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【専門家インタビュー】在宅療養支援診療所に関する研究

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研究内容について

編集部:「地域の在宅療養支援診療所数に影響を与える要因―都道府県データを用いた実証分析―(西本真弓様、西田喜平次様の共著論文)|厚生労働統計協会、『厚生の指標』、2019年4月15日、第66巻、第4号、pp.22-28」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

西本様:在宅療養支援診療所(以下、在支診)とは、居宅で療養する患者からの連絡に24時間対応することができ、その求めに応じて24時間往診または訪問看護の提供や手配ができ、緊急時に入院できる病床を常に確保している診療所のことである。本研究では、在支診数の地域差は、どういう要因により生じるのかを実証分析により明らかにすることを目的としている。

分析の結果、以下の点が明らかになった。まず、年間の雪日数が多い地域ほど在支診数は少なくなる傾向がある。このことから、雪はスムーズな移動を妨げる要因となり、訪問診療や往診に労力がかかることが届け出を躊躇させている可能性があることがわかる。また、後期高齢者医療費が高い都道府県では在支診数が有意に多くなっている。高齢者の医療機関での支払いが多い地域では経済的インセンティブが働き、在支診の届け出が促される傾向があると考えられる。次に、一般診療所数が多いと在支診数が多くなるという結果が示されたが、一般診療所が多い地域は在支診として届け出を出せる診療所が多いことから予想通りの結果といえる。一方、療養病床数が多いと在支診数は少なくなるという結果が示された。在支診と療養病床は対象患者の属性がほぼ同じであることから、療養病床が多い地域では在支診の必要性が少なく、在支診として届け出をしない傾向があるといえる。また、医師数が多い都道府県では在支診数が多くなる。地域の医師数が少ない地域では、24時間対応を可能にするほどの医師数を確保できない可能性が高くなり、在支診の届け出を抑制することが考えられる。

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

西本様:今、我が国では高齢化の進行を受けて、高齢者医療や介護においてさまざまな課題が生じてきている。その課題の一つとしてあげられるのが終末期医療にかかる膨大な医療費である。特に終末期には高額な医療費が必要になると言われている。前田・福田(2007)は、後期高齢者入院医療費平均でみると、1人1か月当たりの入院医療費が414.3千円であるのに対し、死亡前30日以内1人当たり入院医療費は平均で633.1千円になり、後期高齢者入院医療費平均の1.53倍であると述べている。*1

今、国民の8割弱の人が病院で終末期を迎えていること、そして、病院で終末期を迎えた場合に高額な医療費が必要となることが、我が国の医療保険の財政を圧迫している。そこで、終末期の患者を医療機関から在宅へ促す政策の一つとして創設されたのが在支診である。在支診数は国全体でみると増加傾向だが、地域的にみた場合、在支診数に差はあるのだろうか。また、地域差があるとしたら、それはどういう要因により生じるのだろうか。こうした要因を探るために都道府県データを用いた実証分析による検証を行うに至った。

編集部:「在支診における看取りは目的どおりに機能しているのか?―大阪府在支診の個票データによるアプローチ―(西本真弓様、村上雅俊様の共著論文)|阪南大学学会、『阪南論集 社会科学編』、2017年3月31日、第52巻、第2号、pp.151-167」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

西本様:在支診創設の目的の一つに在宅看取りがあるが、果たして在支診は当初の目的に沿って機能しているのだろうか。在宅看取りを行っている在支診と、行っていない在支診があるとするなら、その違いはどういう要因により起こるのだろうか。 患者に対する往診や訪問診療の度合いが影響しているのだろうか。こうした在支診の実情を明らかにするため、本研究では大阪府の在支診について集計を行っている。
分析の結果、以下の点が明らかになった。在宅看取り0名の在支診は905施設で、これは大阪府の在支診の約57%にあたる。また、在宅看取りが行われている在支診の約3分の1が在宅看取り数1名であった。次に、在宅看取りが行われている在支診の看取り率で最も多いのが20%以上40%未満で、次いで40%以上60%未満、80%以上と続く。看取り率80%以上の在支診は、在宅看取りが行われている在支診に占める割合が約2割で、看取り率が0%より多く20%未満の在支診は、在宅看取りが行われている施設に占める割合が1割弱であった。また、看取り率の低い在支診より看取り率の高い在支診の方が訪問診療回数が少ない傾向があることがわかった。

