「仕事と介護の両立って本当に大変…」
「介護をしながらでも、もっと働きやすい環境はあるのかな?」
このように、仕事と介護の両立に悩むビジネスケアラーの方は少なくありません。
本記事では、ビジネスケアラーが抱える課題や企業が取り組むべき具体的な支援策、今後のビジネスケアラー支援における展望について、以下の点を中心に詳しく解説します。
- ビジネスケアラーを取り巻く現状と課題
- 企業が取り組むべき具体的な支援策
- 今後のビジネスケアラー支援における展望
ビジネスケアラーとして働き続けることに関心のある方は、ぜひ最後までお読みください。
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ビジネスケアラーとは?
はじめに、ビジネスケアラーについて解説します。
ビジネスケアラーとは、仕事と同時に家族の介護する人のことで、「ワーキングケアラー」とも呼ばれています。
介護を必要とする家族がいる場合、その介護をしながら働くことは、身体的にも精神的にも大きな負担となるでしょう。
また、ビジネスケアラーは、介護と仕事の両立という二重の負担を抱え、孤立しがちで、その困難さから離職を選択する人も少なくありません。
少子高齢化が進む日本では、ビジネスケアラーの数は増加の一途をたどっており、2025年には300万人を超えると推計されています。
ビジネスケアラー増加の問題は、個人だけでなく、企業にとっても大きな損失につながるため、早急な対策が必要です。
さらに、経済産業省の試算では、2030年にはビジネスケアラーに関連する経済損失が約9兆1792億円に達すると見込まれています。
ビジネスケアラーに関連する経済損失のうち、大部分は仕事と介護の両立困難による労働生産性の損失額です。
(参考:経済産業省/介護政策)
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ビジネスケアラー増加の背景
ここでは、ビジネスケアラー増加の背景について、詳しく解説していきます。
まず、日本では高齢化が急速に進んでおり、2030年には75歳以上の後期高齢者が人口の5人に1人を占めると予測されています。
高齢化により、介護を必要とする人が増加し、ビジネスケアラーの数も増加しています。
また、労働人口は減少の一途をたどっており、2040年には1100万人の労働力不足が予想されているのです。
40代から60代の管理職世代が、親の介護問題に直面するケースが増加しており、少子化によって、介護を一手に引き受けざるを得ない人も少なくありません。
さらに、晩婚化や出産の高齢化によって、子育てと介護が同時期に重なる「ダブルケアラー」も増加傾向にあります。
ビジネスケアラーやダブルケアラーが増加する状況の中、仕事と介護を両立しながら働き続けるためには、企業や社会全体の理解と支援が不可欠です。
さまざまな要因が複合的に絡み合い、ビジネスケアラーの増加を加速させています。
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ビジネスケアラーが直面する問題
ここでは、ビジネスケアラーが直面する問題について、以下の2つをご紹介します。
- 労働生産性の低下
- 介護離職
①労働生産性の低下
ビジネスケアラーが直面する問題の1つ目は「労働生産性の低下」です。
ビジネスケアラーは、介護による身体的/精神的な疲労から、仕事への集中力やパフォーマンスが低下しやすくなります。
介護と仕事の両立は、時間的制約も大きく、業務時間内に十分な成果を上げることが難しくなる場合があります。
また、介護の状況によっては、急な対応が必要になることもあり、業務の中断や遅延も発生しやすくなるでしょう。
経済産業省の調査によると、介護をしながら働く人の約3割が、介護開始後に仕事のパフォーマンスが低下したと回答しています。
とくに、管理職クラスの女性においては、男性よりパフォーマンスの低下が顕著に見られるというデータもあるのです。
ビジネスケアラーの労働生産性の低下は、企業にとって直接的な損失につながり、日本経済全体にも大きな影響を与えます。
②介護離職
2つ目は「介護離職」です。
ビジネスケアラーは、仕事と介護の両立が困難になった場合、離職を選択せざるを得ない状況に追い込まれることがあります。
とくに、介護が必要な家族の状態が深刻である場合や、介護サービスが十分に利用できない場合には、離職の可能性が高まるでしょう。
