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【専門家インタビュー】認知症予防サプリメントの開発研究の紹介

北海道大学・大学院薬学院・認知症先進予防・解析学分野

特任教授 鈴木利治様

客員教授 駒野宏人様

北海道大学大学院薬学研究院認知症先進予防解析学分野では、認知症予防につながる共役リノール酸についての研究を行っています。特任教授 鈴木利治様と客員教授 駒野宏人様に詳しくお話をお伺いしました。

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研究内容の紹介

編集部:行っている研究の目的と概要を教えていただけますでしょうか?

駒野様:はい。認知症を予防するサプリメントや薬として、共役リノール酸(CLA)が有効であるかどうかの研究を行っております。

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研究を始めた経緯

編集部:研究分野の背景と研究を始めた経緯を教えていただけますでしょうか。

鈴木様:認知症の患者は10年弱前の統計でも全国で約462万人おりまして、全世界では韓国とかバングラディシュの人口と同じくらいいます。
7割ほどがアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)なのですが、現時点でアルツハイマー病の症状を改善できる治療薬は存在しません。
現時点で処方されているのは、対処療法剤しか処方されていません。根本治療薬(疾患修飾薬)の開発は進められていますが、国は新オレンジプランとして、認知症の予防と共生の社会を実現する方針を打ち出しています。

しかし現状、予防法はいろいろ紹介されているのですが、科学的エビデンスに乏しいものが多い状態にあります。このような経緯から、私も駒野教授も、科学的にしっかりしたエビデンスに基づいた予防に力を入れることが重要であると考え始めました。

駒野様:共役リノール酸(CLA)に着目した理由なのですが、私と鈴木教授は大学院の時に昆虫の自然免疫の研究を行っていました。
使っていた材料であるセンチュニクバエというハエの幼虫にはCLAが多く含まれていることがわかってきました。

これがそもそものこの物質に着目したきっかけでした。興味深いことに、この物質は、牛などの反芻動物の胃のなかに生息する共生菌や、あるいは乳酸菌などの腸内細菌も産生しています。
また、その生理作用の研究も進められてきおり、このCLAには発癌抑制作用や、免疫調節作用、ダイエット効果、動脈硬化予防効果などがあることがわかってきました。
しかし、CLAが脳機能にどう影響するかはわかっていませんでした。
それで、私たちは、このCLAが認知症に効くかどうか科学的なエビデンスに基づいて検証しようと考え、4〜5年前に研究を始めました。

CLAの効果の検証

編集部:研究をしていく中で行った実験とその結果があればお願いします。

駒野様:認知症の動物モデルにCLAを食べさせる実験を行いました。

まず、その前に、アルツハイマー病の原因を紹介したいと思います。
アルツハイマー病の脳内ではアミロイドベータ(Aβ)というたんぱく質が海馬や大脳皮質に蓄積することがわかっています(海馬や大脳皮質は、認知や記憶など高次機能を司る脳領域です)。
この物質そのものに神経毒性があるのですが、蓄積が進行してくると、免疫系が活性化し、結果として脳内で炎症がおきます。
この炎症による海馬や皮質の神経細胞の損傷が、アルツハイマー病の重要な原因の一つです。

私たちの行った実験ですが、Aβが蓄積する認知症マウスモデルに、精製した高純度のCLAの一種、c9,t11-CLAを約半年間食べさせました。
半年後それらのマウスの脳を調べた結果、c9,t11-CLAを食べさせたマウスではAβの蓄積の減少が認められました。
さらに、Aβを除去するミクログリアという細胞も増えていて、それに伴って炎症を抑制する効果のある免疫物質も増えていることがわかりました。
この結果は、c9,t11-CLAを食べることで、人間のアルツハイマー病の予防になるかもしれないということを示唆しています。

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CLAを摂取できる食べ物

編集部:c9,t11-CLAを摂取できるサプリメントや食べ物はあるのでしょうか?

鈴木様:はい、あるにはあります。
しかし、精製された高純度のc9,t11-CLAを摂取しなければ体に悪影響を与えてしまうかもしれないため、注意が必要です。
例えば、CLA中に含まれる別のCLA, t10,C12-CLAは、アメリカなどでダイエット効果があるサプリメントとして販売されていますが、なくなった体脂肪が肝脂肪に変わってしまっているかもしれないということが言われています。
マウスにt10, c12-CLAを食べさせた実験において、体脂肪がなくなった代わりに肝脂肪が増えてしまったからです。
実験では肝脂肪が増えたマウスでは、不安の情動行動が増加している結果が示されています。
小型の齧歯類であるマウスでの結果が大型の霊長類であるヒトに完全に反映されるかどうかはわかりませんが、科学的に安全であると証明された成分のみ摂取しないと体に悪影響が及ぼされる可能性があります。

また、c9, t11-CLAが含まれている食べ物としてバター、肉、ヨーグルトなどの反芻動物の製品が挙げられます。しかしながら、これらの食べ物に含まれているc9, t11-CLAの量は非常に微量であるため、アルツハイマー病の予防としての効果は得難いのではないかと考えられます。

駒野様:不純物の少ない高度に精製されたc9,t11-CLAがアルツハイマー病予防に効果があると証明できれば、c9,t11-CLAを多く含む食べ物などから抽出して、この物質を精製しサプリメントにすることができるかもしれません。

健達ねっとECサイト

今現時点でできる認知症予防

編集部:今現時点でできる、認知症の予防はどのようなものがあるのでしょうか?

駒野様:明確に効果があるとされている認知症の予防としては、現時点では、疫学調査から、主に適度な運動の習慣をもつことと社交性が重要であると言われています。食べ物にも予防効果があるかもしれないというものがいくつかしられています。

鈴木様:効果があるかもしれないと言われている食べ物としては、地中海食、オリーブオイル、ヨーグルト、ワイン、カレーなどの、抗酸化成分が入っているものが挙げられます。

薬の使い方

健達ねっとを見ている方々に向けたメッセージ

編集部:最後に、健達ねっとを見ている方々に向けたメッセージをお願いします。

鈴木様:もし読者の方に老人施設の関係者の方がおられたら、行って欲しいと思っていることがあります。
施設の中には、認知症が始まっている方のケアをしている施設もあればケアを十分には出来ていない施設もあると思います。
頭や体の体操のようなケアをしないと認知機能の低下にもつながってしまいます。
考えさせるように接するとか感動を与えるように接することが、認知機能を保つことにつながるため、現場で働いている方々には、このようなケアすることを意識して接して欲しいと思います。
また、サプリメントを作っている方に向けて、科学的エビデンスの乏しいサプリメントも多いように見受けられるため、エビデンスに基づいた製品を製造してほしいと思います。

駒野様:読者の皆様には、認知症が単なる物忘れと違うという認識を持ってもらいたいと思います。
物忘れは、ヒントをだせば思い出すことができますが、認知症では、神経細胞がこわれているため記憶が完全にないために、ヒントを出しても記憶が戻ることはありません。
そのため、認知症の方が不自然な言動をとった際には、このことを考慮し、そのことを受け入れてあげる優しい対応をするよう心がけてほしいと思います。
また、認知症予防としては激しすぎない適度な運動と社会的な活動、そして知的な活動が非常に重要です。そのため読者の皆様には、好奇心をもっていろいろなことに挑戦したり、運動をする習慣をもってほしいと思います。

北海道大学大学院薬学院 認知症先進予防・解析学分野 特任教授

鈴木 利治すずき としはる先生

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