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【専門家インタビュー】解剖学から認知症の予防法・治療法を探る

札幌医科大学医学部解剖学第二講座 講師

中野正子様

 

厚生労働省が公開している「認知症の人の将来統計について」によると、2025年には5人に1人、2040年には4人に1人の方が認知症になる可能性があると言われています。

認知症は社会問題であるが、その根本原因や治療法についてはわかっていない部分が多いです。

そんな認知症の問題に対して、解剖学を通じて解決しようとしている人たちがいます。

今回はそのうちの1人、札幌医科大学医学部解剖学第二講座の講師、中野正子様にお話を伺いました。

解剖学第二講座の研究内容について

 

編集部:中野様の講座では、主に4つのテーマについて研究していると伺いました。

  • 献体脳標本における死後脳所見と生前の認知機能との関連性の検討
  • 刺激豊かな環境での飼育が認知機能に与える効果についての検討
  • 骨髄間葉系幹細胞によるアルツハイマー型認知症に対する有効性の検討
  • マインドフルネスストレス低減法による認知症発症抑制効果の検討

まずは、「献体脳標本における死後脳所見と生前の認知機能との関連性の検討」について、内容をお教えいただけますでしょうか?

1.「献体脳標本における死後脳所見と生前の認知機能との関連性の検討」について

 

中野様:札幌医科大学に献体登録してくださった方がお亡くなりになった後、脳を解剖し、認知症の原因が何であるかを研究しています

これまで脳を観察する中で、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβやタウが脳に溜まっていても、生前認知症の症状がなかった方がいらっしゃることが分かりました。

そういった方の脳を調べることで、認知症の予防や治療に役立つのではないかという観点から研究をしています。

編集部:なるほど、貴学のホームページを拝見した際に、脳病理と生前の症状の乖離にはアストロサイトという細胞が関わっているという記述があったのですが、アストロサイトとはどういった細胞なのでしょう?

(中野様の講座内容について|札幌医科大学第二講座)

中野様:簡単に申し上げると、神経を保護するような細胞です。

アストロサイトにはたくさんの足突起があり、神経に栄養を与え、シナプスの毒性物質を吸収する役割があります。

これまで、生前認知症の症状が見られなかった方のアストロサイトには、認知症が見られた方に比べて、足が多く存在していることを、教授の藤宮が発見しました

アストロサイトの足には、グルタミン酸トランスポーターGLT1という物質が存在しており、シナプス間の毒性物質を吸収する働きをしています。 生前認知症の症状がなかった方では、認知症が見られた方に比べて、GLT-1の発現も高いことも分かりました1) 

編集部:なるほど、どうしてGLT1の発現が多くなるのでしょうか?

中野様認知症の症状がなかった方の遺族に話を聞いたところ、生前は「老人会の会長をしていた」「多数の趣味を持っていた」など、心身ともに活発に生活をされていた方が多くいらっしゃいました。これらの事象から、活動的な生活を送ることが、GLT-1の発現を高める可能性を考えています。

現在進行形で、献体登録していただいている方の生活習慣や認知機能生前から調査させていただいておりまして、その方々が亡くなったあと、脳を解剖するといった研究を進めています。この研究から、どのような生活習慣が、症状を発症させないために重要なのかを、より詳細に調べていこうと思っています。

編集部:この研究が2つ目のテーマ「刺激豊かな環境での飼育が認知機能に与える効果についての検討」にもつながっていると思うので、次のテーマについて参りましょう。

2.「刺激豊かな環境での飼育が認知機能に与える効果についての検討」について

 

編集部:こちらは具体的にどういった研究内容なのでしょうか?

中野様ヒトの脳の研究から、活動的な生活を送ることが、認知症の予防に重要であると考えていますが、そのメカニズムを調べるために動物実験を行っています。

具体的には、動物に活発な生活を送ってもらうため、迷路や玩具などの刺激が多い環境を設定し、その状況下でマウスを飼育させています。

これまで、糖尿病やアルツハイマー型認知症のモデル動物を、刺激豊かな環境で飼育したところ、認知症発症が抑制されることが分かりました。またこれらの動物の脳を調べたところ、アストロサイトの炎症も改善していることが分かりました2)3)

3.「骨髄間葉系幹細胞によるアルツハイマー型認知症に対する有効性の検討」について

 

編集部:骨髄間葉系幹細胞とはどういった細胞なのですか?

中野様iPS細胞とは違うのですが、骨髄内に存在する体性幹細胞で、いろいろな細胞に分化できる能力を有した細胞です。

また骨髄間葉系幹細胞は、組織修復に有効な様々な物質を、分泌することが知られています。

これまで私たちは、骨髄間葉系幹細胞を、糖尿病やアルツハイマー型認知症モデル動物に投与する実験を行っています。その結果、骨髄間葉系幹細胞は、アストロサイトの炎症や、認知機能を改善させることが分かりました4)5)

編集部:なるほど、骨髄と聞くと取り出すのが難しいように思えるのですが、実際はどうなのでしょうか?

また、他人の骨髄を使用しても問題ないのでしょうか?

