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【専門家インタビュー】ピアサポートに関する研究

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研究内容について

編集部:「プロシューマーと専門職との協働-日米のインタビュー調査から-」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

相川様:プロシューマーとは、本論文では、保健福祉領域におけるプロシューマーに限定し、「保健医療福祉サービスおよび支援の受け手(利用者・消費者/コンシューマー)であり、かつ自らが受け手(利用者・消費者)であるサービスおよび支援と同領域の保健医療福祉サービスおよび支援の送り手(提供者/サービスプロバイダー・生産者/プロデューサー)であり、彼らが提供(生産)しているサービスおよび支援によって、金銭的対価として報酬給与を得ている者」と定義しています。つまりは、精神障害のある人でリカバリーの道を歩んでいる人が、精神障害のある人のリカバリーに寄与するという方です。ピアサポーター、ピアスタッフ、当事者スタッフなど、いろりな呼び方がされています。ここでは以下、「ピアスタッフ」で統一いたします。

本論文は、博士論文で書いた調査研究の一部です。日米のピアスタッフへのインタビュー調査を行い、ポジション分析を行なって、日米の比較と共に、ピアスタッフが既存の支援システムにどのように入り込み、また、利用者や既存の経験のない支援者(専門職者含む)たちとどのように協働していくのだろうかということを考察しました。インタビュー調査の対象はおもにはピアスタッフですが、雇用主や上司、同僚となる専門職者らにもインタビューを実施しました。主に【やりがい】と《葛藤》に着眼し、ポジション分析とともにプロシューマー的文脈カテゴリーとして整理し、そこから日米の共通項および特性を抽出しました。

調査の結果、日米の共通項としては、①【やりがい】に関しては、障害を認めていること、周囲の理解、障害の開示、経験の共有、転機となる出会い、プロシューマー・ポジションの創造、コンシューマーポジションの保障、明確な役割があること、対等な関係性、仲間が集う安心できる場(トポス)、フォーマル・インフォーマルなピアサポート、感謝の言葉、プロシューマー自身の変化、利用者の変化、システムの変化が抽出されました。②《葛藤》に関しては、セルフスティグマ、専門職を含めた無理解・差別・偏見・抑圧、《ポジション葛藤》、コンシューマー・ポジションの喪失、《役割葛藤》、二重関係等の《関係性葛藤》、居心地の悪い場、ストレス・緊張、ピアサポートの機会の喪失、フォーマルなつながりのみになる、評価や効果が認識できない、変化を認識できないことが抽出されました。また、不明確な採用方法・採用条件、雇用主からの声かけ、研修およびスーパービジョン体制がないことが抽出されました。

日米比較による日本の特性としては、《葛藤》の語りがアメリカに比べて豊かに得られたことが特徴で、なかでも、他の職員と同様の位置付けでの雇用の場合に葛藤が多いこと、葛藤を乗り越えていくところに工夫があることなどが得られました。また、葛藤の要因でもあるコンシューマー・ポジションの喪失、《ポジション葛藤》《関係性葛藤》については豊かに得られたことや、雇用プロセスの曖昧さによって産んでしまっている多重関係による《関係性葛藤》、研修やスーパービジョン体制が整備されていないこと、「当事者なのか」「支援者なのか」というポジション葛藤は特徴的に得られました。

結論としては、共同の前提となる条件として、①採用方法および条件の明確化、②複数配置、③役割および責任の明確化、④仕事量と収入、⑤プロシューマー固有の研修、⑥スーパービジョン体制の整備、⑦リカバリー志向のチームづくりの7点に整理されました。

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

相川様:精神保健福祉士として現場ではたらいているときに、ピアスタッフ(精神障害などの自身の経験を活かして、同様の障害等の経験のある仲間(ピア)のリカバリーに寄与する者)と一緒に働いたことが直接的なきっかけです。精神障害のある方の地域での暮らしを応援し、拠り所となる居場所や、相談、生活全般のサポートなどを行う事業所を、一年以上かけて準備し立ち上げていきました。そのときに一緒に準備から共に活動してくださったのが当事者のAさんで、後にピアスタッフとして一緒に活動しました。ソーシャルワークにおいて「当事者主体」は大事な理念で、当事者Aさんと一緒に活動することでその体現に他ならないと私に迷いはありませんでした。Aさんはとても真面目で、有能で、頼りがいのある方でした。が、開設後間も無く、休みはじめ、次第に来れなくなってしまいました。その原因はなんだったのだろうかという疑問が私の心にずっと刺さり続け、ピアスタッフに関する研究を始めました。

