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トップページ>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】高齢者入居施設における終末期ケアについて

【専門家インタビュー】高齢者入居施設における終末期ケアについて

鈴鹿医療科学大学 看護学部看護学科 教授

田中和奈様

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研究内容について

編集部: 「高齢者入居施設における終末期ケア」についての研究内容と研究結果について教えてください

田中様:認知症高齢者グループホームで終末期ケアを提供する上での問題点などの現状把握のために、入居者の看取りを行った経験のあるグループホームの介護職員とそのグループホームと連携し、看護サービスを提供した訪問看護ステーションの看護師に対してのインタビュー調査を行いました。

その結果から、入居者の急変への対処方法について不安に思っている介護職員が多く、職員が研修会へ参加し終末期ケアの知識を向上し、入居者の急変に落ち着いて対応できる環境の整備が必要であることがわかりました。また、終末期ケアでは入居者の疼痛管理が重要となるため、介護老人保健施設における疼痛管理の実態調査を行いました。

日本の介護老人保健施設500施設に勤務する看護師を対象としたこの調査では、7割以上の看護職が高齢者の疼痛評価を適切に行う自信がないと回答しており、約5割の看護職は入居者の疼痛評価を行っていませんでした。

また、看護職の多くは、認知症のある入居者の方の場合、痛みを感じているかの判断が困難であるため、認知症高齢者の疼痛評価を行うことは難しいと考えていることがわかりました。そのため、認知症高齢者のための疼痛評価ツールを開発し、高齢者入居施設に勤務する職員を対象とした疼痛管理に関する研修会を行いました。これらの研究結果は、国際アルツハイマー病協会の国際会議で発表を行いました。

編集部:研究を行った経緯を教えてください

田中様:私はイギリスの有料老人ホームと国立病院で看護師として勤務していたことがあるのですが、イギリスでは「高齢者は何らかの痛みは有する」という認識が強く、特に痛みの訴えがない高齢者に対しても日常業務として疼痛評価を一日4回必ず行っていました。

しかし、帰国後に日本の病院や高齢者入居施設で看護職として復職した際に、日本の高齢者の方の多くが鎮痛薬を処方されておらず、高齢者に対して定期的な疼痛評価を行っている看護師が少ない状況に非常に驚きました。高齢者入居施設で終末期ケアを行う場合、疼痛管理は非常に重要となります。イギリスと日本での看護師としての経験から、日本の高齢者の疼痛管理の現状を改善したいと思ったのが研究を行うきっかけとなりました。

編集部:田中様はイギリスでの看護経験からパーソンセンタードケアの重要性に気づかれたということですが、パーソンセンタードケアとは何でしょうか?

田中様:パーソン・センタード・ケアとは、イギリスのブラッドフォード大学のトム・キットウッド教授が提唱した、認知症をもつ人を一人の「人」として尊重し、その人の生活歴や習慣、趣味などの背景に着目してケアを行おうとする認知症ケアの一つの考え方です。

イギリスでは、1990年代後半から看護の現場で導入されており、日本の厚生労働省にあたるイギリスのDepartment of Healthが定めた、National Service Framework for Older Peopleという高齢者看護についての国の規定にもこのケア理論が8項目のうちの一つに挙げられています。私の働いていたイギリスの国立病院でも患者自身が複数の選択肢から当日の食事のメニューを選べたり、就床時間を自分で決められるようにしたりなどできる限り多くの選択肢を患者に与えられるように努力していました。

編集部:田中様が考える貴研究の意義を教えてください

田中様:高齢者の場合、認知症などの認知機能障害のために意思の疎通が困難な場合も多く、そのために的確な疼痛緩和処置を受けられない可能性が高いです。

有料老人ホームや特別養護老人ホームなど医師が常駐しない入居施設の場合は、疼痛評価を看護職が的確に行うことが高齢者の終末期ケアの質改善には必要不可欠です。日本の高齢者入居施設で勤務する看護職が自信をもって入居者の疼痛管理が行えるように、開発した疼痛評価ツールを活用してもらえればと考えています。

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今後の目標について

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

田中様:日本政府は多文化共生社会の形成を推進していますが、近年では在留外国人の高齢化が進んでいます。住み慣れた土地を離れて老後生活することは、異文化環境への適応や言葉の壁、福祉サービスを利用する上での問題など困難を伴うことも多いことが予測されます。そのため、在留外国人高齢者の介護支援モデル構築に向けた研究を今後行う予定です。

編集部:貴分野の最終的な目標を教えてください。

田中様:高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせる介護支援モデルの構築を目指しています。

健達ねっとのユーザー様へ一言

編集部:認知症の方が家族におり、自宅で介護を行なっている方はどういったことを意識して介護をしていくべきなのでしょうか?

田中様:体の痛みなどの身体的な不調や環境の変化、介護者との関係によって、興奮したり落ち着きなく歩きまわったりという症状が出てくる場合があります。そういった症状が出ている場合は、何が原因となっているのかをよく観察し、認知症の方の訴えに耳を傾け、受容的な態度で接することが大切です。困ったことがあれば、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談してみましょう。

編集部:健達ねっとのユーザー(認知症に不安を感じている方や、認知症の方の家族)に何かメッセージをお願いいたします。

田中様:近年、認知症サポーターや認知症カフェといった、認知症の方ご本人と介護者の方を支援するための人材育成や相談できる場の開設が積極的に行われています。同じような経験をされた方に話を聞いてもらうことで、心が軽くなることもあると思います。

不安なことや介護をする上での悩み事は自分一人で抱え込まずに、地域包括支援センターや認知症カフェ、認知症の人と家族の会の電話相談などを活用してみてはいかがでしょうか。

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