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タイでの大きな決断と、波乱万丈な幕開け

みなさん、お元気ですか?実は私、2025年3月からタイ北部のチェンライで、小さな介護施設「ひだまりホーム」の代表取締役として新しい生活をスタートしました!

海外での介護経験はあるものの、運営は初めてなのでドキドキしています。しかし、地域やタイの皆さんに愛される施設を目指して、毎日奮闘中です!

今回は、ひだまりホームでの現在に至る経緯を、前後編の2回にわけて紹介していきたいと思います。

 

悩める日々、チェンライへの誘い

2024年秋、私はベトナムの介護会社で6年間お世話になり、自分なりにやり切ったと感じ、日本へ研修のため一時帰国しました。研修も終盤に差しかかり、ベトナムに戻るか新しい道に進むか、悩んでいました。

 

実は、海外で働き始めてから、「いつか海外で自分の介護施設を作りたい」「日本で頑張る外国人介護士が母国で輝ける場所を提供したい」という夢が芽生えていました。

しかし、夢が実現できずに終わるのではないかと、悶々とした日々を送っていました。

 

そんな時、研修が終わりベトナムに戻る前に、タイのチェンライに日本人が運営する「ひだまりホーム」という介護施設があると聞き、見学させてもらうことにしました。

ここでヒントが見つかるかもしれないとワクワクしました。

 

チェンライという土地、ひだまりホームという場所

タイにはチェンマイとチェンライの2都市があります。

有名なのはチェンマイですが、チェンライはバンコクから飛行機で約1時間半の場所に位置し、ミャンマーとラオスの国境に近いのんびりした街です。

以前はさまざまなことがあったようですが、今は自然が豊かで、欧米からの観光客も多いです。

 

「なんでこんな田舎に日本人が介護施設を?」と正直思いましたが、実際に訪れてみて納得。

タイでも高齢化が進んでおり、なんと高齢化率は16%に達しています。2029年には20%を超え、超高齢社会になるとのこと。

ベトナムはまだ約8%なので、かなりの違いです。

 

そういった背景の中、「ひだまりホーム」に到着しました。あいにく雨の日でしたが、第一印象は「なんて可愛らしい施設なんだろう!」でした。

現地の古い家を改装した物件で、広い庭にはバナナやマンゴーの木があり、タイらしいベンチや置物が設置され、非常に「生活」を感じる空間でした。

ここには実際に30年間暮らしている方がいるそうです。イギリスやベトナムの介護施設も同様ですが、広い庭や豊かな緑のおかげで、日本の無機質な施設よりも開放感があります。

日本の介護施設に比べると、設備面などはまだまだ発展途上な部分もありますが、私はこの温かい雰囲気がとても好きになりました。

 

スーパーウーマン羽田さん。タイの入居者さん

この施設のオーナーの羽田さんは、北海道の紋別でいくつもの介護施設を経営しているスーパーウーマンです。

看護師、社会福祉士、認知症介護指導者の資格を持ち、ベトナム南部のダラットとタイに介護施設を設立されています。

彼女は紋別への深い愛情から、地元の介護人材不足を解決するために海外に施設を設立する行動力を持っており、心から尊敬します。

 

「ひだまりホーム」を見学した後は、1時間ほどアクティビティを体験。

入居者はタイのおばあさんが3名と西洋のおばあさんが1名。

タイでは認知症の方を抑制することが多いと聞きますが、ひだまりホームでは、環境を整えることでその人らしく生活することを大切にしているそうです。

 

アクティビティ中、私はタイ語が初めてで、西洋のおばあさんは英語が必要なため、タイ語、英語、怪しい日本語を駆使しながら、なんとか乗り切りました(笑)。

出来栄えはわかりませんが、一生懸命やったことは伝わったようで、99歳のタイ人のおばあちゃんから「頑張ってたね!楽しかったよ!」と褒められました。

言葉が通じなくても、会話を重ねることでそれぞれの背景が見え、心が通じ合ったと感じました。

 

人生の決断、新しい道

その日は雨がひどかったのですが、羽田さんがチェンライの有名な青いお寺や白いお寺、時計台などに連れて行ってくださり、夜はご飯を食べながら、介護や制度、認知症についてたくさんお話を聞かせていただきました。

 

海外で一人で会社を設立するだけでも大変ですが、羽田さんはベトナムとタイの2ヶ国に介護施設を作っているのです。そのエネルギーの源はどこから来るのでしょうか。

私もいつか海外で介護施設を開きたいと思っていましたが、そのためには羽田さんのような情熱が必要だと感じました。

自分にはそのエネルギーを持ち続けられる自信がなかったため、迷っていた自分の将来について悩みを相談してみました。

 

その時、「後悔しないように、チャレンジしてみたらいいよ」とアドバイスをいただきました。

私はベトナムの介護の仕事に一区切りをつけ、まだ具体的な方針は定まっていませんが、海外で介護施設を設立するための準備を始めると決意しました。

夢を夢のまま終わらせないためには、今踏み出さなければなりません。そう思ったのです。

 

6年間続けたベトナムの介護施設を離れるのは非常に寂しい気持ちがありながらも、新たな挑戦に心躍る気持ちも感じていました。

 

まさかの洪水、九死に一生

翌朝、私はベトナムのハノイにある会社に退職の意思を伝えるために、空港へ向かいました。

朝10時のフライトだったため、早めにホテルを出発。しかし、雨が降っていたため、道は冠水していて危険な状況でした。

 

運転手さんは「大丈夫、大丈夫」と言いながら、進んでいきました。

しかし、500メートル進んだところで水深がどんどん深くなり、運転手さんも焦り始め、「川が氾濫している!全然大丈夫じゃない!危険!日本人、今すぐ降りろ!」と騒然となりました。

 

本当にさっきまで「大丈夫」と言っていたのに、この状況はかなりやばい!

私もパニックになりながら、水に浸かりスーツケースを抱えてタクシーから飛び出しました。

道の真ん中で降ろされてもどうしようもありません!水が迫っていて、まさに命の危険を感じました。

運転手さんが「誰かこの日本人を助けてくれー!」と叫び、ピックアップトラックのお兄さんが「今すぐ乗れ、日本人!」と言ってくれました。

冠水した道をザブザブ歩いてトラックに乗せてもらいました。彼は本当に命の恩人でした!

 

水が高いところまで来ていて、まるでトラックで湖の中を走っているようでした。実際に生きた心地がしませんでした。

チェンライの洪水

チェンライの洪水

この日の前日、ミャンマーと中国のダムから放流された影響で、チェンライは一気に洪水になったそうです。

その洪水は世界中でニュースとして報じられていました。

 

なんとか空港にたどり着いたものの、心は落ち着きませんでした。

「ひだまりホームはどうなっているのか」「羽田さんや入居者さんたちは無事なのか」と、心から心配でした。

しかし、連絡が取れないまま、ベトナム・ハノイ行きの飛行機に乗り込みました。

まさに九死に一生とはこのことでした。

 

→後半へ続く

 

土橋 壮之 さん

TVCM業界からひょんなことをきっかけに介護の仕事に転身。日本、イギリス、そしてベトナムへ、世界の介護現場を回る旅に出る。