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レーンを作る

ワンポイントケア その6

陸上男子100mの世界記録はウサイン・ボルト選手が2009年の世界陸上ベルリン大会で打ち立てた9秒58です。100m競走など短距離走や競泳では、レーンの中を走るというルールがあります。お互い他の選手を邪魔しないというのが大きな理由なのだと思いますが、このレーンの存在によっておそらく選手の力が最大限発揮されやすくなっているはずです。

レーンがあることによって動きの目標が常に目先にありますし、斜めに走ることは避けられますので無駄な距離を走らなくて済みます。

JRA新潟競馬場には1000m直線だけの短距離レースがあるのですが、外枠(端の方)の馬が有利とされています。これには、いろいろと理由はあると思うのですが、その一つとして、外枠の馬の方がラチと言われるフェンスを目標に利用して走れる可能性が高いと指摘する専門家も多いようです。

さて、レーンによって能力が活かされ効率よく動けるのであれば、介護にも応用できるはずです。介護の目的は本人が持つ能力を引き出し、しかも衰えた心身機能を効果的に活用して可能な限り自立した生活をしていただくことだからです。

例えば、椅子から立ち上がる場面で考えてみます。立ち上がるためには、体幹(上体)をお辞儀するように前傾させる必要があります。これにより、下肢に体重が乗りお尻が上がりやすくなります。しかし、立ち上がることが難しい方にとっては、この体幹を前に倒す動きが苦手で恐ろしく感じられることが多いのです。

立ち上がり動作に限らずですが、できそうなのにできない、そんなときに力を貸してくれるのがレーンの存在です。介護者は安易に介助するのではなく、そっと体の前に手をかざして小さく目先の目標を作って差し上げます。

つまり介護者の手がレーンです。介護者の手というレーンで動きを区切ることで、当面の動く量は限定されますし、動く方向も明確になります。したがって、介助が必要な方にとってはこれだけでも動きが引き出されやすいですし、何より安心感も大きいので動くための動機も高まります。

もし、レーンのない陸上競技場だったとすれば、ボルト選手の9秒58という記録は間違いなく出ていないでしょう。ましてや、レーンと同じ幅で小高いあぜ道のような100mだとすれば、ボルト選手も身がすくんで平凡な記録しか出せないと思います。

身がすくんで動けない方の体の前に、さりげなくレーンを作って差し上げる。そんな些細なことが、実はとても大切な介護技術なのです。