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トップページ>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】看護学実習についての研究

【専門家インタビュー】看護学実習についての研究

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研究内容について

編集部:「新型コロナウイルス感染症拡大に伴い実施した基礎看護学実習Ⅰの代替学内実習の実際とその評価」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

高橋様:2020年4月7日、COVID-19感染者が特に多かった都県に緊急事態宣言が発出され、4月16日には全国の都道府県に拡大されました。5月に宣言は解除されましたが、大学では密集を避ける目的でしばらく遠隔授業等に変更せざるを得ませんでした。

看護師養成機関は厚生労働省の定める指定規則に従ったカリキュラムで教育しており、講義・演習・臨地実習を受講し所定の単位が認定された者でないと看護師国家試験受験資格が得られません。講義科目は遠隔対応可能としても、臨地実習はどうなるのか、臨地で実習できなければその学年の学生全員の単位を認定することができず卒業延期になり国家試験受験資格がなくなるのか等が心配されましたが、文部科学省と厚生労働省の通達により、「実習に代えて演習又は学内実習等を実施することにより、必要な知識及び技能を修得することとして差し支えないこと。(略)実習中止、休講が生じ、授業の実施期間が例年に比べて短縮された場合であっても、当該学校養成所等を必要な単位もしくは時間を履修して卒業(修了)した者については、従来通り、各医療関係職種等の国家試験の受験資格が認められること。」ただし「教育内容の縮減を認めるものではない」ため「必要な教育が行われるよう、特段の配慮をお願いしたいこと。」とされました。これを受けて、全国の看護師養成機関では、臨地実習の代替となる学内実習の計画を立てるのに奔走したという経過があります。これまで誰も経験したことがなく、見本や参考となる前例がなかったため、それぞれの大学において各教員がアイデアを出し工夫しながら、学内実習でも科目目的・目標を達成できるような授業計画を思案しました。看護師養成機関はスケジュールが過密で授業として確保できる期間は決まっていますので、限られた時間、限られた人的・物的資源で、どのように行うか、どの学校でも本当に大変な検討だったと思います。

そのような中で、私たち岩手県立大学看護学部基礎看護学講座が担当している1年生の科目「基礎看護学実習Ⅰ」の学内実習について、創意工夫して行った取り組みを紹介したのが、本研究です。

本研究は、本学の基礎看護学実習Ⅰの学内代替実習の取り組みを報告するとともに、本実習を履修した学生および担当した教員へのアンケート結果から学内実習として実施した内容の評価を行うことを目的として行いました。学内実習では、学生はペーパーペイシェントではなく教員が演じる模擬患者を受け持つこととし、臨地実習と同様にベッドサイドで直接模擬患者と接して話をしたり看護援助をすること、病院で導入されている電子カルテそっくりに作成した模擬電子カルテから情報収集できるように設定しました。臨地実習と同じように、毎朝、病棟と設定した実習室入口での挨拶から始まり、夕方はカンファレンスを行い指導者から助言を受け、最後に挨拶をして病棟を出る形で終わるようにしました。日中の流れも、指導者に対し当日の行動計画発表を行い指導を受けた後に患者のもとへ挨拶・状態把握・情報収集に訪室するという臨地実習での動きに合わせました。また、実習中に経験して欲しい看護援助についてはすべて実施できるような事例設定を行うと共に、臨場感を高めるために、模擬患者の教員は事例の患者になりきり演技した他、共通設定内容以外については学生個々との会話やその学生が行った看護援助に合わせて個別にアレンジした反応の演技をすることで学びが深まるようにしました。このような学内実習の取り組みの評価として、学生の自己評価から、満足感や充実感が得られ、実習目的・目標が達成された他、自分の能力の自覚をし、2年次の実習へのモチベーションが向上するなど、一定の成果があったと考えられました。教員の評価でも、1年次の実習として経験して欲しい実践については十分到達したと判断され、緊張感・臨場感の不足という学内実習の限界はあったものの総合的に学生が実習目的・目標を達成できた学内実習であったことが明らかとなりました。

編集部:「基礎看護学実習Ⅰにおける模擬電子カルテを用いた代替学内実習の取り組み」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