中野様:おっしゃるように、骨髄から間葉系幹細胞を取り出そうとすると、患者さんにとって負担になってしまいます。

ただ、間葉系幹細胞は免疫反応が起きにくい物質ですので、他の方の細胞を使った治験も行われています。

また骨髄以外にも、脂肪や臍帯にも間葉系幹細胞は存在しているので、これらの細胞も研究によく使われています。

編集部:この研究に関しては、実際に人間で実験は行われているのでしょうか?

中野様間葉系幹細胞のアルツハイマー型認知症に対する治験は、海外ではすでに行われているようですが、日本国内ではまだ行われていないと認識しています。

私達は、これまでの結果を踏まえて、安全でかつ有効な治療法の開発を、日本でも目指していきたいと考えています。

4.「マインドフルネスストレス低減法による認知症発症抑制効果の検討」について

 

編集部:マインドフルネスストレス低減法とは具体的にどういったことをするのでしょうか?

中野様:私はもともと心療内科の出身ですが、心豊かに生活できる方法の一つとして、マインドフルネスストレス低減法に注目した研究も行っています。

このマインドフルネスストレス低減法とは、瞑想法の一つで、具体的には呼吸への集中やヨガなどが行われます。

私達は、このマインドフルネスストレス低減法が、高齢者の認知機能に有効であるかという研究を行いました。

編集部:実際に効果検証まで進んでいるのでしょうか?

中野様マインドフルネスストレス低減法が、認知機能に有効であることは、海外ですでに報告されていますが、私達もその効果を確認いたしました。

編集部:どうして効果があったのでしょうか?

中野様私たちは、効果の理由を調べるために、参加者から採血を行いました。血液には、脳由来の物質も含まれていることが知られています。私たちは、血液を調べることで、脳由来のマイクロRNA-29cという物質が、マインドフルネスストレス低減法によって増加することを見出しました6)。この物質の増加により、脳内の神経が死ににくくなったと考えられました。

研究にかける思い

 

編集部:認知症に関する研究を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

中野様:もともと中高生の時に脳に興味がありました。

他の臓器についてはわかっていることが多かったのですが、脳に関してはまだまだブラックボックスな部分が多かったため、それを解明したいと思いました。
また、医療や医学に興味があり、医学部に進みました。

医学部卒業後、研修医の時に、認知症の患者に根本的な治療ができないことでもどかしい思いをしました。
こういった経験やもともと脳に興味があったことも相まって、認知症の研究に身を置きました。

編集部:なるほど、中高から脳に興味があったなんて、すごいです(笑)
それでは、今後の中野様の目標を教えてください。

中野様:1つはアミロイドβが溜まっていても、認知症にならない方法を見つけることです。
もちろんアミロイドβを減らすためのお薬も開発されているのですが、お金がかからず、安全にできる予防法を見つけ、そのメカニズムを解明したいと思っています。

2つ目は、認知症になってしまって、治しようのない方の治療法を見つけることです。
認知症になり、希望が見えなくなってしまった方は結構いらっしゃいます。そういった方たちに少しでも希望を見せたいというのが私の思いです。

健達ねっとをご覧いただいてる方へのメッセージ

 

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

中野様:私は直接認知症の方を診療する機会は少ないのですが、認知症と戦っている患者さんや家族の方々を、心から応援しています。
私たちは、研究を通して、認知症の根本原因を探り、認知症の方の悩みを解消できるように頑張ります。

 

1) Kobayashi E, Nakano M, Kubota K, Himuro N, Mizoguchi S, Chikenji T, Otani M, Mizue Y, Nagaishi K, Fujimiya M. Activated forms of astrocytes with higher GLT-1 expression are associated with cognitive normal subjects with Alzheimer pathology in human brain. Sci Rep. 2018 Jan 26;8(1):1712.

 

2) Kubota K, Nakano M, Kobayashi E, Mizue Y, Chikenji T, Otani M, Nagaishi K, Fujimiya M. An enriched environment prevents diabetes-induced cognitive impairment in rats by enhancing exosomal miR-146a secretion from endogenous bone marrow-derived mesenchymal stem cells. PLoS One. 2018 Sep 21;13(9):e0204252.

 

3) Nakano M, Kubota K, Hashizume S, Kobayashi E, Chikenji TS, Saito Y, Fujimiya M. An enriched environment prevents cognitive impairment in an Alzheimer’s disease model by enhancing the secretion of exosomal microRNA-146a from the choroid plexus. Brain Behav Immun Health. 2020;9:100149.

 

4) Nakano M, Nagaishi K, Konari N, Saito Y, Chikenji T, Mizue Y, Fujimiya M. Bone marrow-derived mesenchymal stem cells improve diabetes-induced cognitive impairment by exosome transfer into damaged neurons and astrocytes. Sci Rep. 2016 Apr 22;6:24805.

 

5) Nakano M, Kubota K, Kobayashi E, Chikenji TS, Saito Y, Konari N, Fujimiya M. Bone marrow-derived mesenchymal stem cells improve cognitive impairment in an Alzheimer’s disease model by increasing the expression of microRNA-146a in hippocampus. Sci Rep. 2020;10(1):10772.

 

6) Hashizume S, Nakano M, Kubota K, Sato S, Himuro N, Kobayashi E, Takaoka A, Fujimiya M. Mindfulness intervention improves cognitive function in older adults by enhancing the level of miRNA-29c in neuron-derived extracellular vesicles. Sci Rep

. 2021;11(1):21848.

 

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