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トップページ>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>認知症の方や介護者のケアに認知症マフを

認知症の方や介護者のケアに認知症マフを

今回は、認知症の方のケアに使われ始めている「認知症マフ」の使い方や効果について、浜松医科大学臨床看護学講座の鈴木みずえ様からお話を伺いました。

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認知症マフとは?

出典:「認知症マフを作ろう!」 朝日新聞厚生文化事業団

編集部)そもそも認知症マフとはどのようなものなのでしょうか?

鈴木様)マフとは本来、両手を入れる形の防寒具のことをいいます。
そのマフにアクセサリーや毛糸玉をつけ、認知症の方の触覚や感覚を刺激し、心に安らぎを与えるものが「認知症マフ」です。

イギリスでは「Twiddle Muff」といわれ、直訳すると「(手で)いじるマフ」となります。

認知症重度の方の中には、手元が落ち着かず不安になってしまったり、点滴の管が不快で外してしまったりする人がいます。
そういった方は施設によっては、ミトン型の拘束具や紐などで身体拘束が行われてしまう場合があります。

認知症マフを使えば、身体拘束をすることなく危険から認知症の方を守ることができ、さらに認知症の方の心を落ち着けることもできます。

イギリスでは認知症の方を身体拘束しないという方針になっており、マフが高齢者施設や病院等様々な場面で活用されています。
特に新型コロナウイルスの大流行可において、急性期病院での活用が増えたと言われています。

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使い方やその効果とは?

編集部)認知症マフはどのような方に使うのが効果的なのでしょうか?

鈴木様)全ての認知症の方に使えるわけではありません。

どちらかというと重度の認知症の方で、言語的なコミュニケーションをうまく取れなかったり、外に行って活動ができず刺激がなかったりして気持ちがイライラしてしまう方、また前頭葉の障害があり目に見えるものの刺激によってそれを掴んでしまう(点滴のチューブなど)ような方に使用していただけます。

ただ認知症マフを手渡すだけでなく、「よかったら触ってみませんか?」「〜さんの好きな動物のアクセサリーがついていますよ」などとコミュニケーションをとり、その方の反応を見ながら渡して下さい。

心地よい手触りや自分の好きなアクセサリーがついていることによって、そちらに興味が移理、気持ちが穏やかになるとか、チューブをつかむ代わりに認知症マフについている毛糸玉を掴んでもらうといった効果があります。

また、介助の際にベッドから車椅子に移乗するときにベッドの柵を掴んでしまう方や汚れてしまったオムツを触ってしまう方がいます。そういった方に認知症マフを渡すことで、安心して介助ができたり、清潔に介助することができたりと、介護をする側の負担も軽減させることができます。

実際にあったことなのですが、昔編み物が好きだった女性の方でほとんど話すことがない女性に認知症マフを渡したところ、昔のことを楽しそうに語り出した方もいました。

特に病院は無味乾燥な場所なので、色彩豊かで和やかな認知症マフがあることで、会話が弾むということがあるようです。

編集部)なるほど、使用する方の感覚や記憶を刺激するだけでなく、介護をする側の心もケアしてくれるということなのですね。

鈴木様)そうですね。

実際に使用していただいた病院や施設で働いている方にアンケートを取ったのですが、「患者さんと穏やかに話すことができるようになった」「コミュニケーションが取れるようになった」「ミトン型の拘束具を外して過ごせるようになった」というポジティブな意見が多く見られました。

作る人も心が穏やかに

編集部)認知症マフは認知症の方のケアにも、その方を介護する方のケアにもなるということでしたが、どこで手に入るのでしょうか?

通販でも手に入れることができるのですが、介護者の方には是非、認知症マフを作るところからやっていただきたいなと思っています。
作る側は、認知症の方のことを思いながら作りますし、普段介護をしているため、その方のパーソナルな部分を知っていますよね。
ですので、認知症の方の好みや趣味に合わせた色味やアクセサリーを使って編むことができます。

また、認知症の方を思い心を込めて作ったものを使っていただくことで、「心がつながる」、そんな貴重な時間を過ごすことができると思います。

もちろん、スタッフの方は皆「認知症の方が少しでもよくなってほしい」という思いで接していると思うのですが、それをうまく表現するのはなかなか難しいことです。

その気持ちを認知症マフという一つの作品として渡すことで、想いを届けることができると思います。

今後認知症マフというケアのツールがいろいろな場所で使われればいいなと思っています。

また、認知症マフを作ってくれるボランティアがあるのですが、そこに所属している方々の生きがいに繋がっているという側面もあります。

高齢者のボランティアの方々は、「自分の趣味が誰かのためになっていて嬉しい」「認知症の方に自分の作品が使われていることが人生の光になる」とおっしゃる方がたくさんいます。

こういった活動によって、地域のネットワーク作りですとか、認知症の方に対する偏見も減っていくのではないかなと思っています。

編集部)高齢者の方によるボランティアもあるのですね、他はどういった年代の方がボランティア活動をおこなっているのでしょうか?

