寝ているよりも、座っていること、さらに座っているよりも、立ち上がること、さらに立ち上がることよりも、歩くことによって大きくなるものは何ですか?というクイズがあるとすれば、それは転倒の危険です。したがって、高齢者の生活の場で歩く機会が少なくなっていくのは自然な流れなのでしょう。
子どもの運動発達は寝返りから、お座り、つかまり立ち、さらに歩行へと順を追ってできる動作が積み上がっていきます。それを高齢者にも当てはめてしまうと、寝返りができない方は起き上がれない、起き上がれない方は座れない、座れない方は立ち上がれない、立ち上がれない方は歩けないという無意識の印象によって、積み上げの最終段階に位置する歩行へのチャレンジは遥か遠いものになってしまいます。
一歩でも歩くことが最高の認知症予防と指摘する専門家も多いように、歩行には様々な効果が証明されています。したがって、歩く機会を遠いものにしては非常にもったいないと思います。
できないことができるようになっていくのが子どもの発達ですが、大人の動作は一度しっかりとできるようになったものですから、基本的にはその動作をするために何かの機能を積み上げる必要はなく、その動作を直接チャレンジするほうが良い場合も多いのです。多少足腰に不安があったとしても、歩いてみることによって心も体もシャキッとします。
自分の足で床を踏み締め、足を交互に動かすことは、どんな筋トレをするより現実的で効果的です。歩行によって適度に呼吸や心拍、消化器が刺激されることは体力向上や食欲、排泄にもつながります。
「とりあえずビール」ではありませんが、とりあえず「少し歩いてみませんか?」から始めてみると、しっかりと覚醒しますから、少しふらふらするとか、足腰が疲労したなど自分の体に対する気づきも増えます。
とりあえずビールでシャキッとして、次におつまみを注文するのと同様に、少し歩いてみて体が目覚めた後に、どこそこの筋力をつけましょうとか、バランスの練習をしましょうという個別の課題に対する必要性や意欲が出てくるものと思います。
まず歩いてみる、本人はもとより介護する者にとっても、実は歩けるといった嬉しい気づきや、歩いてみるからこそ、必要なリハビリの内容が見えてくるのです。