高橋様:本研究は、上記学内実習において、模擬電子カルテを用いたことが学生にもたらした効果を分析し評価することを目的に行いました。模擬電子カルテはホームページ作成ソフトを用いて作成、ファイルを学内のサーバーにアップロードし、学生が自分のノートパソコンから所定のURLにアクセスする方法で使用することとしました。トップページにはログイン画面を模したパスワード入力画面を設置し、実習先の病院で導入されている電子カルテを見本としてメニューボタンの配置や基本的な内容をそろえました。臨地実習と同様に実習時間および実習場所以外ではアクセスできないよう、実習時間外はパスワードを変更し管理しました。学生がアクセスできない時間帯に実習時間外である夜間や早朝の患者の状態を毎日更新することで、臨地実習における電子カルテを再現しました。評価として、学生の多くが「患者の個人情報の取り扱いについて学ぶことができた」「電子カルテの基本的操作方法について習得できた」など高く評価し、模擬電子カルテ使用には一定の効果があったと言えました。教員おいても学生同様に高い評価が得られ、模擬電子カルテを使用した学内実習で目指した内容については概ね達成することができたと考えられました。とくに、本実習は看護学生として初めての実習であり、電子カルテという初めて扱うシステムの操作やそこから必要な患者情報を収集することは、その後の実習を履修する上で最低限身に付けておかねばならない力と言えます。次の実習のおいて順調に学びを進められるようにするために、本実習で電子カルテ操作に慣れておくことは重要だったと考えます。その意味においても、模擬電子カルテを活用した学内実習は、私たちの大きな成果と考えています。

編集部:これら二つの研究を行なった経緯を教えてください

高橋様:感染症に起因した臨地実習の代替学内実習など誰も経験したことがありませんでしたので、まず私たちに限らず皆がなるべく記録に残す必要があるのではないかと考えました。また、自分たちの取り組みはどうだったかの振り返りをするのは教育評価として当然ですし、公表することで他校の先生からのご意見もうかがいたいと思いました。さらに、この未曽有の状況を看護界全体で乗り越えて行くために私どもの取り組みで参考していただける要素があれば是非他校でも参考にしていただきたいと思ったからです。

基礎看護学実習は複数の教員で担当していますが、まず代替学内実習の全体の内容については、代表として科目責任者である私が執筆いたしました。また、この代替学内実習で行った工夫のうち特に自負する点が、模擬電子カルテをこのために自作し活用したことです。この模擬電子カルテを準備することができたのは、本講座の小向敦子教員がスキルを存分に発揮してくれたおかげですので、小向に模擬電子カルテを用いた具体的な内容について執筆してもらいました。

編集部:高橋様が考える本研究の意義を教えてください。

高橋様:先にも述べましたが、臨地実習の代替学内実習など、経験したことがありませんでしたので、まず記録に残すべきと考えました。それは、今後この学生たちに関してどのような教育がなされたか説明や証明しなければならない機会があるかもしれませんし、もしかしたら再び到来するかもしれない新たな未曽有の感染症等で同様な状況に陥った時の参考になるからです。

また、全国の看護師養成機関では、それぞれどのような学内実習が効果的か分からない中で試行錯誤しながら行っていました。この大変な状況にあっても教育の質の担保、つまり卒業生の看護実践能力の維持をしていくことが臨床の第一線で奮闘する看護師の皆さんを支えることにつながっていくと思っています。したがって、今の困難を看護界全体で乗り越えていくために、各養成機関が情報交換し協力し合いながらより効果的な学内実習を検討していくことが重要と考えます。その意味においても、今回の本学の学内実習取り組みを研究成果として公表したことの意義があると考えております。

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今後の目標について

編集部:高橋様の研究における最終的な目標を教えてください。

高橋様:今回ご紹介しました研究は、初めて実施した代替学内実習の取り組みでした。実は、この翌年、通常実習を行なう予定で開始したものの、期間途中で一施設における実習が中止となってしまい、履修学生のうち臨地実習できた者と学内実習を行なった者が約半数ずつとなりました。そのため、学内実習の評価を、同時期に行った例年通りの臨地実習の学生と比較することで、より客観的に検討することができました。これも貴重なデータと考えましたので、本講座の及川陽子教員に研究としてまとめてもらい、2022度末には岩手県立大学看護学部紀要に公表される予定です。その論文もぜひ読んでいただきたいと思います。

現在私は看護学の基盤となる部分の教育を担当する基礎看護学講座に所属しています。今回ご紹介しました研究のように基礎看護学領域における教育方法に関する研究を行うことは必然と考え、継続して行っていく予定です。また、私は他に、患者様に提供する看護技術について安全に安楽に確実に実施するための根拠を明らかにする研究を行っています。教育方法について研究することも看護技術の根拠を追究することも、どちらも学生に看護学の面白さ、深さ、難しさを理解してもらうことが共通していると思いますし、そのように学生を育てていくことが、将来の臨床現場での看護師の活躍につながると考えています。看護技術の根拠の追究については、直接臨床の看護師の皆さんの疑問や困難を解決することも目指しており、看護師が専門職としての自覚と自信をもって患者様に対応し、医療福祉の場にかかわる多職種の中心的な存在としてより活躍することを願いながら研究を重ねていきたいと考えています。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