編集部:西本様が考える本研究の意義を教えてください。

西本様:在支診は2006年に新設され、施設数は割と順調に増加している。しかしながら、在支診の重要な目的の一つとしてあげられている在宅看取りの実績は、国が期待している通り行えているのかというと、大阪府の在支診の約57%において在宅看取りが行われていなかったことから、期待通りとはいえない現状が明らかになった。また、個々の在支診の在宅看取りの状況は実に様々で、全く在宅看取りを行っていない在支診がある一方で、非常に熱心に在宅看取りを行っている在支診もあり、本研究でこうした個々の在支診の実情を明らかにしたことは意義があるといえる。今後、在宅看取りが多く行われている在支診の属性は何なのか。またどういう傾向があるのか。こうした点をさらに詳細に明らかにすることができれば、在宅看取りを促進する制度、政策の提案へと繋げていけると考えている。本研究は集計レベルでの検証であったが、今後は実証分析を用いて在支診における在宅看取りに影響を与える要因をさらに明らかにしていく。

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今後の目標について

編集部:西本様の研究における最終的な目標を教えてください。

西本様:我が国の高齢化の将来推計をみると、2021年時点での高齢化率が28.9%であるのに対し、2036年の高齢化率は33.3%となり、2065年には38.4%に達すると予測されており*2、死亡者数のピークは2040年と推計されている。また、国民は人生の最期をどこで迎えているのかというと、1951年においては約8割の人が自宅で最期を迎えていたが、近年では8割弱の人が医療機関で最期を迎えており*3、終末期医療費の問題が我が国の重要な課題の一つとなっている。そこで国は今、「治す医療」から「治し、支える医療」へと転換し、終末期における患者を医療機関から在宅へと促す政策を推進している。

一方、最期を迎えたい場所について国民の希望はどうかというと、自宅が69.2%で最も多く、次いで医療機関が18.8%、介護施設が1.4%、無回答が10.5%で*4、約7割の国民が自宅で最期を迎えることを希望している。つまり、国の希望と国民の希望は在宅療養という同じ方向にあり、在宅医療の促進が進むことが両者にとって望ましい形ともいえる。よって、研究における最終的な目標は、在宅療養を望む患者の選択肢を広げられるようなシステムづくりを行うことである。

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

西本様:現時点においても、すでに医師は過重労働であり、今後、医師数が急速に増えるということも考えにくい。しかし、死亡者数は2040年にピークを迎えることになり、医師のマンパワーが確保できなくなるのは避けられない事態である。こうした状況下において、在宅看取りを促進するためには在宅医療における他職種他機関連携が必要になってくるのではないだろうか。連携により訪問診療や往診を効率的に行い、在宅医療における生産性を上げなければ、我が国において「看取り難民」が発生してしまうこともあり得るのではないかと懸念している。

そこで、もっか、在宅医療における効率性をアップさせることを目的とした他職種他機関連携アプリの開発を試みているところである。本アプリが在宅医療における生産性向上の一役を担えればと考えている。

健達ねっとのユーザー様へ一言

昨年末より、両親2人の介護が同時スタートして、研究として在宅医療をターゲットにすることと、実際に両親を介護することは次元が違うと実感しています。また、自分の最期を考えることと、両親の最期のあり方もやはり異なっていると感じます。特に、両親の介護については、迷いが相当、生じてしまいます。きっと、自分とはまた別の人格を持つ両親の最期の希望を100%汲み取れているのか、それが明確ではないからだと思います。
人生の最期については、人それぞれの希望があり、100人いたら100の希望があるのではないかと思います。そんな中、国は在宅医療を促進させて、終末期医療費の増大を食い止めたいと考えており、国民自身も自宅で最期を迎えたいと思っている人が多いと思います。開発中の他職種他機関連携アプリが在宅療養の促進に繋がり、社会貢献の一つになればいいなという思いで、研究活動を行っているところです。

研究活動の詳細は、2023年3月、晃洋書房より出版した『看取り難民にはなりたくない ―最期まで美味しくビールを飲むために―』にしたためております。ご興味がある方はご一読いただければ幸いです。


脚注
*1 前田由美子・福田峰(2007)「後期高齢者の死亡前入院医療費の調査・分析」、日本医師会総合政策研究機構、『日医総研ワーキングペーパー』、No.144、pp.1-16。
https://www.jmari.med.or.jp/download/WP144.pdf
2022年11月22日取得。

*2 内閣府(2022)『令和4年版高齢社会白書』。
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
2022年11月22日取得。

*3 厚生労働省(2017) 意見交換 資料-2参考1 29 .3.22 テーマ1 看取り 参考資料。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000156003.pdf
2022年11月22日取得。

*4 厚生労働省 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会(2018)
「平成29年度人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書 平成30年3月」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_h29.pdf
2022年11月22日取得。

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阪南大学経済学部教授

西本 真弓にしもと まゆみ

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