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トップページ>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>【ドクターズコラム】“FINGER”で認知症予防

【ドクターズコラム】“FINGER”で認知症予防

横浜総合病院・横浜市認知症疾患医療センター

長田 乾 先生

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認知症予防に有効な“FINGER”とは

2021年6月、「アデュカヌマブ」がアルツハイマー病の初めての根本治療薬(疾患修飾薬)として米国食品医薬品局の迅速承認を受けたことは、認知症診療において大きな福音です。しかしながら、アデュカヌマブの適応症は、軽度認知障害と軽症のアルツハイマー型認知症に限定されると予想されます。そのため、大多数の認知症患者に対する治療は、従来の抗認知症薬による対症療法に加えて、認知症の危険因子の管理・治療や、非薬物療法などが中心になると考えられます。

2019年に世界保健機関(WHO)が発表した、「認知機能低下および認知症のリスク低減ガイドライン」によると、不活発な生活、喫煙、不健康な食事、過剰な飲酒などの“ライフスタイルに関連する因子”に加えて、中年期の高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、抑うつ、難聴などの病態が、認知機能低下や認知症の発症リスクと関連することが示されています。さらに、潜在的に修正可能な危険因子として、社会的孤立や、知的活動の低下などが挙げられています。 

ライフスタイル

ガイドラインでは、こうした修正可能な危険因子を修正・管理・治療することによって、認知機能低下や認知症の予防が可能になると結論づけています。すなわち、認知症の予防は「何をすれば認知症にならないか?」や「何を食べれば認知症になりにくいか?」といった単純な図式ではなく、複数の危険因子に対して包括的に取り組むことが重要だと考えられます。

そこで、フィンランドで2009年から2011年にかけて実施された「FINGER試験」について紹介します。FINGERとは”The Finnish Geriatric Intervention Study to Prevent Cognitive Impairment and Disability”(認知機能障害予防フィンランド高齢者介入研究)の略。認知症リスクがやや高い高齢者を対象に、①栄養カウンセリング、②運動習慣、③認知トレーニング、④代謝・血管性危険因子の管理、という複数の視点からの介入効果を検証した、前向きな臨床研究です。FINGER試験

FINGER試験の対象となった高齢者は、認知機能評価により認知症のリスクがやや高いと診断された、平均年齢68歳(60歳〜77歳)の1260人です。彼らを「集中介入グループ」と「対照グループ」に無作為に振り分けし、「認知機能の推移」、「7年後までの認知症発症リスク」、「うつ気分」、「心血管疾患の罹患率・死亡率」、「生活の質」、「頭部MRI所見」などについて、2年間にわたって観察しました。研究を開始した時点のMMSE(*1)の平均点は30点中27.4点で、BMI(体格指数)(*2)の平均は28.8でしたから、小太りの集団です。

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きめ細かな健康管理が認知機能の改善に!

FINGERで実際にどんなプログラムを実施したのか、少し詳しく解説します。

①栄養カウンセリング

地中海食「集中介入グループ」では、2年間にグループ指導7回と、個人指導3回の栄養カウンセリングを行いました。このカウンセリングでは地中海式ダイエットを取り入れ、次のような目標が設定されました。

  • たんぱく質は1日に摂取する総エネルギーの10〜20%、脂肪分は25〜35%、炭水化物は1日に摂取する総エネルギーの45%~55%を目標にとる
  • 飽和脂肪酸およびトランス脂肪酸は10%以下に控えて、オメガ3脂肪酸を1日に2.5~3g摂取する
  • 食物繊維を1日25〜30gを目安にとる
  • 塩分は1日5g以下、アルコールは控えめにし、砂糖は1日50gまでとする
  • バターの代わりに植物性マーガリンやオリーブオイルを使う
  • 少なくとも1週間に2回魚を食べる
  • 野菜や果物を豊富に摂取する など

②運動習慣

「集中介入グループ」では、最初の半年で週1〜2回の筋肉トレーニングと、週2〜4回の有酸素運動を行い、後半の1年半には週2〜3回の筋肉トレーニングと、週3〜5回の有酸素運動を行いました。

③認知トレーニング

認知トレーニングの視点から、前半の半年では、年齢による認知機能の変化と、それを踏まえた日常生活での対処方法などを学びました。そのうえで、進捗状況を評価するグループセッションを週6回、さらに、各自が家でコンピューターを使い、記憶機能や実行機能などを鍛えることを目的に作られたプログラム(1回につき10〜15分行う自主トレーニング)を、週2〜3回行いました。後半の半年では、グループセッションを週4回と、自主トレーニングを週2〜3回行いました。

④代謝・血管性危険因子の管理

そして、「集中介入グループ」では、最初の1年では3ヶ月ごとの訪問看護と4回の訪問診療により、いわゆるメタボ健診と心脳血管リスク管理として、定期的に血圧や体重、BMIなどの身体測定を実施しました。後半の1年でも、半年ごとの訪問看護と1回の訪問診療で、同様のチェックを行いました。

これに対して「対照グループ」では、ごく一般的な健康アドバイスのみを、2年間にわたって実施しました。

プログラム開始前と、1年後、2年後のプログラム終了時点に実施した認知機能評価では、記憶機能は「集中介入グループ」、「対照グループ」の両群間で有意の差はありませんでした。しかし、神経心理学的評価の総点・実行機能・処理速度は、「対照グループ」に対し、「集中介入グループ」が有意に改善したのです(下図)。

神経心理学的評価総点の推移
実行機能の推移

 

処理速度の推移
記憶機能の推移

Kivipelto M, et al. The Finnish Geriatric Intervention Study to Prevent Cognitive Impairment and Disability (FINGER): study design and progress. Alzheimers Dement. 2013 Nov;9(6):657-65.

認知症予防に取り組むのに、遅すぎることはない

すなわち、①栄養カウンセリング、②運動習慣、③認知トレーニング、および④代謝・血管性危険因子の管理という複数の視点からの介入により、高齢者の認知機能が改善したことは、認知症予防戦略において大きなインパクトとなりました。
研究チームは「アルツハイマー型認知症の予防に取り組むのに、遅すぎることはなく、認知機能がすでに低下し始めていても、生活習慣を変えることで改善が期待される」と結論づけています。

「FINGER研究」の期間は、さらに7年間延長されました。また、欧米や、わが国を含めたアジアの各国でも、「World Wide FINGER」として同様の介入研究が行われ、現在も続いています。今後も、認知症予防の研究はますます進んでいくことが予想されます。できることからでかまいません。自分たちの生活に、ぜひ取り入れてみてください。

【注釈一覧】
*1) ミニメンタルステート検査。認知機能の状態を評価する検査のひとつ。11の項目からなり、30満点中24点未満で「認知症の疑いがある」と評価される。
*2)肥満の基準値として用いられる。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められ、18.5未満は「やせ」、18.5~25未満は「標準」、25以上は「肥満」と評価される。

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薬の使い方

医療法人社団緑成会横浜総合病院 臨床研究センター センター長

長田 乾ながた けん先生

日本神経学会認定神経内科専門医・指導医
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医
日本認知症学会認定専門医・指導医

  • 日本神経学会認定神経内科専門医・指導医
  • 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医
  • 日本認知症学会認定専門医・指導医

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