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トップページ>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】軽度認知症からアルツハイマー病を発症する予測システムを開発

【専門家インタビュー】軽度認知症からアルツハイマー病を発症する予測システムを開発

島根大学医学部内科学講座内科学第三 脳神経内科 教授

長井篤様

島根大学医学部内科学講座内科学第三 脳神経内科では最新の分析技術を駆使した研究と融合し、新たな臨床エビデンスや診断・治療法の開発を行っています。

今回は教授の長井篤様に、これまでされてきた数多くの研究の中から、軽度認知症からアルツハイマー病を発症する予測システムを開発されたことについてお話をお伺いしました。

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システムを開発するに至った経緯

編集部:長井様の研究室で、アルツハイマー病を発症する予測システムを開発するにいたった経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか。

長井様:はい。認知症と向き合う上で介護なども大事ですが、一番理想的なことは認知症を発症しないようにすることです。

そうはいってもやはり、認知症をすぐに防ぐことは難しいので、まずは認知症の早期発見から出来るようにしていこうと考えました。

現在、認知症に寄与する様々な因子は分かってきています。(図1)

図1:認知症に寄与する因子

ですので、認知症を発症することが早期に分かれば、早い段階からケアすることが出来るようになります。

実際のデータから、軽度認知障害を持っている方のうち10%の方は認知症になっています。(図2)

図2:軽度認知障害から進まない率

その一方で回復される方もいらっしゃいます。しかし、認知機能が悪化する方と回復する方との違いはまだ正確には分かっておりません。

そこの分岐点でなにか対策は出来ないか、と思い研究を始めました

編集部:軽度認知障害が回復することもあるんですね。

長井様:はい。軽度認知障害があると診断された方が実際に運動など行い努力をした結果、回復したというケースもあります。

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アルツハイマー病発症を予測するシステム

 

長井様:認知症になったら画像的にも海馬の萎縮が見られます。臨床の場ではMRIをとって海馬の萎縮がどのくらいあるのか画像を見れば分かりますが、アルツハイマー病になる危険度を正確に評価することは出来ていません。

また、アミロイドβが蓄積することにより神経細胞がなくなってくると灰白質が縮んでいくことが画像を見れば分かるのですが、軽度認知障害を持っている方はそれが顕著ではないし実際に見ても分かりません。

そこで、まずMRIの大脳皮質を246箇所に分け、1つ1つ萎縮度を評価することをして、それを機械的に測定できるようにシステムを作り上げました。

私たちの内科学第三講座は30年以上前から日本に先駆けて脳ドックを始めておりまして、多くの人のMRIデータが蓄積されています。

このデータを使用することで、先ほどの萎縮度を詳細に分析できるシステムを使ったときに、たとえば5年後に認知症になった人の当時のデータはどのようなものだったのかという経時的変化を明らかにしていくことが出来ました。

また、実際に認知症になった人のデータを用いて、どこの領域が縮んだのかを深層学習という形でAIに学習させ、分析できるようにしました。

そして、かなり高い約80%の確率で認知症になる人を予測できるようなシステムを作り出しました。

軽度認知障害が認知症になる時期を予測できるようなシステムを作り出したのは、世界初の研究になります。

このシステムが、脳の現在の萎縮パターンからAD発症確率を算出するDSA(Deep survival analysis:深層生存分析)になります。

DSAを用いると早い段階から生活指導などを行うことができ、認知症を発症する前に早く手が打てるようになります。

 

編集部:今回の研究から発展させてなにか行っていることはございますか。

長井様:学研と共同で、頭を使いながら運動をするシナプソロジーと我々が開発したシステムを使用して認知機能は良くなっていくのかについて研究を行っています。まだ研究は途中なのですが印象としては良い感触です。

今回の研究は運動だけですが、運動だけではなく、食生活や睡眠などの生活因子を改善することで脳機能を元に戻し、認知症を減らすことが出来ればと思います。

現在脳ドックの際に、AIを使った認知機能テストを行うことで認知症になる危険度を導き出すことを、希望者に対しては出来るようにしています。

また、脳ドックを何回も受けている方に活動量計を実際に付けていただいて、その方の日常行動をモニターした時にどういった行動が認知症になりやすいのかを分析し、将来的な展望としてはその分析結果を利用して認知症を防いでいこうという取り組みを行っています。

 

編集部:最終的な目標やゴールなどございますか。

長井様:目標はたくさんありますね。ただ、予防と診断と治療の3つの面でしっかり研究を行っていきたいと考えています。

診断という意味では、今のMRIを用いた診断や認知機能テストがあります。

もう1つ臨床的な領域にはなりますが、脳ドックを使って口の中の細菌を調べていきたいと思っています。

口の中には細菌がいっぱいいて、その細菌は必要なものなのですが、口から血流に入っていき悪さをすることが原因で認知症や脳卒中を発症する場合があります。

その発症を防ぐために分析していきたいですね。

さらに血中の脂質代謝やリン脂質に異常がないかどうか、脳ドックに加えて診断して、総合的に認知症の早期診断というものに結び付けていきたいです。

予防という意味では運動などの生活習慣を指導するということがあります。

基礎的なところとしては、アミロイドを溶かすような物質を現在開発しておりまして、そういったものを薬で投与したりして、脳内のアミロイドをなくしていきたいですね。

普段から口に出来るようなもので、アミロイドが溜まるのを防ぐような物質がないかを動物実験などを使って研究しています。

そのような研究や取り組みを組合せて、認知症になる前に回復できる健康な未来を築いていきたいと思っています。

 

編集部:地域で行っている取り組みなどはあるのでしょうか。

長井様:はい。県全体で協力していきながら認知症サポート体制を築き挙げていきたいと思っております。(図3)

開業医の先生や地域のサポート医の先生とも定期的に連絡会を開きながら行っています。

認知症を発症してからのケアについても共有するようにしています。

図3:県全体で協働する認知症サポート体制

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

 

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

長井様:そうですね。

認知症の方は、認知症として生きていくという心構えが大事だと思います。

また、ご家族の方からの支えや社会的なサポートによって、認知症になってからも病気を進ませないようにすることも必要だと思います。

研究の面では、ある程度脳の萎縮パターンも決まっており、色んな因子の中で防いでいくことが出来るので、さらに調べていきたいと思っております。

私たちも認知症を防いでいけるよう研究に努めてまいりますので、私たちの成果も期待していただければ、と思います。

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島根大学医学部内科学講座内科学第三脳神経内科教授

長井 篤ながい あつし先生

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