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トップページ>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>老年期の睡眠障害と認知症

老年期の睡眠障害と認知症

 

睡眠と物忘れの問題は、加齢とともに増えていきます。

今回は、老年期の睡眠障害の特徴、睡眠障害と認知症の複雑な関係、そして、睡眠障害を改善し、認知症のリスクを下げるにはどのような生活をするのがよいかについてお話ししたいと思います。

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年齢とともに、睡眠時間は短くなっていく

まず、老年期の睡眠障害についてです。

身体のリズムには“昼間は活動性が高まり、夜間は深く眠る”という変動があります。
老年期になると、この変動の幅は小さくなり、深い睡眠が減り、寝ている途中で目が覚めることや、朝早くに目が覚めることが増えます。結果として、早寝早起きになっていきます。

人間の平均的な睡眠時間は25歳で7時間程度ですが、65歳では6時間程度に減少し、その後も減っていきます。

睡眠のこのような変化の背景には、睡眠促進ホルモンとも呼ばれる「メラトニン」の分泌低下や、日中に身体を動かすことが減り昼寝が増えること、加齢に伴い出現しやすい泌尿器関連の問題で、夜頻回にトイレにいくようになることなどがあります。
ほかにも、皮膚のかゆみ、飲んでいる薬なども影響します。

しかし、そういったさまざまな影響を受けて夜眠れなくなったときに、睡眠へのこだわりや、不眠に対する恐怖、不安などがあると、慢性の不眠症になりやすくなります。

十分な睡眠がとれないことに不安になる人や、「年代を問わず、睡眠時間は8時間とれなければおかしい」「自分の睡眠時間は短すぎる」と思い込む人。
さらに、「寝付くのに時間がかかるのであれば、早めに布団に入ろう」「少しでも長く横になっていたほうがよい」と考えて、夜7時など、早い時間から寝床に入ってじっとしている人もいます。

それではかえって不眠が固定されてしまいます。
また、お酒を飲んで眠ろうとして、依存症や身体状態の悪化、転倒や認知症のリスクを高めてしまう人もいます。

このような間違った対応をとらないためにも、“適切な睡眠”というものを理解し、不眠を改善する生活習慣を意識することが大切です。
また、医師の指示のもと、睡眠薬を服用している人であれば、その正しい使い方を知ることも重要です。

睡眠障害についてこちらの記事でも詳しく解説していますので、睡眠障害についてさらに気になる方はぜひご覧ください。

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不眠があると認知症に、認知症があると不眠になりやすい傾向がある

 

次に、睡眠障害と認知症の関係についてです。
認知症にはいろいろな種類がありますが、今回のコラムでは、日本でいちばん多いとされている「アルツハイマー型認知症」をもとに、睡眠障害との関係を考えてみたいと思います。

アルツハイマー型認知症の人の睡眠には、健康な高齢者と比べて

  1. 総睡眠時間が少ない
  2. 布団の中できちんと眠れている割合が少ない
  3. 中途覚醒が多くなり、レム睡眠が減少する

といった特徴があります。
結果的に、夜によく眠れず日中の昼寝が増えるほか、「せん妄」といって、脳が混乱して場所や時間、人などがわからなくなる状態が出現しやすくなります。

また、慢性的な不眠がある人は、そうでない人と比べて、将来認知症になるリスクは男性で53%、女性で25%上昇すると報告されています。

アルツハイマー型認知症は、年齢が上がるにつれて罹病率も上がります。
さらに、アルツハイマー型認知症の人の脳内には「老人班」や「神経原繊維変化」という所見が見られますが、その原因となるのが「アミロイドベータ」や「タウ」という物質です。
これらの脳への蓄積が、認知症の症状の出現や進行に関与していることが明らかになっています。

睡眠障害とアルツハイマー型認知症発症との関係においては、以下のような悪循環に陥りやすいとされています。

  1. 老年期になると睡眠の途中で目覚めやすくなり、睡眠が断片化する
  2. 脳の神経活動が増え、脳内でアミロイドベータが過剰に放出される
  3. アミロイドベータが脳内にたまっていく
  4. たまったアミロイドベータにより睡眠に関与する脳機能が障害され、ますます睡眠が断片化する

