態と考えられていますが、他にも脳の様々な場所にある神経細胞が侵されることが知られています。

編集部:そうなんですね。具体的にはどのような症状があるのでしょうか。

月田様:はい。脳は障害されている場所と引き起こされる症状がはっきりと対応していて、どこの細胞が機能しなくなるとどういう症状が出やすいのかが結構分かるんですね。

ドパミン神経細胞が機能しなくなると、「パーキンソニズム」という運動症状がみられることが分かっています。

パーキンソニズムというのは、動きが遅くなったり(動作緩慢)、硬くなったり(筋強剛)、ふらついたり(静止時振戦)、転びやすくなったり(姿勢反射障害)する症状です。

ただ、ドパミン神経細胞以外にも脳の様々な場所にある神経細胞が徐々に侵されるので認知機能も徐々に低下していき、最終的には認知症も引き起こされてしまう可能性もあります。

しかし、パーキンソン病の患者さん全員が同じ経過をたどるわけではありません。経過は非常に多彩で、最後まで認知機能が低下しない方やほんの数年で認知症を引き起こしてしまう方もいます。

 

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最終的な目標

 

予測と先制治療

 

編集部:具体的にどのようなことを最終的な目標としているのでしょうか。

月田様:パーキンソン病における認知症に対する私の最終的な目標なのですが、私がやりたいことは、予測と先制治療です。

予測というのは、ある段階で患者さんはどのような経過をたどるのかを予測することです。なぜ予測が重要なのかというと、症状が悪化した段階で介入してもほとんど効果がないことが多いことが知られているからです。

介入に関しても、全員に手間がかかりお金がかかるような介入をすることは社会的にも人的資源にも限界があり、また患者さんの負担も大き過ぎます。

さらに1人1人に合った介入をしていかないと、あまり意味がありません。

ですので、症状が悪化する速度が速い患者さんを診断早期に同定し、早めに介入をしていく先制治療が重要になってきます。

ビックデータを用いた個別化治療

月田様:オバマ米大統領は、2015年にこれからの医療を進めるにあたってプレシジョンメディシン(個人化医療)が重要であると既に提唱しています。

これまでの通り同じ病気の患者さんに同じ薬を与えていくのは効率が悪いということで、これからは患者さん1人1人の経過を予測し、介入していこうという個別化医療が世界的にも注目されています。

特に人によって経過が多彩であるパーキンソン病に対しては、個別化医療が非常に重要になってきています。

個別化医療を行う上で、ビックデータも重要視されています。

特に患者さんの遺伝子情報や検査情報が紐づいているビックデータが重要で、そのようなビックデータがあれば、あとから見返した際に、最初の段階でどのようにすれば上手いこと予測できるのか、介入に関してはどのような治療を行った方がその後上手くいっているのかなどを調べることが出来ます。

ですので、予測をする上でも介入をする上でも、ビックデータというのは極めて重要なものになります。

研究の目的

認知機能低下を予測することの重要性

編集部:月田様の最終的な目標も踏まえて、今回の研究の目的はどういったものになりますか。

月田様:今回の研究の目的は認知症発症を予測することです。

パーキンソン病における認知症は、患者さんが自立して生活できなくなる主要因でもあります。

また、予測することが出来れば、抗認知症薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)や運動により症状を改善したり進行を遅らせることが出来る可能性があります。

つまりパーキンソン病において、認知機能低下を早期に予測し、適切な介入・治療をしていくことは特に重要になっています。

ですので、今回の研究の目的は、簡単なバイオマーカーで認知機能低下を予測する方法を探すということでした。

アルツハイマー病のリスク因子「APOEε4」

月田様:認知機能低下を予測するために必要な遺伝学的要因の話をさせていただきたいのですが・・・。

まず、知能の遺伝率は約80%と言われています。これは、ある人の知能の80%が遺伝で決定されている、ということを示すことではなく、知能に見られる個人差の80%が遺伝子の個人差によることを示すものではあるのですが、認知というものを考える上で、遺伝子の影響は無視することができません。

アルツハイマー病に最も重要だといわれている遺伝学的因子は「APOE遺伝子の型」と言われています。

APOE遺伝子の型は主に3つあるのですが、その中でも「APOE ε4」がアルツハイマー病の重大なリスク因子になっていて、日本人の約10%がこの因子を持っています。

1つこの因子を持てばリスクは約3倍で、2つ持てば約15倍にまでなってしまいます。パーキンソン病においても、「APOEε4」を1つでも持つと認知症のリスクが約1.5倍に上昇します。

しかし、「APOEε4」を持っていても認知症を発症しない患者さんも中にはいます。ですので、認知機能低下の予測にAPOEの型は重要になってきますが、それだけでは不十分であると言えます。

そこで、今回の研究ではAPOEε4と協働的に働く認知機能低下を予測できる因子はないか、ということで、APOEε4所持者において認知機能低下を予測するマーカを探索しました。

