あらすじ
元オペラ歌手の山下宏は痴呆症が進み、ところかまわず大声で歌っては町を徘徊する日々。
この状態に娘夫婦たちは辟易、遂には宏をある老人施設の前に置き去りにしてしまう。
しかし、施設で出会った人々との交流を通じて、家族は徐々に父との向き合い方を学び、失われかけていた家族の絆を取り戻していく。
介護保険の導入でクローズアップされる老人問題を、心温まる視点で描いた家族ドラマ。
特徴・見どころ
国民的映画「釣りバカ日誌」シリーズを手掛け、日本の家族を温かい笑いと涙で描いてきた名匠・栗山富夫監督。
彼が2000年という、日本で「介護保険制度」がスタートしたまさにその年に発表したのが、本作『ホーム・スイートホーム』です。
タイトルの「ホーム・スイートホーム(愛しの我が家)」という言葉とは裏腹に、物語は認知症のおじいちゃんを抱えた一家が、介護によって崩壊寸前まで追い詰められる様子を描き出します。
しかし、本作は決して暗いだけの社会派ドラマではありません。
家族が一度はバラバラになりかけながらも、本当の意味での「スイートホーム」を取り戻していくまでの過程を、切実に、そして希望を込めて描いた感動作です。
公開から20年以上が経った今でも、そのテーマの普遍性は色褪せることがありません。
元オペラ歌手の父が、壊れていく悲しみ
物語の中心となるのは、かつては朗々とした歌声で知られた元オペラ歌手の祖父(小林桂樹)です。
威厳があり、家族の誇りでもあった彼が、認知症(公開当時は痴呆症)を発症し、少しずつ変わっていきます。
夜中に大声で歌い出したり、排泄の失敗を隠そうとしたり。
そして、家族を最も悩ませるのが、予測不能な行動の数々です。
特に、認知症の徘徊によって警察の世話になる場面などは、介護経験者であれば胸が痛くなるほどのリアリティがあります。
「明日は我が身かもしれない」。
そんな不安と、出口の見えない介護生活への疲労が、家族の笑顔を奪い、ギスギスとした空気を生んでいきます。
きれいごとでは済まない在宅介護の限界が、容赦なく描かれます。
「父を捨てた」ことから始まる、再生の物語
本作の最大の転換点であり、衝撃的な展開は、追い詰められた家族が、ついに父をある施設の前に「置き去り」にしてしまうシーンです。
「もう無理だ」。
その決断は、決して冷酷さからではなく、共倒れを防ぐための悲鳴のような選択でした。
しかし、物語はそこから意外な方向へと進みます。
父が保護された老人福祉施設での生活を通して、家族は初めて「プロの介護」の力と、距離を置くことの意味を知るのです。
施設は、かつてイメージされていたような「姥捨て山」ではありませんでした。









