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【専門家インタビュー】放射線キュービックファントムに関する研究

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研究内容について

編集部:放射線キュービックファントムを活用した課題解決型教育コンテンツの開発 についての研究内容とその研究成果について教えてください。

近藤様:診療放射線技師を目指す学生が、いろいろな方向から撮影された2次元のX線画像から、被写体を3次元的にイメージする学習用ファントムを開発することが研究の目的です。さらに、単純な計算問題ではなく、チームで協力しながら自ら考え創意工夫する考察を中心とした課題解決型の教育コンテンツにすることが最終目標となっています。

そこで、開発したのは放射線の吸収率が異なる3種類の立方体ファントム(以後XCUBE)と立方体ファントムを縦・横・高さ各3個の計27個を入れることができる不透明な黒い箱(以後BBOX)です。対戦相手が3種類のXCUBE各9個をBBOXに入れて封印します。封印されたBBOXをX線撮影して得られたX線画像から27ヶ所のXCUBEの種類を解析します。より少ないX線撮影で、より多くのXCUBEの種類を当てた方が勝ちという対戦型の競技として利用します。3種類のXCUBE各9個をBBOXに入れる方法は200億通り以上あるため、繰り返し利用することが可能です。また、より少ないX線撮影の方が高得点にすることで、被ばく低減を意識させながら、どの向きから撮影すると解析が可能になるかを考える考察課題の効果を得ました。さらに、チーム戦とすることでチーム内での活発な議論が展開されコミュニケーション能力の育成にも効果的であることが確認できました。

大学内での競技大会や、他大学との交流大会を開催した結果、参加された先生方からも、考察力やチーム力の教育効果が非常に高いとの評価をいただいています。今後もより教育効果の高い教育効果になるように改良しています。

編集部:前述の研究を行った経緯を教えてください。

近藤様:「自ら考え行動する力」が社会から望まれており、大学でもアクティブラーニングや反転授業などを取り入れた教育をしています。私は工学系出身で大学時代のロボットコンテストが「自ら考え行動する力」には非常に効果的であることを経験しています。しかし、私が所属する駒澤大学医療健康科学部は診療放射線技師を教育する学部であるため、専門領域が異なるロボットコンテストを実施することが困難です。そこで、「4階から落としてもたまごが割れないようなプロテクターを作成せよ」や「マシュマロチャレンジ(参考1)」など教育効果が高いといわれるものを見つけては教育に利用してきました。しかし、これらの教育効果は高いものの、専門領域の放射線とは異なるため、実施の意義や学生のやる気が今一つかみ合いません。そこで、自ら放射線を利用した教育コンテンツを開発することにし、数年かけて開発したものが放射線キュービックファントムなのです。

(参考1 日本マシュマロチャレンジ協会

編集部:診療放射線技師を教育していく上での課題についてご教示ください。

近藤様:診療放射線技師は国家資格であり、受験資格を得るためには、診療放射線技師養成施設を卒業する必要があります。このためのカリキュラムは、非常に多くの専門領域の知識と技術の習得を必要とするように作られています。

課題のひとつは、やる気を維持することや専門領域に興味を持たせて自ら進んで勉強するようにする環境をどう構築するかと考えます。まさに、放射線キュービックファントムがやる気を引き出す方法のひとつの解決方法であると思います。もちろん放射線キュービックファントムだけではなく、あらゆる方面に同様なやる気を引き出す環境を用意して対応しています。ただし、入学した学生や時代に合わせて臨機応変に対応する必要があり、毎年苦労しております。

もうひとつの課題は、コミュニケーション力やチーム力の経験不足をどう補うかということです。知識や技術として頭では理解していても実際の現場で活用できるには経験が必要になります。質の良い経験をより多く体験させたいのですが時間と環境が不足しており、今後の課題です。

編集部:近藤様が考える求められる診療放射線技師の素質とはなんでしょうか?

近藤様:大きく4点が考えられます。

(1) 高度な専門知識と技術

(2) 患者や医師などとのコミュニケーション能力

(3) 相手のことを思いやれる心

(4) 向上心

まず、(1)は大学のカリキュラムと国家試験がありますので、これをクリアできるだけの能力と努力が必要です。(2)のコミュニケーション能力は必要ないと思っている人が意外と多いのですが、病院内では医師や看護師に次ぎぐらいに患者と接する機会が多いのです。撮影をするので必ず患者がいますし、近年はチーム医療で医師や看護師などと協力する仕事が増えています。ドラマのおかげで診療放射線技師の仕事内容が周知されてきたことは有難いです。(3)は当たり前のことですが、痛みを伴う検査では苦しむ患者との板挟みになります。患者のために心を鬼にするときも時には必要かもしれません。(4)は日進月歩の医療の世界では、現状維持は後退でしかありません。常に新しい知識・技術を身につけより良い医療を提供するという向上心は必要不可欠なものです。

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今後の目標について

Q1.近藤様の研究における最終的な目標を教えてください。

放射線キュービックファントムを使ったチーム戦による競技大会「ブラックボックスコンテスト」を開催し、これまでに2大学4研究室の学生が参加してくれました。参加した学生たちは非常に熱心に取り組みます。特に他大学との対戦には熱が入り、対戦の数日前からチームでの勉強会が自主的に開催されるほどです。将来的には日本全国の診療放射線技師の養成学校を集めての全国大会を開催できるように頑張っています。

最終目標は、放射線キュービックファントムを利用して「自ら考え行動する力」が育成できるようになり、診療放射線技師のレベルアップに貢献できればと思います。それが、病気の早期発見・早期治療へとつながり医療や患者へと広がれば嬉しいです

Q2.今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

放射線キュービックファントムのより効果的な活用方法の研究はもちろんのこと、高校生向けの導入教育や、大学院生や医療現場の診療放射線技師向けの発展問題の作成を進めています。また、近年話題のディープラーニングといったAIなどのプログラミングを活用した教育方法も検討しています。

教育以外にも、より良い画像を撮影するための画質を評価・解析する方法も研究しています。今進めている研究は、血管が詰まったときに行うカテーテル治療(血管内にワイヤーを入れてリアルタイムに撮影しながら行う血管の治療)に使用するX線の動画像の評価・解析です。実は医療の動画像を評価する手法が確立されておらず、評価用ファントムも動かないものがほとんどでした。そこで研究室では、信号が動く動態ファントムを開発して、画質の評価・解析をする手法を研究しています。

健達ねっとのユーザー様へ一言

日進月歩の医療において、現状維持は後退でしかありません。向上心をもって常により良い方法を学び・考えることが大切であると思います。でも多忙な仕事の中、そんな余裕も時間もないという人も多いでしょう。例えば、今している目の前の仕事に「この作業は何のためなのか?」と考えてみてください。別の方法でできないのか?もっと早くできないか?もっと痛みの少ない方法はないのか?などと「なぜと問う心」が、新しいものの発見や、改良改善へとつながる第一歩です。小さな改良改善でも積み重なれば、大きな一歩となり、医療の発展に貢献でき、最終的には患者のためへと還元されていきます。

皆さんの創意工夫が医療の発展に貢献されることを期待しております。

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薬の使い方

駒澤大学医療健康科学部診療放射線技術科学科 准教授

近藤 啓介こんどう けいすけ

日本診療放射線技術学会 会員
日本診療放射線学教育学会 会員
IEEE 会員

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