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【ドクターズコラム】高齢者の転倒リスクを抑える

杏林大学医学部高齢医学教室 教授

神﨑 恒一 先生

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転倒のリスクは、生活のいたるところに潜んでいる

高齢者は屋内外、自宅か施設かを問わず、さまざまな場所で転倒する危険があります。高齢になるほど、また認知症があると、その危険は高まります。

転倒は下の図に示すようにさまざまな原因でおこり、多くの場合で複数の原因が関わるため、十分注意したとしても防ぐことがなかなか難しいです。

 

 

たとえば、次のようなときに転倒が発生します。

  • 自転車が横をすり抜けて、驚いて転倒
  • ふらっとしてそのまま転倒
  • 後ろの椅子の位置を誤って、椅子のないところに腰を降ろして転倒
  • 固定されていない物に寄りかかって転倒
  • 他者を支えようとして一緒に転倒
  • 夜間トイレへ行く際に、ベッドから転落・転倒
  • じゅうたん・バスマットの縁に足が引っ掛かって転倒
  • 車を降りたところで段差に気付かず転倒
  • 駐車場の縁石で躓いて転倒
  • 玄関~庭先の段差や、じゃり道で転倒

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ほんの小さな段差でつまずくなど、思わぬところで転倒する

このように、もともと体や脳の衰え(注意力の低下)があるところに、予期せぬことが起こったとき、咄嗟に対応できないことが多いです。しかも、明らかな段差ではなく、じゅうたんやバスマットの縁など、気付かないような小さな段差で足が引っ掛かって転倒することに注目すべきです。こんなところで、というところにつまずきます。

また、自分では大丈夫と思っても、他者が倒れるのを支えようとして一緒に転倒することもあります。

そしてありがちなのが、固定されていない台や椅子(特にキャスター付きのもの)に寄りかかって、そのまま転倒する場合です。これは大きな事故につながります。

そのほか、デイサービスなどの介護施設では、「認知症があって徘徊する」、「危険を十分認識できない」、「指示に抵抗する」、「車椅子から急に立ち上がったり、ブレーキをかけ忘れたりする」、「尿意や便意のため落ち着かない」といったことなども、転倒や、車椅子からの転落事故につながります。

薬の副作用や、脱水と自律神経の異常も転倒の原因に

薬の影響も大きいといえます。「抗不安薬」や「睡眠薬」、特に「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる薬は、副作用によりボーッとなりやすく、夜間だけでなく日中でも注意力が低下し、転倒する危険があります。また、ベンゾジアゼピン系薬剤には筋弛緩作用があるものもあるので、脚に力が入らず、膝がカクッと曲がってそのまま転倒してしまうことがあります。

抗不安薬、睡眠薬だけでなく、「抗うつ薬」、「抗精神病薬」、「抗てんかん薬」、「抗ヒスタミン薬(鼻炎や風邪の薬)」でも転倒が生じやすいことがわかっています。抗ヒスタミン薬を除いて、これらの薬は「向精神薬」と呼ばれるもので、脳に作用してボーッとなるのは無理からぬことです。服用せざるを得ない状況であれば仕方がありませんが、必要がなくなっても飲み続けていることがあります。かかりつけ医と相談しながら、徐々にやめていく努力は必要でしょう。

「脱水」や「自律神経調節障害」による血圧低下、めまい、ふらつきも転倒の原因になります。自律神経調節障害とは、排尿・排便後、入浴中、飲酒後などに、立ちくらみや起き上がれないといった症状が生じる状態です。

いつも起こるわけではないですが、熱があって体調が悪いとき、風邪薬を飲んだとき、夏場の脱水(暑い部屋で閉め切っているなど)には注意が必要です。これらが誘因となって、立ち上がったときや、立ってしばらくしてから、あるいはトイレで排泄した後などに「急にめまいがして倒れてしまった」、転倒ではありませんが、「飲酒後起き上がれない」、「浴槽内で力が入らず浴槽から出られない」など、自律神経の異常と脱水が重なって、体に力が入らない、意識が遠のくことも大きな問題です。

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転倒は、重大な後遺症を伴う事故。要因を取り除いてリスクを抑えよう

実は、転倒のいちばん大きなリスクは「最近転んだ」ということです。すなわち「二度あることは三度ある」のです(この場合は「一度あることは二度ある」ですが)。

最近、とりわけ1年以内に転倒した人は注意が必要です。転倒は複合的な要因で起こるため、原因を特定することは難しいですが、前述の図の中で当てはまるものがあれば、取り除くようにしてください。特に、薬や屋内の障害物除去は取り組みやすいので、そこから手をつけるとよいでしょう。

次に、体操、テーブルにつかまってのスクワットなど、下肢の筋力を上げることをおすすめします。また、栄養の改善、特にたんぱく質を積極的にとることも大事です。たんぱく質は筋肉を作り、働かせるうえで重要です。

体操も栄養も意識しなければできないことですが、転倒は骨折、頭部打撲による脳やクモ膜下出血、損傷(食べられなくなる)、以後歩けなくなるなど、重大な後遺症を伴う事故です。ずっと健康でいるために、そしてほかの人に迷惑をかけないために、しっかり取り組んでいただきたいと思います。

なお、日本老年医学会と全国老人保健施設協会では「介護施設内での転倒に関するステートメント」を発表しました(*)。これは施設内で発生する転倒について取り扱ったものですが、参考になると思いますので、機会があればご覧ください。

 

【注釈一覧】

*)「介護施設内での転倒に関するステートメント」

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210803_01_01.pdf

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