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トップページ>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>【ドクターズコラム】認知症の予防にフレイル対策を始めよう

【ドクターズコラム】認知症の予防にフレイル対策を始めよう

横浜総合病院 臨床研究センター(センター長)

長田 乾 先生

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認知症につながる筋力の衰え|“フレイル対策”の重要性

加齢によって筋力は徐々に低下し、歩行速度も遅くなります。今までは、この「歳をとると筋力が衰えて疲れやすくなり、何事も億劫になる」のは老化現象で、どうすることもできないものだと、なかば諦められていた状態でした。

しかしこれに対して、日本老年医学会は2014年から「フレイル」という新たな用語を使うようになりました。

フレイルについて、「そのまま放置すれば認知症や寝たきりに陥る可能性が高い反面、適切な治療・介入・支援により、健康な状態に復することが可能な状態」と説明し、フレイルが予防できることと、その重要性を強調しています。

 

  • 身体的フレイル:フレイルには、体重減少、消耗・易疲労性、身体活動の低下、筋力低下、低栄養など
  • 精神的・認知的フレイル:認知機能低下、意欲減退、抑うつなど
  • 社会的フレイル:引きこもり、独居、孤食、経済的困窮、老老介護など

また、フレイルと密接に関連する要素として、加齢による筋力低下・筋肉量減少は「サルコペニア」と呼ばれます。

 

フレイル

 

身体的フレイルにおいては、

  1. 体重の減少
  2. 疲れやすさ
  3. 外出の頻度の減少や運動機会の減少など、身体活動の低下
  4. 青信号のうちに横断歩道を渡りきれないなど、歩行速度の低下
  5. ペットボトルのキャップを自力で開けられない

など、筋力の低下(サルコペニア)の5項目のうち、3つ以上該当する場合にフレイルと診断されます。

        フレイル_解説

わが国の一般住民を対象にした調査では、60代後半でフレイルと診断される人は6.8%に過ぎませんが、70代後半では17.9%、85歳以上では46%に増加します(*1)

しかも、フレイルと診断された高齢者は、そうではない高齢者と比較して、転倒のリスクは4.5倍(*2)、1年以内に入院するリスクは2.5倍(*3)、3年以内の死亡リスクが3倍になることが報告されています(*3)

さらに、フレイルと診断されると血管性認知症の発症リスクは5.6倍、アルツハイマー型認知症の発症リスクは4.5倍高くなる(*4)ことから、認知症を予防する観点からも、フレイル対策は重要です。

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サルコペニアは、低栄養運動不足が呼び水になる

慢性的な低栄養状態と運動不足は、フレイルの要因の一つであるサルコペニアの原因となります。

サルコペニア、つまり「加齢による筋力低下・筋肉量減少」は、運動能力の低下に繋がり、疲れやすさを訴え、活動性が低下、転倒・骨折のリスクも上昇します。

さらに、運動や外出の頻度が減ることで、社会参加の機会が失われます。

日頃あまり動かなくなると基礎代謝が低下して、食欲も減退、食事摂取量が減少します。

食事摂取量の減少は低栄養状態に拍車をかけるので、フレイルがさらに進行することに。この状況は、「フレイルの悪循環」と呼ばれます(下図参照)。

フレイルの悪循環

この悪循環から脱却することは、認知症や寝たきりの予防につながります。

そして、フレイルの予防には、①バランスのとれた食事、②運動習慣を持つこと、そして③社会参加の3つの柱があります。順番に見ていきましょう。

フレイルを防ぐ食事は、たんぱく質の摂取がカギ!

高齢になると、肉や魚などの動物性たんぱく質の摂取量が徐々に減少します。

たんぱく質は筋肉のもととなる重要な栄養素で、サルコペニアとその先にあるフレイルを予防するためには、体重1kgあたり1日に1g以上のたんぱく質の摂取が必要です(*5)

すなわち、体重60kgであれば毎日60g以上のたんぱく質の摂取が必要になります。

肉や魚をはじめ、卵、大豆を使った料理や、牛乳・乳製品など、たんぱく質を多く含む食品を積極的に摂取することが大切です。

あわせて、ビタミン、ミネラル、食物繊維を含む野菜、きのこ、海藻などを、1日に350g以上摂取することが推奨されています(*6)。昔から「一汁三菜」と表現される日本食は、栄養バランスの整いやすい食事といえます。

 

また、噛む力が低下すると、固くて食べにくい食品を避けるようになり、摂取する栄養素に偏りが生じます。バランスのとれた食事摂取のためにも、普段からよく噛むように意識し、噛む力を維持することが大切です。

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階段を使うだけでも立派な運動 社会活動への参加もおすすめ

運動習慣は、筋力を維持し運動機能を高め、日常生活の活動性を改善し、フレイルの進行を予防する効果があります。とくに高齢者では、太ももなど下肢の筋力低下が起こりやすく、歩行能力の低下につながります。下肢の筋力を維持することが大切です。

運動といっても、たとえば少し速めに歩く、なるべく階段を使う、1日5000歩以上の散歩など、普段から少し負荷をかけた運動を心がけることが、身近な筋力トレーニングになります。

そのほか、椅子を使った起立運動やハーフスクワット、片足立ちなど、1日5分間の日替わりトレーニングも推奨されています。国立長寿医療研究センターでは、HEPOP(Home Exercise Program for Older People)と称して、高齢者向けの在宅運動プログラムを紹介しています(*7)

 

また、東京都の調査によると、外出の回数が多い人ほど認知症のリスクが低くなります(*8)

趣味のサークル、スポーツの会、ボランティア活動などに参加する人ほど健康寿命が長いことも明らかにされています。社会活動への参加や社会ネットワークへのかかわりを維持することも、フレイル予防の重要な柱なのです。

フレイル予防

健達ねっとECサイト

外出自粛が呼びかけられる中、“動かない時間”を減らすことが大切

しかしながら、新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、外出自粛が要請され、社会との接触を控える期間が長期化して、フレイルが進行することが懸念されています。

こうした厳しい環境下にあっても、バランスのとれた食事、散歩や室内の運動で動かない時間を減らす、スマートフォンやパソコンを使ったソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を経由した社会参加などを通じて、フレイル予防を心がけることが大切です。

 

参考文献

*1 吉澤裕世、他 日本公衆衛生雑誌 66: 306-316, 2019

*2 Chittrakul J, et al. J Aging Res. 2020 Jul 4;2020:3964973.

*3 Lahousse L, et al.  J Epidemiol, 2014, 29:419-27

*4 Kulmala J, et al. A Gerontology 60:16-21, 2014

*5 厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」

*6 厚生労働省「健康日本21」

*7 国立長寿医療研究センター在宅活動ガイド2020

https://www.ncgg.go.jp/hospital/guide/index.html

*8 東京都老人総合研究所 研究成果資料

https://ryobi.gr.jp/wp-content/uploads/2010/11/101124-source02.pdf

薬の使い方

医療法人社団緑成会横浜総合病院 臨床研究センター センター長

長田 乾ながた けん先生

日本神経学会認定神経内科専門医・指導医
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医
日本認知症学会認定専門医・指導医

  • 日本神経学会認定神経内科専門医・指導医
  • 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医
  • 日本認知症学会認定専門医・指導医

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