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トップページ>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】小児の食物アレルギーに関する臨床疫学研究

【専門家インタビュー】小児の食物アレルギーに関する臨床疫学研究

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研究内容について

編集部:小児の食物アレルギーに関する臨床疫学研究について今までの成果を教えて下さい。

楠様:私が2020年に龍谷大学に赴任してからの成果としては主に以下の2つの業績があります。

①鶏卵、牛乳、小麦アレルギーの早期解除に影響する背景因子の検討(Allergol Int 2021; 70: 498-450.)

食物アレルギー(FA)発症リスクの背景因子として出生順位、家族歴、出生季節、湿疹の合併などが報告されていますが、これらの背景因子がFA早期解除の可否に与える影響は不明でした。そこで滋賀県近江八幡市の全公立小中学校生徒約5000名を対象として保護者に質問紙式調査を行ない、そのうち鶏卵、牛乳、または小麦FA歴を持つ309名を抽出して小学校入学時点での除去継続率を比較しました。その結果、乳幼児期からの湿疹合併例、喘息合併例、第2子以降例は、小学校入学時点で除去を継続しているリスクが高いことがわかりました。

②滋賀県内の保育所通所児を対象とした食物アレルギー大規模調査:2013年と2021年の比較(J Invest Allergol Clin Immunol 2023; 33)

近年、小児の食物アレルギーの増加傾向が続き社会問題となっていましたが、2021年度に滋賀県立小児保健医療センター(滋賀県アレルギー疾患医療拠点病院)と当研究室が共同で行った滋賀県内の全認可保育所・子ども園を対象とした食物アレルギー実態調査(対象児童30047名)の結果、食物アレルギーの有症率が2013年に実施された同一地域・同一手法の調査と比較して減少傾向に転じていることがわかりました。年齢別の解析では5歳児、4歳児(2017年以前の出生児)では上昇傾向が続いていたのに対して3歳児(2018年の出生児)で同等となり、2歳児、1歳児、0歳児(2019年以後の出生児)ではいずれも減少していました。また食品別の解析では、とりわけ鶏卵アレルギーの有症率が顕著に減少していました。この数年間、食物アレルギーを予防するためには鶏卵を始めさまざまな食品の摂取を遅らせるのではなくむしろ早期から開始することが強調されるようになりましたが、今回見られた減少傾向の少なくとも一部はその効果を示している可能性が示唆されます。

編集部:それらの研究を行った経緯を教えて下さい。

楠様:私は今まで小児科医として、またアレルギー専門医として、30年以上に渡って小児のアレルギー診療に関わるとともに、一般学童を対象とした大規模疫学調査を通じてアレルギー疾患の発症や重症化の機序に迫る疫学的解析を行ってきました。龍谷大学に赴任後も、小児のアレルギー疾患について、「食と栄養」の観点からその予防、改善につながる研究をしたいと思い、これらの研究を実施しました。

編集部:それらの研究の意義を教えて下さい。

楠様:1番目の研究については、これら3つのリスク因子がすべてある場合の除去継続率(73.3%)は全くない場合(12.0%)の6倍以上となりました。誰でも判定できるこれらの簡便なリスク因子を活用することで、難治例の早期同定と早期介入につながる可能性があります。

2番目の研究については、今回の調査で食物アレルギー有症率が減少に転じた理由はわかりませんが、そのタイミングは日本小児アレルギー学会や厚生労働省授乳・離乳の支援ガイド等で食物アレルギー予防のための早期摂取の提言が出された時期と一致しており、提言に基づいた保護者の行動変容や乳児健診での指導強化などの効果が表れた可能性も考えられます。今後さらに全国規模での調査が望まれます。

 

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今後の目標について

具体的には、一般小児を対象にして食事内容とアレルギー症状についての前方視的追跡調査を行い、食事内容が児の成長発達やアレルギーマーチの進展にどのような影響を与えるかについて検討したいと思っています。これらの検討をもとに、食への介入を通じたアレルギー疾患の予防改善の具体的方法を提示し、一般市民へ還元できる成果を目指します。

 

Q5.健達ネットのユーザー様に何かメッセージをお願いします。

私は小児アレルギー疾患の中でもとりわけ増加が指摘されている食物アレルギーについて、アレルギー専門看護師(小児アレルギーエデュケーター)や管理栄養士とともに、除去食指導や誤食によるアナフィラキシーへの対応、早期の安全な解除を目指した少量食物経口負荷試験とそれに続く段階的解除法の検討などを行ってきました。これらの経験を通じて、アレルギー疾患の予防や適切な管理のためには、必要最小限の除去食指導や栄養管理、アレルギー予防のための食事指導、など食習慣への介入が重要であることを強く認識しました。また、アレルギー児の日常生活をトータルに管理するためには、医師だけではなく看護師、管理栄養士、薬剤師を始めとする多職種によるチーム医療が重要であることに気づきました。将来を担う子どもたちの健全な成長と発達のために、これからもよろしくお願いします。

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薬の使い方

龍谷大学 農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室 教授

楠 隆くすのき たかし

日本小児科学会専門医・指導医
日本アレルギー学会認定専門医・指導医
日本小児アレルギー学会理事・代議員

  • 日本小児科学会専門医・指導医
  • 日本アレルギー学会認定専門医・指導医
  • 日本小児アレルギー学会理事・代議員

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