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【専門家インタビュー】高圧処理による食品の成分変換に関する研究

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研究内容について

編集部:「酵母の高圧環境における振る舞いと酵素化学反応」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

重松様:100 MPaを超える静水圧下では多くの微生物が非熱的に死滅(不活性化)します。この現象を用いた新しい食品加工のやり方として、「食品高圧加工技術」が注目されています。この技術を応用した高圧加工食品の世界市場は2019年で155億2,336万米ドルになっています。

 この研究では、微生物の高圧環境下での死滅メカニズムの解明を目指して、発酵食品によく利用される酵母の高圧力環境での死滅の仕方を解析し、圧力に強い変異株や弱い変異株を取得しながら、圧力による死滅挙動の比較を行いました。また、生体分子であるタンパク質が、やはり高圧力環境で構造が変化します。これは圧力変性と呼ばれる現象です。本研究では、タンパク質でできている酵素ペクチナーゼを用いて、酵素の活性を測定しました。予想では高い圧力環境では圧力変性の影響で、酵素活性が低下するとおもわれましたが、100 MPa、200 MPaと活性の上昇が認められました。酵素の種類によっては、高い圧力環境で、大気圧環境よりもむしろ活性が向上することもあることが示されました。

 

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

重松様:食品高圧加工技術は、非熱的(熱を加えない)殺菌技術として注目されており、特に海外では、加熱したくない食品の腐敗の防止と保存性に応用されているケースがほとんどです。一方で、圧力による微生物の死滅メカニズムは未だによくわかっていない状況です。特に、微生物の種類によって圧力に強かったり、弱かったりといった違いがあるので、安心して殺菌技術に使いにくい背景がございます。そのため、圧力に対する強さ、弱さのメカニズムを明らかにする必要を感じてこの研究を行いました。一方で、食品の保存中の変化の中には、微生物による腐敗や変化と並行して、酵素反応による褐変などの現象も知られています。そのため、酵素に及ぼす圧力の影響についても調査が必要と考えました。

 

編集部:「高圧処理による食品の成分変換」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

重松様:Q1の研究により、食品素材の酵素の活性が圧力により変化することが示されました。そこで、高圧環境で変化する酵素反応を利用して、食品の成分を変化させることも可能ではないかと考えました。様々な食品に高圧処理を行ったところ、いくつかの食品では抗酸化活性が上昇し、パセリのフラボノイドの組成が変化することが明らかになりました。このしくみをうまく利用することで、食品の栄養機能を向上させる技術につながるものと期待しています。

 

編集部:重松様が考える本研究の意義を教えてください。

重松様:人類は、太古の昔から食品を加熱することで、食品を腐敗しにくくし保存性を高めてきました。近年、加熱により、ビタミン類など、食品素材に含まれる多くの栄養機能成分が壊れてしまうことも分かってきました。QOL(Quality of Life)の向上を考える上で、非熱的な殺菌技術による食品の保存性向上、栄養機能成分の破壊を最小限にとどめる加工技術の開発がとても大切だと考えています。高静水圧を利用した食品高圧加工技術は、これらの課題を解決する重要な方法の1つだと考えます。そのため、食品高圧加工技術の普及のために、圧力による殺菌のメカニズムや圧力による成分の変化のメカニズムを解明することはとても意義深いと考えています。

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今後の目標について

編集部:重松様の研究における最終的な目標を教えてください。

重松様:現在、にごり生酒など加熱殺菌(火入れ)を施さない日本酒の保存性を向上させるために、高圧加工技術を応用した研究を進めています。製造した試作品は生酒特有の風味を保ちながら微生物による品質変化を抑えることに成功しています。これから、高静水圧が細胞や食品の成分に及ぼす影響を深く追求していきたいと考えております。最終的に、食品高圧加工技術がもっと身近なものとなると良いと思っております。

 

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

重松様:高圧環境における微生物の死滅メカニズムの解明ならびに食品成分の変化のメカニズムを明らかにしながら、得られた知見を栄養機能に優れた新しい食品の開発に応用していく研究を進めていきたいと思っております。新潟は「酒どころ」ですので、やはり発酵食品の開発と食品高圧加工技術の組み合わせた研究をしていきたいと思っております。

 食品高圧加工技術は、熱的加工に比べると栄養機能成分の減少を抑えられる点が魅力的ですが、未解明な部分も多いです。こうした未解明な部分を明らかにしながら、栄養機能性が維持されるだけでなく増加するような食品加工技術を目指していきたいですね。それが結果的に人々のQOLの向上に貢献できたら、と考えております。

 

健達ねっとのユーザー様へ一言

重松様:発酵食品は、身体に有益、あるいは無害な微生物の増殖を促して、腐敗や有害な微生物の増殖を抑える加工技術と考えられます。これが結果的に、冷蔵庫がなかった時代において加熱することなく食品の保存性を向上させる技術として発達してきました。熱的な食品加工は、食品の安全性を向上させる半面、栄養機能に重要な成分の減少を促すことがあります。近年、熱的な加工を施さない発酵食品の健康に資する機能性が注目され、エビデンスも蓄積されています。食品高圧加工技術は、熱的な加工を施さず、添加物も使用せずに殺菌が可能な新しい技術です。殺菌のメカニズムに未解明な部分が多いこともあって特に我が国では普及が今一つのところもありますが、大きな潜在力を感じながら研究を進めています。また、食品高圧加工技術は発酵とも相性が良いところがありますので、圧力と発酵を組み合わせることで、より栄養機能に優れて保存性が高い発酵食品の製造が可能と考えています。これからの非熱的な加工技術、そして食品高圧加工技術の発展にもご注目ください。

 

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新潟薬科大学応用生命科学部 教授

重松 亨しげまつ とおる

新潟薬科大学応用生命科学部・教授
放送大学・客員教授(暮らしに役立つバイオサイエンス担当)
日本農芸化学会・代議員

  • 新潟薬科大学応用生命科学部・教授
  • 放送大学・客員教授(暮らしに役立つバイオサイエンス担当)
  • 日本農芸化学会・代議員

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