介護離職は、企業にとって経験豊富な人材の喪失を意味し、新たな人材の採用や育成にコストがかかるだけでなく、組織全体のノウハウや知識も失われることになります。
また、介護離職は、ビジネスケアラー自身の経済的な困窮を招くだけでなく、社会保障費の増大にもつながる可能性があるでしょう。
経済産業省の試算によれば、2030年には介護離職による労働損失や育成費用の損失、代替する人員の採用など、さまざまな要因によって経済損失が拡大すると予測されています。
介護離職を防ぐためには、企業が従業員の仕事と介護の両立を支援するための制度や環境を整備することが重要になるでしょう。
認知症の介護疲れについて知りたい場合は以下の記事をご覧ください。
企業が取り組むべきビジネスケアラーへの支援
ここでは、企業が取り組むべきビジネスケアラーへの支援について、以下の4つをご紹介します。
- 育児介護休業法に基づく支援制度の周知
- 企業独自の支援制度の導入
- 介護に関する情報提供
- 管理職向けの研修実施
①育児介護休業法に基づく支援制度の周知
企業が取り組むべきビジネスケアラーへの支援の1つ目は「育児介護休業法に基づく支援制度の周知」です。
企業は、従業員が利用できる介護休業や介護休暇、短時間勤務制度などの制度について、社内全体に周知する必要があります。
育児介護休業法では、従業員は要介護状態の家族1人につき、通算93日まで介護休業を取得できると定められています。
また、介護休暇は年5日まで取得可能で、当日申請も認められています。
育児介護休業法における休暇を取得できる制度は、介護する従業員にとって重要な支えとなるため、企業は制度の内容を正確に伝え、利用を促進する必要があるでしょう。
さらに、育児介護休業法における休暇を取得できる制度を就業規則に明記し、制度化された状態にすることが求められています。
制度を周知する際には、対象となる従業員だけでなく、管理職や同僚にも理解を深めてもらうことが重要です。
制度を適切に利用できる環境を整備することで、ビジネスケアラーは安心して仕事と介護の両立に取り組めるようになるでしょう。
②企業独自の支援制度の導入
2つ目は「企業独自の支援制度の導入」です。
育児介護休業法で定められた制度に加えて、企業は従業員の状況に応じた柔軟な働き方を支援するための独自の制度を導入することが望ましいとされています。
たとえば、在宅勤務制度やフレックスタイム制度は、介護と仕事の両立を容易にするために有効でしょう。
また、サバティカル休暇制度やUターン制度など、より柔軟な働き方を支援する制度を導入することも、従業員の多様なニーズに応える上で重要になります。
さまざまな制度は、従業員が介護をしながらもキャリアを継続し、企業への貢献を維持するために役立つでしょう。
③介護に関する情報提供
3つ目は「介護に関する情報提供」です。
企業は、介護に関する基礎知識や利用可能なサービス、相談窓口などの情報を提供することが重要です。
介護に関する情報は、介護が必要になった時に初めて必要になるのではなく、事前に知っておくことで、いざという時に適切な対応ができるようになります。
企業は、パンフレットの配布や、自治体/省庁の資料提供、専門家によるセミナーや研修などを通じて、従業員の介護リテラシー向上を支援することが求められるでしょう。
また、社内に相談窓口を設置し、介護に関する悩みや不安を気軽に相談できる環境を整備することも大切です。
従業員が介護に関する情報を得て、適切な支援を受けられるようにすることで、仕事と介護の両立をより円滑に進められるでしょう。
④管理職向けの研修実施
4つ目は「管理職向けの研修実施」です。
管理職は、ビジネスケアラーを抱える従業員を理解し、適切なサポートをするための知識やスキルを身につける必要があります。
研修では、介護と仕事の両立に関する制度や、ビジネスケアラーが抱える課題、コミュニケーションの取り方などを学べるでしょう。
管理職がビジネスケアラーの状況を理解し、柔軟な働き方を認めることで、従業員は安心して仕事と介護を両立できるようになります。
管理職向けの研修は、ビジネスケアラー支援の制度を効果的とされる運用をするために不可欠であり、企業全体で取り組むべき課題です。
企業が陥りやすい課題
ここでは、ビジネスケアラー支援をする上で企業が陥りやすい課題について、以下の3つをご紹介します。
- 従業員の介護状況の把握不足
- 両立支援制度の利用促進不足
- 介護に関する情報提供不足