鈴木様)静岡県では、高校生のサークルなど若い方の活動なども活発に行われています。そこで作られた認知症マフが、地域包括支援センターの協力のもと高齢者施設に配られたりしています。

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広がる活躍の場

鶴岡市包括ふじしま 撮影

編集部)病院や高齢者施設などで使われているとのことでしたが、他で使用されている場面はあるのでしょうか?

鈴木様)救急車で搬送される高齢者の方に使ってもらうというのがあります。

転倒骨折や意識障害を起こしたりして、意識が混濁していたり不安に感じたりしている人に認知症マフを手渡すことによって、気分が落ち着き安心するということがあるようです。

静岡ではまだやっていないのですが、先日山形で、認知症看護認定看護師の方によって救急隊員の方に認知症マフが渡されたようです。

静岡県では一部の急性期病院や療養型病院では、身体疾患の治療のために入院した認知症患者の方にケアとしてマフが活用されています。今後も、マフ導入しようと準備をしている病院もあります。

今後このようにどんどん活躍の場が広がっていくと嬉しいですね。

実際のニュース記事:ニットの編み物で認知症患者をケア・・・その名も「認知症マフ」|Nスタ山形

健達ねっとECサイト

お話のスイッチを入れる

編集部)先ほど、認知症マフを実際に使ってみたところ、昔のことを話すようになってくれた方がいたという事例をお話しいただきましたが、認知症マフには症状を軽減してくれる効果があるということなのでしょうか?

鈴木様)おそらく認知症の方は、元々話すことはできるのだと思います。

入院や施設に入ることによる緊張で、話すことが難しくなっているだけで、認知症マフというきっかけを得たことで「お話のスイッチ」が入り、話してくれるようになったのではないかと思います。

編集部)なるほど、そもそも認知症重度の方が話せないというのは我々の思い込みであって、話すことはできるのではないかということですね。

鈴木様)そうですね、もちろん症状が進行して、本当に話すことが難しいという方もいらっしゃると思います。

しかし、長谷川スケールで0点だった人でも、1対1でじっくり話してみると、自分の思いを伝えてくれる人もいました。

その方は、「自分が何もわからなくなってきて本当に辛い」とおっしゃっていました。そこで私は、認知症の方は何もわからなくなっているのではなく、感じていることはあるけれどそれをうまく言語化して伝えることができないだけなんだと気づきました。

もちろん医療や介護のスタッフさんは、他の仕事や他の入居者様のケアなどで、1人1人に割く時間は限られているかもしれません。

認知症の方がスタッフさんに話そうとしても会話のテンポが合わなかったり、スタッフさんが忙しく話を聞く姿勢を取れなかったりと、認知症の方が話しやすい環境を現状のケアの場面では作れていないように感じます。

このような状況によって、認知症の方が何かを伝えようとしても伝わらない、何を訴えようとしても無駄なんだという無力感にも繋がりかねません。

しかし、認知症マフを使うことで、昔の記憶が蘇り思い出話を始めたり、スタッフさんが「そのマフ可愛いいですね」と話しかけるきっかけになったりして、認知症の方とスタッフさんが同じ時間を自然に共有できるようになるのではないかと思います。

編集部)なるほど、認知症マフは介護する側・される側のどちらの心も穏やかにしてくれる素晴らしいツールだということがわかりました。

今後どんどん使われる場が広がっていってほしいと思います。

本日はどうもありがとうございました。

薬の使い方

認知症マフを作ってみる

鈴木様もおっしゃっていたように、認知症マフは認知症の方のことを思って編むことが重要です。

そこでこの項目では、認知症マフの編み方のポイントや、編み方について紹介している記事をまとめましたので、気になるページに飛んでみてください。

また、鈴木様が認知症マフの活躍の場を広げたり、情報を共有したりするために立ち上げたFaceBookのグループ「マフを認知症ケアに活用するグループ」では、医療従事者から高校生のボランティアグループまで、さまざまな方々が情報交換をしています。

ぜひご覧ください。

下記に浜松医科大学で作成した「Twiddle Muff(認知症マフ)の活動実践ガイド」があり、PDFで印刷できますので、ご活用いただければ幸いです。

https://onl.sc/pUXiPhZ

浜松医科大学臨床看護学講座

鈴木 みずえすずき みずえ先生

医科学修士(筑波大学)
医学博士(筑波大学)
日本老年看護学会

  • 医科学修士(筑波大学)
  • 医学博士(筑波大学)
  • 日本老年看護学会

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