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「歩けそうな感じがしませんか?」

ワンポイントコミュニケーション その5

例えば、運動器に機能障害は無くても、急な感染症や内科的疾患に伴う入院治療の後に歩行が困難になる場合があります。介助して立てたとしても、どうも足腰の踏ん張りが効かずに、歩行を断念して車椅子での生活を選択されることもあります。

もちろん、入院によって普段より臥床時間が長くなれば筋力は衰えますので、そのせいだとして機能訓練のリハビリが必要と考えてしまうのは間違ってはいません。

しかし、歩行をすることに筋力やバランスの基準はありませんし、単純に測定してみれば、疾病後の高齢者の多くは筋力低下、バランス能力低下と判定されてしまいます。そして歩行するか否かの最終判断は、意外にも医者やリハビリ職員などの主観によるところが大きいのです。

筋力が弱っている高齢者が立ち上がって、歩行するという一連の動作には相応の危険が伴うでしょう。歩行とまではいかなくても、トイレで車椅子から立ち上がっていただく際にも、転倒の危険が頭をよぎれば介助者は高齢者自身から立ち上がろうとする動きを優先するのではなく、つい立たせようとする介助者の手出しが先になってしまいます。

つまり、弱い者が強い者に合わせるはめになってしまうのです。幕下力士が横綱のタイミングでの立合いとなれば、幕下力士は力を発揮することなく完敗するでしょう。同じようなことが介護でも起こっています。高齢者が介助に合わせて立ち上がろうとして足腰が踏ん張れないのは筋力のせいではなく、タイミングが合わせられなかったと考えてみると良いでしょう。

そこで、疾病後の高齢者の歩行可否(介助歩行を含めて)を判断するのに、オススメの言葉があります。「歩けそうな感じがしませんか?」です。すると「歩けると思うよ」、「はい、歩けます」と、意外な返事が返ってくることが実に多いと感じています。

「歩けると思うよ」を聞かされた介助者がすべきは一つしかありません、「じゃあ。歩いてみましょうか」、次に「さ、どうぞ」です。これで歩くために立ち上がる動作の立合いは、高齢者のタイミングになります。

立合いをものにすれば勝機が訪れます、弱いながらも自分でグッと足腰を踏ん張れば歩くための準備は整います。歩行はある意味、反射的な運動ですから一歩踏み出せば、二歩、三歩とつながりが出てきます。

介助者は一度でも高齢者の能力を知ってしまえば、次からは高齢者のタイミングでの立合い(介助)となる可能性が高くなるはずです。

疾病後に幕下まで番付を下げた高齢者が横綱白鵬に立ち向かうには、高齢者のタイミングでの立合いは欠かせません。「歩けそうな感じがしませんか?」に対して「歩けると思うよ」、そのコミュニケーションによって高齢者からの動きを認め、受け止める介助が可能になります。つまり、本人主体の介助となる秘訣が隠れているのです。