編集部:「精神障がいピアサポーター活動の実際と効果的な養成・育成プログラムー」についての研究内容と研究成果について教えてください。

相川様:Aさんのことをきっかけに研究を始めましたが、当初(2005年頃)、日本にはまだ、精神障がいピアサポーター(以下、正確を記すためにピアスタッフとします)は少なく、先行研究はありませんでした。スノーボールサンプリングで少ない情報を頼りに、北海道から沖縄まで出かけていき、インタビュー調査をさせていただきました。日本のピアスタッフの方々は、まだ先駆けということもあり、ほとんどのピアスタッフが一人職場で、研修等もないまま、利用者だった機関で施設長等に誘われてピアスタッフになっている、いわゆる「一本釣り」での雇用が多かったです。仕事ができることや病気をオープンにして、むしろそれらの経験を生かして働くことができることの喜びを語る方や、やりがいを語る方もいましたが、一方で悩み、葛藤しながら働いている方も多くいらっしゃいました。一方、アメリカをはじめ海外の文献(英語のみ)にはさまざまな研究、実践がありました。サバティカルを取得して半年間アメリカにてフィールド調査をさせていただきました。そこでも多くのピアスタッフの方にお会いし、インタビューさせていただくことができました。結果日本とアメリカで約100名あまりの方にインタビュー調査をさせていただき、その結果を博士論文としてまとめました。

ピアスタッフは、支援するーされる、という支援システムに入るわけですが、支援する側であり、かつされる側の両方を経験している方で、これまでの支援システムには存在していなかった人々です。支援される側から支援する側になるのではなく、支援するかつされる人として、新たなポジションを創造できたときに、ピアスタッフはやりがいを感じるようになり、また自らの経験をはじめとした力を発揮できる存在となることが見えてきました。そして、そのことではじめて、利用者を中心とした、支援者、ピアスタッフ、利用者との協働が生成されるということがわかりました。

ピアスタッフの葛藤は悪いことばかりではありませんが、周りの支援者等がそのことに無自覚だと、消えるように辞職にいたってしまったりということも少なくないことがわかりました。そのためには、採用方法を明確化することや、利用していた機関での雇用は避けた方がいいこと、研修やスーパービジョンが必要なこと、などの環境を整える必要性もわかりました。

編集部:相川様が考える本研究の意義を教えてください。

相川様:ピアスタッフ研究は、これまでは支援の受け手としてしか規定されていなかった障害のある当事者などを、支援の送り手になりうること、既存の、経験のない専門職支援者には提供できない「経験の語り」によって、一人ではない、という孤立からの解放や、私にもできるかもしれないという自己効力感、一歩を踏み出す勇気となったり、リカバリーモデルとして当事者の希望となるなど、多くの固有性があることがわかってきています。欧米諸国での研究成果でも、徐々に実証的な成果が現れ始めています。利用者への変化のみならず、日本の精神保健福祉は、長期入院の課題など多くの課題をかかえていますが、これらを変革していくためには、支援における関係性の変革や、リカバリー志向へのパラダイムシフトが必要とされていますが、これらは専門職だけでは不可能だと考えています。今後は、当事者の方々と一緒に変革していく必要性があり、そこに大きな力を発揮するのがピアスタッフたちだろうと考えています。

現在はピアスタッフをめぐる状況は大きく変化していますので、今後上記研究結果からは現状の変化と共に、変遷してくると思われます。が、上述の調査研究は、日本で初めてのピアスタッフに関する研究であり、今後のピアスタッフ研究のベースとなります。