それ以外にも、断片的な睡眠によって日中の活動性が低下することや、不眠症の一因である睡眠時無呼吸症候群により、脳に低酸素・炎症ストレスが生じることが、アルツハイマー型認知症になりやすくなる要因と考えられています。

アルツハイマー型認知症については、こちらの記事で詳しく解説しています。
アルツハイマー型認知症についての情報が気になる方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。

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睡眠の改善が、認知症の発症や進行を遅らせる手がかりに

ひと晩の睡眠では、脳を休めたり成長ホルモンを分泌したりする「ノンレム睡眠」と、体を休めたり夢を見たりする「レム睡眠」のサイクルが約90分かけて行われ、これを4~5回繰り返して朝を迎えます。

ノンレム睡眠中には、脳やにある「脳脊髄液」の流れが発生し、それによりタウ蛋白などの不要物が脳外に排泄されることが報告されています。

また、マウスを用いた最近の研究では、レム睡眠中のマウスの脳内において、毛細血管に流れ込む血流が増えることが報告されました。
つまり、ノンレム睡眠中の脳脊髄液の流れと同様に、レム睡眠中の血液の流れも、脳内の不要物の脳外への排泄に関与していると考えられるのです。

実際に、睡眠時間が短い人では脳内のアミロイドベータやタウ蛋白が増加することや、レム睡眠時間の割合が少ない人ではアルツハイマー型認知症発症のリスクが高いことなど、睡眠の質の低下がアルツハイマー型認知症発症に関与している証拠が多く見つかっています。

このため、睡眠を改善できればアルツハイマー型認知症の発症や進行を遅らせられるのではないか、といった研究が行われています。

睡眠とアルツハイマー型認知症発症の関係について、こちらの記事でも解説しています。

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規則正しい生活を心がけ、睡眠の質を高めよう

睡眠を改善するための「睡眠衛生指導」と呼ばれる生活指導があります。
具体的には以下のようなものです。

【睡眠衛生指導】

  • 規則正しい生活(朝起きたら、日の光を浴びる)
  • 規則正しい食事
  • 定期的な運動
  • 昼寝をするなら15時より前で、30分以内にとどめる
  • 夕方からは、部屋の照明が明るくなりすぎないようにする
  • 寝る2時間ほど前に、ぬるめのお風呂にゆっくりと入る
  • 寝る1時間前は、スマートフォンなど明るすぎるものを見ない
  • 眠る前のカフェインやたばこ、アルコールを控える
  • 睡眠時間の長さにこだわらず、“日常生活に支障が出なければよい”程度に、気楽に考える
  • 心地よいと感じる部屋の温度や湿度
  • 眠くないのに無理に眠ろうとして寝床で過ごさない

【認知症の方への生活指導】

いっぽう、認知症の方への生活指導としては、以下のようなものがあります。

  • 規則正しい生活リズムを保つ
  • 糖尿病や高血圧症などの生活習慣病になりにくい、バランスの良い食事
  • 軽い有酸素運動など、肥満ややせすぎにならない運動習慣
  • 質のよい睡眠
  • 社会的に孤立しないようにする
  • 自分ができる家事は自分で行う
  • 興味がある分野の知的行動を積極的に行う

こうして見ると、よい睡眠のために必要なことと、認知症の方への生活指導は共通するものが多いことがわかると思います。
そして大事なのは、すべてを行おうとするのではなく、自分たちにできる範囲で行い、続けていくことです。

睡眠はそれ自体が生活における大きな問題であると同時に、睡眠障害がもたらす認知症のリスクを考えると、質のよい睡眠の大切さがわかります。
今回お話しさせていただいたような、睡眠に関する正しい情報をもとに、自分で取り組める生活習慣や環境の改善を図っていくことが、よりよい生活につながると思います。


日本医科大学大学院医学研究科 精神・行動医学分野大学院教授
舘野 周 先生

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