①従業員の介護状況の把握不足
企業が陥りやすい課題の1つ目は「従業員の介護状況の把握不足」です。
多くの企業では、従業員が介護しているかどうか、また、どのような状況で介護しているかについて、十分に把握できていない現状があります。
従業員の介護状況を把握せずに支援制度を導入しても、その効果は限定的です。
従業員の介護状況を把握するためには、アンケートやヒアリングなどを通じて、介護の有無や介護の状況、要介護者の状態などを確認する必要があるでしょう。
②両立支援制度の利用促進不足
2つ目は「両立支援制度の利用促進不足」です。
企業が介護休業や介護休暇、短時間勤務制度などの両立支援制度を導入していても、従業員がその制度を十分に利用できていない場合があります。
制度が十分に周知されていなかったり、制度を利用することに対して職場での理解が得られにくい状況があることが原因として考えられるでしょう。
制度の利用を促進するためには、制度の内容を分かりやすく伝え、利用を推奨するだけでなく、制度を利用しやすい職場環境を整備することが重要です。
③介護に関する情報提供不足
3つ目は「介護に関する情報提供不足」です。
企業が従業員に対して、介護に関する情報提供を十分にできていない場合、従業員は介護と仕事の両立が難しく感じてしまいます。
また、介護に関する情報は、介護保険サービスだけでなく、地域の介護資源や、相談窓口など多岐に渡ります。
さまざまな情報を従業員に適切に周知することで、従業員は必要な時に適切な支援を受けられるようになるでしょう。
介護のことについて更に知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
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ビジネスケアラーへの支援における今後の展望
最後に、ビジネスケアラーへの支援における今後の展望について、以下の3つをご紹介します。
- 政府の支援策の強化
- 企業間の連携と情報共有
- 社会全体の意識改革
①政府の支援策の強化
ビジネスケアラーへの支援における今後の展望の1つ目は「政府の支援策の強化」です。
現在、政府は育児介護休業法に基づき、介護休業や介護休暇などの制度を設けていますが、今後は介護休業や介護休暇などの制度をより柔軟で使いやすいものにする必要があります。
たとえば、介護休業の分割取得を可能にしたり、介護休暇を時間単位で取得できるようにするなど、個々の状況に応じた柔軟な働き方を支援する制度設計が求められるでしょう。
また、介護サービスの利用料を補助する制度や、介護施設を増やすなどの具体的な政策も重要です。
②企業間の連携と情報共有
2つ目は「企業間の連携と情報共有」です。
ビジネスケアラーへの支援は、企業単独で行うだけでなく、企業間で互いのノウハウや事例を共有し、連携しながら取り組むことが重要です。
たとえば、介護に関する相談窓口の設置や、介護支援制度の利用促進など、先進的な取り組みをしている企業の事例を参考にすることで、他企業も効果的とされる支援策を導入しやすくなります。
また、業界団体などを通じて、企業間の情報交換や共同での研修などを実施することも良いでしょう。
③社会全体の意識改革
3つ目は「社会全体の意識改革」です。
介護は、誰にでも起こりうる問題であり、特定の人だけの問題ではありません。
社会全体で介護に対する理解を深め、介護をしながら働くことを当たり前とするような意識改革が必要です。
たとえば、学校教育や企業研修などで、介護に関する知識や情報を伝える機会を増やすことが重要となるでしょう。
また、メディアを通じて、ビジネスケアラーの現状や課題を広く周知することも効果的とされています。
ビジネスケアラーについてのまとめ
ここまで、ビジネスケアラーの現状や課題、企業が取り組むべき支援策、そして今後の展望についてご紹介しました。
要点を以下にまとめます。
- ビジネスケアラーは増加の一途を辿り、企業にとっても看過できない問題である
- 企業は、育児介護休業法に基づく支援制度の周知だけでなく、独自の支援制度や情報提供、管理職向けの研修を実施する必要がある
- 今後は、政府の支援策強化、企業間の連携、社会全体の意識改革により、ビジネスケアラーがより働きやすい社会が実現することが期待される
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。