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記憶は辻褄合わせ

認知症の症状の一つとして「物盗られ妄想」と言われるものがあります。ご存知の方も多いと思いますが、大切な物を誰かに盗られたと思い込んでしまう症状です。

置き忘れ、しまい忘れなどは誰にでも起こることですので、それ自体は大きな問題ではありません。

しかし、誰かに盗られた、特に身近にいて信頼されている人が疑われてしまいやすいために、トラブルにも発展してしまう可能性もありますし、何よりお互い悲しい思いをしてしまいます。

物盗られ妄想は、置き忘れなどを何となく自覚しているのだけど、それを認めることができず、誰かに盗られたと思い込んでしまう状態という説があります。

つまり、“無い”という現実に対して、記憶の辻褄合わせをしていると解釈できます。

 

介護の現場では、ベッドから起き上がったり、歩いたりする動作に対して「できる能力」があるにも関わらず、「できない」とおっしゃる高齢者がおられます。

つまり、自分で起き上がっていない、自分で歩いていないという現実がまずあり、“できない”と思い込むことで現実と記憶の辻褄を合わせてしまうのかもしれません。

物を無くしてしまったという落胆、自分では思うように動けなくなってしまったという不安、どちらも本人にとって深刻な事態です。

だからこそ、誰かに盗られたという、そもそもその動作はできないという新しいストーリーが作られることで不安を回避しようとする無意識の反応と理解することもできるように思います。

 

誰かに大切なものを盗られたと言われる方に対して、単に認知症の症状と捉える以前に“無い”という現実の不安に寄り添う必要があります。

また“できない”という言葉を単に鵜呑みにせず、うまく動けなくなったという現実に、できるところだけでも構わないという安心を感じられる介護を心がけなければなりません。

記憶を、ある意味都合よく書き換えるのは高齢者に限ったことではありません。質問の仕方しだいで答えが変わってくるという心理学の実験結果も多数あります。

真実を理解するためにも、返答に影響するであろう背景にある本人の不安や、関わる者の言葉遣いにも配慮したいものです。

 

物をなくす:不安→誰かに盗られた/動作がやりにくくなった(不安)→私にはできない動作

 

筆者
大堀 具視(おおほり ともみ)
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