高橋様:私は、看護技術の根拠の追究として筋肉内注射に関する研究を長く行ってきました。しかし、実際には、コロナワクチン接種が始まる前までは、年々筋肉内注射の実施機会が減っていて、その研究意義も薄れかけていました。ところが、コロナワクチンが筋肉内注射のみ適用だったため、にわかに注目されるようになりました。私が行ってきた研究は筋肉内注射を安全・安楽・確実に実施する方法の確立です。皆さんもコロナワクチン接種を受けて、あるいはニュースで注射場面を見て、ちょっと不安になった方もいると思います。私の知人は、「なんか看護師さんは適当にブスって刺して」とビックリしていました。しかし、適当であるはずがありません。神経や血管を避けなければなりませんし、確実に筋肉に届いていなければ皮下注射になってしまうのです。そのために、どのように位置を決めるか、どの位の深さまで刺すかは大変重要です。私はその点について根拠となるデータを蓄積し提言を行ってきました。その過程において、一般的な標準体型の日本人に合う長さの筋肉内注射用の針の製造を訴えてきました。皮下注射なら、皮下をつまみ上げることでどの位まで刺入したらよいか判断しやすいのですが、筋肉内注射は、皮下を越えてその奥の筋肉まで到達させなくてはいけないため、深さのアセスメントが本当に難しいのです。そのため看護師も不安が大きく、できればやりたくないと思っている技術であることも私の研究により明らかになっていました。そこで、私は、一般的な標準体型の日本人に合う長さの筋肉内注射用の針を製造してもらいそれを針の根本まで垂直に刺入すれば、安全に確実な筋肉内注射が実施でき、患者にとっても看護師とっても有用だろうと考え論文発表を行い、医療機器メーカーに話してきました。ところが、当時は筋肉内注射の実施頻度が減ってきていた時期だったため、どのメーカーもニーズがないと難しいという回答でした。ところが、このたびのコロナワクチンで筋肉内注射が大きく取り上げられ、注射に適した安全な位置や確実に筋肉に到達する深さについて日本医師会がまとめ、厚生労働省がワクチン接種を行う全国自治体や医療機関に紹介した内容の中に、私の書いた論文が引用されました。それに着目したメーカーの方が訪ねてきてくれ、私の論文を参考に筋肉内注射にふさわしい長さの針の製造をしてくださったことが分かりました。やっとここまで積み重ねてきたことが評価されたと嬉しく思いました。

しかし、私の研究はまだ続きます。私は筋肉内注射を安全・安楽・確実に実施する方法の確立を追究しています。実は、このたびのコロナワクチン接種方法に関して、今まで看護師が行ってきた方法ではない新たな方法も紹介されました。そのため、当初は注射を担当する看護師から困惑している声がたくさん聞かれました。私が500名以上のデータをもとに算出した適切な針の刺入深度に基づく筋肉内注射にふさわしい長さの針の製造の提言は、あくまで当時看護師が実施していた注射部位において確実に筋肉に届く刺入深度なのですが、今回は新たな注射部位が紹介されています。その新たな部位における適切な刺入深度を断定するためのデータはまだ数十名ほどしか発表されていません。そこで、私たちは、新たな部位における適切な刺入深度などを明らかにする研究を始めています。今現在は、藤澤望教員らと共に日本看護技術学会助成金や文部科学省科学研究補助金を獲得し、全国の自治体での集団接種や医療機関でのワクチン接種を行った看護師を対象として、今まで行ってきた筋肉内注射の方法とワクチン接種で行った方法、疑問や困難、副反応事例等について調査し、結果を分析している最中です。

今後も現在行っている筋肉内注射に関する研究を中心に、看護師が自覚と自信をもってすべての看護技術を安全・安楽・確実に患者様へ提供できることを目指し、研究を行っていきたいと考えています。

健達ねっとのユーザー様へ一言

一般の方々の中には、看護師は医師の補助・手伝いという印象が強い方もまだ多いのではないかと思います。しかし、認定看護師や専門看護師といったアドバンスな資格をもっている看護師も増え、医師から相談を受け助言したりするようになってきました。現在は、看護師も医師も、患者様がよりよく生きるあるいは最後を迎えることができるよう支援するチームの同志です。そして、医師との違いは、患者様により近い位置で、患者様の安楽を第一に考え、その人らしく過ごしていくための日常生活行動全般を支援しているということです。西洋医学による治療の施しようがなくなった時でもあるいはそのような時にこそ、安楽や安寧を目指す看護の役割が大きくなるのです。

看護には正解がないと言われています。患者様一人一人性格や考え方が異なるため、同じ疾患を患っていらっしゃっても看護師に期待することは全く一緒ではないからです。それが看護学の難しさでもあり、深さでもあり、ずっと追究していく醍醐味があるところだと思います。

このような魅力のある看護学を、現在看護職の方はさらに、看護の仕事に関心のある方はぜひ触れて感じて、学んでいただきたいと考えています。

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岩手県立大学 看護学部学部 教授

高橋 有里たかはし ゆり

日本看護科学学会 代議員
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