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今後の目標について

編集部:相川様の研究における最終的な目標を教えてください。

相川様:現在、ピアサポートに関する研究を進めております。ピアサポートはピアスタッフが大事にしている関係性や、核となる理念や価値の理論と言えます。ピアサポートは、近年、システム論やサービス論として語られることが多くありますが、本来の価値や理念、哲学について言語化し、共有する必要性を感じ、理論構築研究を進めています。

ピアサポートの理論構築とともに、価値や哲学を共有することを目指しています。

それは、私たちの暮らしは、上下関係、力関係、または排除されたり・したりなど、すべてのコミュニティでこのようなことはおきていて、そのなかで生きづらさを抱えている人がいます。そこから病気になってしまったり、なかには自死へと追い込まれたり、看過できない状況が身近に広がっています。そして、身近な人に何かが起きてから何かできなかっただろうかと、思い悩みます。誰もが共に暮らしていくためには、誰もが暮らしやすい、居心地の良い街、関係性を作ることだと思っています。精神障がいのみならず、LGBTQ、働く人々、子育てしている親、ヤングケアラー、自死遺族、などなどさまざまな領域でピアサポートが展開されているのは、それが、生きづらさを和らげ、自分の価値を感じ、生きる希望を見出すという実証があるからに他なりません。共生社会構築に向けた具体的な方法論の一つがピアサポートだと考えています。

最終的な目標は、ピアサポートを多くの人たちが理解し、それらを実践し、ピアサポートを文化にしていくことを目標としています。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

相川様:これまでは主に精神障害のある人々のピアサポート/ピアスタッフ研究を行ってきていますが、今後は、生きづらさを抱えた子ども・若者たち、不登校・ひきこもっている方、ヤングケアラー、LGBTQ、子育て支援、介護者や家族等ケアラー、など多様な領域におけるピアサポートについて実証的な調査を行なっていき、その普遍性を明らかにしたいと思っています。

加えて、これらの方々へのアウトリーチを行うピアサポートによる実践を展開して介入研究等も行いたいと思っています。今後は、支援のあり方を日本の施設集団型福祉支援から、アウトリーチ型個別支援へとパラダイムシフトが必要と考えており、それは全ての領域において必要だと考えておりますので、それらの実証的な研究ができればと夢想しています。

また、支援者のピアサポートの実態の把握と共に、その必要性に関する研究も手掛けられればと思っています。

健達ねっとのユーザー様へ一言

コロナ禍で、ソーシャルディスタンスを取らなければならない状況で、人々が孤立しがちです。一方、医療従事者は日々のコロナの状況への対応に追われ続けていらっしゃるとおもいます。心から尊敬と感謝の念でいっぱいです。

ピアスタッフのピアサポートは不可欠ということが言われていますが、これはピアスタッフに限らず、対人支援にかかわる人はすべてに言えると思っています。自分の中のバウンダリー、クライエントとのバウンダリーなどを保ちつつも、目の前の状況に咄嗟に対応しなければならない状況が続くと、自分の心身の健康を守ることが二の次になってしまうということは、支援者には起こりがちです。燃え尽き(バーンアウト)してしまうというのは、コロナ禍に限らず、支援者のテーマとなってきました。支援者にはスーパービジョンが不可欠ですが、日本は必ずしもスーパービジョン体制がピアスタッフに限らず、専門職者にも整備されていない場合は少なくありません。せめて支援者のピアサポートは豊かに構築し、互いに助け合い、またそのことが高めあうことにつながり、持続可能な支援体制が構築されるよう、私もピアサポート研究でできることを展開したいと思っています。

ぜひ、身近な同僚、身近な方々との繋がりを大切にし、「経験を語り合う」という「するーされる」を超えた、居心地の良い関係を構築し、その輪を広げていただきたいと思います

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薬の使い方

聖学院大学心理福祉学部心理福祉学科 教授

相川 章子あいかわ あやこ

精神保健福祉士 
日本社会福祉学会(代議員) 
日本デイ・ケア学会(評議員) 

  • 精神保健福祉士 
  • 日本社会福祉学会(代議員) 
  • 日本デイ・ケア学会(評議員) 

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