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前認知症段階での血中リンパ球の低下を発見

編集部:今回の研究の内容についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

月田様:今回の研究において重要なことの1つは、ビックデータを使用したことになります。

パーキンソン病患者を数百人規模で縦断的にフォローアップしている、国際多施設共同観察研究であるPPMI研究のデータを使用しました。

PPMI研究の特徴として、パーキンソン病患者は診断時に組み入れを行っていることが挙げられます。

その中でもAPOEε4の型がわかっており、認知機能のデータが縦断的に存在している167名のパーキンソン病患者において解析を行いました。

結果として、APOEε4保持者において、診断時の末梢血リンパ球数が低いグループは認知機能が進行的に低下していくということが分かりました。

この診断時に分かる末梢血リンパ球の認知機能低下予測能は、APOEε4保持者のみ的確でした。

また、末梢血リンパ球数が低いグループは全体の約15%であったので、1人1人に合わせた先制治療を行う上で人的資源も投入しやすいのでは、と思います。

 

編集部:世界的にも初である新たな発見があったのですね。この研究の成果をもとにした今後の展望などはございますか。

月田様:そうですね。今回の研究結果から、APOEの型と末梢血リンパ球数が分かることにより、パーキンソン病の患者さんの中から認知機能が低下してしまうハイリスクレベルの患者さんを予測することができるようになります。

これは、特定の患者さんに抗認知症薬を早期から開始できる個別化医療への応用にも繋がります。

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パーキンソン病患者それぞれに適した介入法

編集部:この研究から何か発展させて行っている研究があるとお伺いしたのですが・・・。

月田様:そうですね。今回の研究結果では予測が可能になったというだけなので、薬ではなく今すぐ出来る介入方法はあるか調べていきました。

別の研究では、運動の面で何か良い介入方法はないか考えました。

実際に外来で患者さんに、「運動や脳トレをすることが認知症予防に良いと聞くけど、いったいどのようなことをすれば良いのか?」とよく聞かれるんですよね。

ですので、パーキンソン病の患者さんにとって、どのような日常生活動作や運動が良いのかを調べていこうと考えました。

 

編集部:そうなんですね。具体的にはどのような研究を行ったのでしょうか。

月田様:先ほど申し上げたビックデータを利用して研究を行っていきました。

研究の結果として、やはりパーキンソン病の患者さんそれぞれに適した日常生活動作や運動が存在するということが分かりました。

例えば、姿勢が悪かったりバランスが悪かったりする症状がみられる人は、バランスを取り入れた中等度以上の運動が適していることが分かりました。具体的には、社交ダンスとか太極拳とかですね。

バランス感覚を使いつつ心拍数を少し上げるくらいの運動が適しているということが分かりました。

また、パーキンソン病から引き起こされる認知症の症状の特徴として、もの忘れよりも先に頭の処理速度が遅くなりやすい、つまり頭の回転が悪くなりやすいんですよね。

そのような頭の処理速度が低下しつつある患者さんには、簡単な仕事でも良いので労働を続けていただくことが適しているということも分かりました。

このような患者さんにあった日常生活動作や運動の介入をすることにより、疾患の進行を抑制する可能性があることが分かりました。

編集部:そうなんですね。この介入方法はAPOEε4を持っている患者さんのみに行う方法なのでしょうか。

月田様:そうですね。今回の研究の対象としてはパーキンソン病の患者さん全員に向けた介入方法になっています。

しかし、最近はハイリスクレベルにある患者さんにのみ介入すれば良いのではという論文も出ています。

私も将来的には、遺伝子要因やマーカを使用して認知機能の低下が起こりやすそうな人をピックアップし、その人に対して仕事を継続できるようなサポートを行ってどのくらい効くのかということを今後は行っていくべきだと考えております。

手前味噌にはなりますが、この介入方法に関しての研究はとても注目度が高く、ワシントン・ポストなどをはじめとする80個以上の世界中のニュースに取り上げられています。

それほど、世界的に日常生活動作や運動を通じて、認知症予防をしていこうという方向性が重要視されているということになります。

薬の使い方

臨床医としてのゴール

編集部:先ほども最終的な目標についてお伺いしたのですが、月田様ご自身の臨床医としての最終的な目標などはなにかございますか。

月田様:一言でいうと、予測と先制治療の開発ですね。

患者さんそれぞれの人生にあった臨床方法を確立したいという風に思っております。

薬もすごく重要なのですが、認知症の患者さんにとってはそれぞれに適した生活環境を変えることや運動を勧めることも重要になっています。

患者さんそれぞれの個人差をみて、その人に合った介入方法をデータから確立することが私の最終的な目標です。

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

月田様:認知症の方のご家族や介護をされている方は、どう接してあげれば良いのかわからないと悩まれている方が多いと思います。

患者さん1人1人にあった介入方法も説明できるようにしていきたいと思っておりますので、その場合は1人で悩まずにぜひ医者に相談していただきたい、と思っております。

京都大学大学院 医学研究科 帝京大学 先端統合研究機構 特任研究員 関西電力医学研究所 睡眠医学研究部 特任研究員

月田 和人つきた かずと

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