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トップページ>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】神経変性疾患の病因病態を分子のレベルから解き明かす

【専門家インタビュー】神経変性疾患の病因病態を分子のレベルから解き明かす

滋賀医科大学 神経難病研究センター センター長

西村正樹様

 

滋賀医科大学神経難病研究センターの西村教授の研究室では、依然として治療法が確立されていないアルツハイマー病の克服に向けた研究が日夜行われています。

中でも「神経細胞のアミロイドβ生成に対する分子制御メカニズムの解明」と「それに基づいた治療法開発に焦点を当てたプロジェクト」に注力しており、今後のアルツハイマー病克服に大きな期待が寄せられています。

今回は現在行われている研究内容や今後の研究目標、そして認知症と戦う方々への想いについて西村教授にお話をお伺いしました。

 

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「医師時代の経験がキッカケだった。」

 

編集部:西村さんが現在の研究を始めようと思った理由についてお伺いしても宜しいでしょうか?

西村様:はい。私自身、元々脳神経内科の医師だったんです。8年間ほど臨床をやっていましたが、神経難病とくに神経変性疾患とよばれる病気のほとんどは診断をつけることが難しい一方、厳密に診断をしても中々治療には結びつかないということがありました。脳疾患の特徴の一つでもありますが、治療法のない疾患が多いという状況に、もどかしさを感じていました。

そのような経験から、私は「病気の原因や病態を詳しく研究することで治療法の開発に繋げられないか」と感じるようになったんです。

そしてその当時(約30年前)、研究の進んでいた疾患といえば「アルツハイマー病」であったこともあり、アルツハイマー病を含めた認知症関連の研究を始めました。

 

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認知症分野に特化した研究センター

 

編集部:医師時代のご経験が研究を始める大きな動機だったんですね!では、次に西村様がセンター長として率いているセンターについてご紹介をお願いします。

西村様:はい。簡単に時系列順に説明していきますね。私は現在、滋賀医科大学の神経難病研究センターに所属しています。

元々は1989年に「分子神経生物学研究センター」という名称で、神経科学の基礎的な研究を行うセンターとして設立されました。その10年後に「分子神経科学研究センター」に名称を変更しました。

そして2016年、現在の「神経難病研究センター」となり、神経難病をメインに研究していくセンターになりました。

現在の神経難病研究センターは3つのユニットで構成されており、「基礎研究ユニット」・「橋渡し研究ユニット」・「臨床研究ユニット」があります。

また、センターの方向性としては、分子病態の解析を通じて創薬や診断法の開発に繋げていくことを目指しています。具体的には、分子標的薬の開発やMRIを使用したイメージングの診断薬の開発などを手掛けています。

 

分子病態の解析が予防的治療の鍵になる

 

編集部:様々な歴史を経て、現在のセンターに至るんですね。次に研究内容と研究方針についてお伺いしても宜しいでしょうか?

西村様:はい。まずは研究方針について説明しますね。以下は、多くの研究者の研究結果を元に到達した考え方であり、「アルツハイマー連続体」という概念が米国国立老化研究所(NIA)とアルツハイマー協会から提唱されたことに象徴されています。

「アルツハイマー連続体」は、アルツハイマー病を認知症の発症前から進行期まで一つの連続体として扱うことを指します。従来であれば、認知症の症状が発症して初めて診断を行い、治療を行ってきました。しかし、研究の上では各種のバイオマーカーをもとに症状が明らかになるよりも早期の時点で診断を行うようにしようということです。

つまり、分子病態に基づいた根治的な治療法は、発症の前から治療を開始しないと効果が期待できないのではないかと考えられてきており、私たちもそうした考え方を基にした方針を取っています。

 

編集部:なるほど。今後は発症してから診断・治療するのではなく、発症前から診断を行い早期治療に繋げていくことが大事だということですね?

