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サルコペニア&フレイル予防~幸福長寿を目指す~

大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学

鷹見洋一 先生・樂木宏実 先生

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筋力低下の「サルコペニア」と要介護一歩手前の「フレイル」に注意を

健やかに長生きする“健康長寿”だけでなく、多くの高齢者が「いい人生だった」と最期を迎える“幸福長寿”を達成することは、超高齢社会のわが国の大きな目標といえます。それを実現するためには、認知症の予防に加え、今回お話しする「サルコペニア」と「フレイル」の予防が必要になってきます。

老化現象の一つとして“筋肉量の減少”が挙げられますが、それとともに日常生活における動作、たとえば階段の上り下りが困難になるなど、日常生活に支障が出るほどの症状が現れるのが「サルコペニア」です。その診断は、筋力、歩行速度、筋肉量の低下などによってなされます。
また、高齢者の病態を示す概念で、サルコペニアと並んで「フレイル」という言葉も聞かれたことがあると思います。フレイルとは、“健康な状態”と“介護が必要な身体機能障害がある状態”の、中間的な段階です。
ここで重要なのが、フレイルの段階にあっても、適切な対応をするとまた健康な状態に戻ることができるということ。しかし、フレイルの段階をそのまま放置すると、ささいな病気やストレスをきっかけに、要介護状態となる可能性があります。高齢者にとっては、非常に重要な段階といえます。

フレイルの有無をチェックする項目として、

  1. 「疲れやすくなった」という主観的な疲労感
  2. 半年で2~3㎏以上の、意図していない体重減少
  3. 「外に出るのが面倒くさくなった」という活動性の低下
  4. 歩行速度の低下(通常秒速1.0m未満)
  5. 握力の低下(男性26㎏未満、女性18㎏未満)

があります。この5つのうち、3つ以上を満たすのが「フレイル」という状態です。
また、フレイルはサルコペニアなどの身体的な問題のほか、認知症やうつなどの精神・心理的な問題、独居や経済的な問題、閉じこもりなどの社会的な問題も関わって引き起こされるものでもあります。

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認知症とも深い関わりがある

高齢者では、フレイルがあると認知機能が低下しやすく、認知症が発症しやすいことがわかっています。一方で、認知機能の低下があると、身体活動量や筋力が低下し、サルコペニアやフレイルになりやすいこともわかっています。つまり、認知症とサルコペニア、そしてフレイルは、お互いに関連しているといえます。
さらに、フレイルと認知症を合併すると、日常生活で必要な動作(炊事・洗濯、金銭管理、買い物などから、入浴や排せつ、食事など、ごく身の回りのことまで)や、身体機能が低下しやすく、死亡率が高くなることもわかっています。

フレイルや認知症を予防・改善する確実な方法は、今のところ明らかになっていません。しかし、適度な運動、バランスのとれた栄養、必要な薬の内服、社会的な活動を組み合わせることによって、サルコペニア、ひいては、フレイルや認知症を予防・改善できる可能性があります。
特に、現在のコロナ禍においては、このあと説明するように、さらにその重要性が増しているといえます。

コロナ禍でのサルコペニア&フレイル予防、4つの心得

現在、未だ終息を見せない新型コロナウイルスは、高齢者のサルコペニアやフレイルの状態に大きく影響することが問題となっています。
新型コロナウイルス感染症は、高齢者では重症化しやすいことが明らかになっており、手洗いや手指消毒を中心とする感染予防がとても重要です。しかし、感染を恐れるあまり、外出を控えすぎて閉じこもりがちになるという、いわゆる「生活不活発」が高齢者の健康に与える影響について、日本老年医学会から注意喚起がなされています。

実際に私の外来でも、高齢の患者さんが感染を恐れ、家に閉じこもる様になり、その結果、身体機能や認知機能の低下がさらに悪化しているのをしばしば見ています。また、自宅で転倒し、頭部を打撲したり、骨折を起こし、寝たきりに近い状態になってしまった患者さんもいます。

老年医学会では、コロナ禍においてフレイル進行を予防するために、具体的に以下のことを推奨しています。

【心得①】動かない時間を減らし、自宅でもできるちょっとした運動で体を守りましょう

ラジオ体操やスクワットなどのレジスタンス運動(*1)など、自宅でも簡単にできる運動でも、サルコペニアや、関節がかたくなるのを防ぐ効果が期待できます。天気のよい日は、人混みを避けての散歩を日課にすることも、気軽にできておすすめです。

【心得②】しっかり食べて栄養をつけ、バランスの良い食事を

食生活の改善は免疫力を維持します。特にたんぱく質は、筋肉をつくるための重要な栄養素です。しっかりととることが大切です。

【心得③】口を清潔に保ち、しっかり噛んで、できれば毎日おしゃべりを

毎食後、寝る前の歯磨きを徹底し、義歯の掃除もしっかり行ってください。一日3食、しっかり噛んで食べましょう。
また、自粛生活で人と会話をする機会が減り、お口の力が衰えることもあります。家族との会話、電話での友達との会話などを意識して増やしましょう。

【心得④】家族や友人との支え合いが大切です

社会的な孤立を防ぐことが重要です。外出しにくい今だからこそ、家族や友人の互いの支え合いが大切なのです。買い物や生活の支援、困ったときに頼る相手を、あらかじめ考えておくとよいでしょう。

このように、高齢者にとってサルコペニアやフレイルは要介護状態の前段階であり、その見極めが不可欠です。認知機能の低下とも相互に関連します。また、これらを予防し、改善するためには、ご自身の日頃からの心がけのみでなく、家族や友人、地域の協力も必要となってきます。“幸福長寿”の達成には、このサルコペニアとフレイルを予防することが、もっとも大きな課題の一つであるといっても過言ではありません。

 

【注釈一覧】

*1) 筋肉に負荷をかける動作を繰り返し行い、筋肉を鍛える運動。

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薬の使い方

大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 助教

鷹見 洋一タカミ ヨウイチ

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