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【専門家インタビュー】他者との交流における認知機能改善効果に関する研究

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研究内容について

編集部:「地域在住高齢者の回想法を用いた自分史作成による認知的心理的な影響」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

澤見様:回想法は、高齢者を対象とした心理療法でしたが、近年は認知症予防のための非薬物療法として位置づけられ、心理的にも認知的にも効果が期待できることから、この数年間は、回想法を中心に研究してまいりました。中でも特に自分史は、自分が歩んできた人生を文書にまとめあげるために、回想のストーリーを何度も言葉にして語り、そのうちに忘れていた思い出を思い出し、懐かしさや感動がよみがえります。それが自分史として冊子に残ることによって、家族や友人と思い出を共有するコミュニケーションツールにもなります。

この研究は、橿原市今井地区自治会との共催で、地区の高齢者への説明会を開催し、「自分史の会」という定期集会に参集してもらいました。小グループに分かれて幼少期から現在に至るまでの体験を語り合いながら、各個人の「自分史」を制作します。毎回のセッションでは、その時代の写真を持参してもらい、自分史を思い出すためのツールにしていましたが、新聞の切り抜きや絵を描いて持参したり、次第に愛着と参加者の絆が強固なものになっていきました。

この結果、自分史の会の開始前と自分史完成後で、有意な認知テスト得点の向上がありました。また、インタビュー記録の分析からは、父母や旧友への追懐や、語ることや書くことで次々に思い出が蘇るという感動が示されました。

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

澤見様:回想法の心理効果と認知機能の維持向上効果に着目し、予備調査で回想効果を検証したところ、心理的にも認知機能的にも向上が見られたことから、集会や居宅訪問による回想法を開始しました。会話量を増やすだけでも認知機能には良い影響があるため、思い出を人に語ることによる会話量の増加も狙いとしました。このために、集会での回想法と、外出困難な高齢者への居宅訪問による回想法を行っています。

外出困難な独居および日中一人の高齢者は、一日中誰とも会話しないことが日常化していることを課題と考え、思い出語りの対話が効果的だと考えました。

「自分史の会」は、奈良医大の老年看護学の教員グループの共同研究で、発案は古角美保子先生です。回想を形に残すことで、集会の期間が終了した後にも自分史を見返して、実施中と同じ心理・認知的効果が得られればよい、という狙いでした。居宅訪問での回想法は、認知症予防サポートネット会長はじめ会員の心療回想士の先生にご協力いただいて、構想から実践へとつながり、成果を得ることができました。

編集部:「レクリエーションゲーム活動の継続による認知機能改善効果の検証」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

澤見様:この研究は、日本健康レクリエーション協会(現学会)との共催で、協会の岡崎敏朗先生の主導で行った研究です。週1回のレクリエーション活動を3カ月間継続し、活動開始前と、3カ月終了後の認知テストの得点の差を比較しました。終了後には得点の向上があったことから、レクリエーションの効果が示されました。

レクリエーションの内容は、集会型の集団レクリエーションで、2つのことを同時に行うデュアルタスクが中心です。司会進行者の声掛けに従い、自分の動作や他者の動作を考えながら動くという、頭と身体を同時に使うプログラムです。集団で交流しながら、「大人のゲーム」で楽しみながら脳トレでき、身体活動も同時にできるので、継続しやすいのではないかと思います。

編集部:澤見様が考える本研究の意義を教えてください。

澤見様:この研究は、レクリエーション活動によって、高齢者同士の交流が促進されて仲間づくりができること、身体活動として身体機能にも良い効果が期待でき、脳トレにもなるということがメリットだと思います。身体的にリフレッシュし、大人のレクリエーションによって気持ちが若返る、意欲が向上するといったことも期待できます。楽しみながら心身の機能向上ができ、ストレス解消にもなり、無理がないため継続しやすいこと、特別な用具を必要としない、いつでもどこでもできること、参加人数も2人いれば実施でき、大勢であっても制限がないという手軽さが、地域の活動として取り入れやすいと考えています。

高齢者同士がお互いに協力してレクリエーションを進めるということが、大きな意義だと考えています。

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今後の目標について

編集部:澤見様の研究における最終的な目標を教えてください。

澤見様:現在、文部科学省科学研究で、「認知症予防における発展的介入:居宅や施設を訪問して介入する人材の養成と効果の検証」という研究を行っています。この研究は、前期高齢者に認知症予防サポーターとして登録していただき、毎月1回のセミナーを1年間受けた方を修了者として、私たちと一緒に高齢者の居宅を訪問して認知症予防活動をしていただく、という内容です。主に独居および日中独居で外出困難な高齢者を対象として訪問活動をしています。外出できる人もできない人も、楽しみながら交流して心身の機能維持・向上ができることが必要と考えています。

中間評価によって有効性が検証されているので、今後はサポーターの人数を増やして活動できる機会と範囲を拡大したいと考えています。また、認知症予防の技法は非常に多様なので、効果的な技法をレビューによって選定し、その効果を検証して活動に取り入れたいと思います。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

澤見様:コロナ禍による社会的拘束や社会的距離は、特に虚弱な高齢者にとって精神的ストレスや認知機能への悪影響を及ぼしています。このようなパンデミック誘発ストレスの予防・改善のため、様々な取り組みが試行されています。ですが現状の課題として、組織的に社会システムとしての解決には至っていません。そこで、地域全体で組織的にシステム化して高齢者に介入し、その効果を検証したいと考えています。私たちはこれまでの研究で、4県で認知症予防サポーターを養成してきました。このサポーターの皆さんと共同で、新しいコミュニティシステムを創生したいと考えています。

高齢者と家族は、離れて暮らす世帯が増加の一途を辿っているので、このような独居高齢者こそ、社会的つながりが必須です。家族と遠隔でつながるバーチャルなツールで効果的なものを選定して検証し、対面・バーチャルの両方を駆使して高齢者の社会的つながりを強固にしたいと考えています。

健達ねっとのユーザー様へ一言

人生100年時代で、年齢に伴う心身の変化に適応しながら100年の人生を送る時代ですね。認知症予防のための活動には、実に様々なものがあるので、自分の好みにあった活動を見つけることが長続きのコツですね。そのためには、色々な活動の情報を得られるように、外に興味を向けること、そんなような余力を持つためには、気持ちのリフレッシュが大事ですね。

私の研究では、他者との交流を1番の要に据えています。散歩も相手がいたほうが認知的に有効だそうです。音楽療法も音楽で想起されることを語り合うことで、認知的にも心理的にも効果が上がるそうです。たとえ認知症になっても、認知症の方が接客するレストランがあり、注文を間違えてもよい人がお客で入店するそうです。そんな場がどんどん増えたら、認知症になっても安心ですね。

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薬の使い方

奈良県立医科大学 医学部 看護学科 教授

澤見 一枝さわみ かずえ

博士(保健科学)
日本老年看護学会
日本看護学会

  • 博士(保健科学)
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