西村様:その通りです。実際、私たちの研究では発症前からの分子病態の解析を扱っています。発症前の治療や診断に役立ち、尚且つ、バイオマーカーに使えそうな標的分子を独自に発見し、分子標的薬等の開発を目指しています。

少し具体的にお話しすると、我々の研究グループでは、ILEI(タンパク質の一種)の機能メカニズムを利用した治療薬の開発を行っています。ILEIは、アミロイドβの産生を抑制し、発症を抑えるタンパク質であり、健康な人間の脳に発現しています。ところが、老化やアルツハイマー病により、このレベルが減少してしまいます。

そこで、ILEIと同じ働きをする薬剤を開発することが出来れば、アルツハイマー病の発症を防ぐことが出来る可能性が期待できます。

こうした薬剤の開発も目指しています。

 

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「加齢に対する積極的な研究も行っていきたい。」

 

編集部:ILEIのメカニズムを利用した薬剤が出来れば、アルツハイマー病発症を予防できる可能性が高まりそうですね!その他になにか関連した研究は行っているのでしょうか?

西村様:ご存知の通り、アルツハイマー病は脳内にアミロイドβやタウたんぱく質が蓄積し、神経細胞を破壊することで発症します。しかし、アルツハイマー病の最大の危険因子は「加齢」なんです。

これは、古くから知られた事実ですが、実は、老化がどういったメカニズムでアルツハイマー病を引き起こすのか、あるいはかかりやすくするのかはほとんど分かっていません。

そこで我々は、一定の月齢になると脳にアミロイドが溜まってくるモデルマウスを使用して解析を行っています。そこでは次のような結果が出ました。

①アミロイドの溜まる時期のモデルマウスに若いマウスの血液を循環させると、アミロイド沈着が遅れる。

②逆に老齢のマウスの血液を循環させるとアミロイド沈着が早まる。

つまり、老化に伴って血液中に増えてくる何らかの因子が存在し、それが脳のアミロイド沈着を早める可能性があるということです。または、その逆で脳のアミロイド沈着を遅らせる因子が加齢と共に減少することでアミロイド沈着が進んでしまうのかも知れません。

 

編集部:そうなんですね!「アンチエイジング」もアルツハイマー病を予防する上で重要な要素であり、老化のメカニズムが分かればアルツハイマー病の解明に近づくわけですね!

西村様:はい。ただ、現状は因子の存在が解明できていませんが、今後の研究でそうした因子の解析を進めていきたいと思っています。

 

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「予防的治療に焦点を当てた研究を行っていきたい。」

 

編集部:では、次に現在の研究を活かして、今後どういった研究や活用の仕方をしていきたいのかを教えてください。

西村様:そうですね。私としてはやはり、「かかってからの治療ではなく、かかることを予測した治療(予防的治療)」が理想であり、特にアルツハイマー病では大事だと考えています。

そのためにも、更に分子解析を進め、分子レベルにおける危険因子発見などを目指していきたいと考えています。おそらく、分子レベルでは危険因子が多数あるのではないかと推測しています。実際、ゲノム上の変異によって発現の変化する危険因子だけでもたくさん発見されているんですよ。

なので将来的には、ある程度の年齢になると、みんなが血液検査を受け、その結果から「あなたには○○の危険因子が出ているので、○○の治療をしましょう」といった予防的治療が出来るように目指していきたいです。

編集部:なるほど!予防的治療が出来るようになれば、どの分野の病気においても早期発見・早期治療を目指すことが出来ますね!ありがとうございます。

 

薬の使い方

「基礎研究が少しでも皆様のお役に立てればと思います。」

 

編集部:ここまで様々な研究内容等をご教示いただきありがとうございました。では、最後に、健達ねっとを見ている方々へメッセージをお願い致します。

西村様:そうですね。私たちが目指していることは、分子解析を通じて、少しでも「発症を減らし、加えて発症した後でも何らかのメリットがある」ような研究を行い、皆様にとって少しでも役に立つような研究を行っていくことです。今後、更に日々精進し、将来皆様のお役に立てればと思っています。

滋賀医科大学 神経難病研究センター センター長

西村 正樹にしむら まさき

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