2026年度(令和8年度)に施行される診療報酬および介護報酬の同時改定は、日本の社会保障制度が直面する構造的課題に対し、過去に例を見ない規模の抜本的介入として位置づけられています。
長引くデフレ脱却後のコストプッシュ型インフレ、および生産年齢人口の急減に伴う労働需給の逼迫という二重の外部圧力を背景に、医療・介護提供体制の維持は国家的な喫緊の課題となっています。
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2026年度改定の歴史的位置付けとマクロ経済への対応

今回の改定における最大の特徴は、診療報酬本体の改定率が2年度平均で+3.09%という、近年の改定では類を見ない大幅なプラス改定となった点です。
段階的な引き上げ設計
この改定率は、単年度で見ると令和8年度が+2.41%、令和9年度が+3.77%と段階的に引き上げられる設計となっています。
これはインフレの進行状況や医療機関の経営体力の回復過程を慎重に見極めるための時間的猶予を設けた結果です。
12年ぶりの「ネットプラス」改定
薬価改定による▲0.8%程度の引き下げ分を含めた「ネット(全体)」でもプラス改定となる見通しであり、これは2014年度以来12年ぶりの現象です。
背景には、他産業での高水準な賃上げにより、医療・介護人材が他業種へ流出するリスクに対する政府の強い危機感があります。
改定率の内訳と目的
今回の財源配分は、経営の根幹を支える「人件費」と「物件費」への補填に重点が置かれています。
| 改定要素 | 改定率(2年度平均) | 主な目的と内容 |
|---|---|---|
| 本体合計 | +3.09% | 医療提供体制の維持・処遇改善・物価対応 |
| うち、賃上げ対応分 | +1.70% | 医療従事者の3.2%(事務・補助者は5.7%)ベア実現 |
| うち、物価高騰対応分 | +0.76% | 光熱水費、医療用資材、委託費等の上昇への補填 |
| うち、経営環境悪化緊急対応分 | +0.44% | 2024年度以降の急激なコスト増に対する経営支援 |
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医療従事者の処遇改善:ベースアップ評価料の抜本的拡充
今回の改定の主眼は、医療従事者の賃上げを確実に実施し、人材を確保することにあります。
2024年度に新設された「ベースアップ評価料」は、2026年度において大幅な増点が行われ、運用が抜本的に見直されます。
賃上げのターゲットと対象拡大
令和8年度および令和9年度にそれぞれ3.2%(看護補助者や事務職員は5.7%)のベースアップを実現するための措置が講じられます。
特筆すべきは対象職員の拡大で、事務職員に加え、これまで対象外であった40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師も対象に含まれることとなりました(経営者、役員等を除く)。
外来・在宅ベースアップ評価料(1)の点数変遷
クリニック経営に直結する点数は、以下のように劇的な引き上げが予定されています。
- 初診時:6点(2024年度)→ 17点(2026年度) → 34点(2027年度予定)
- 再診時等:2点(2024年度)→ 4点(2026年度) → 8点(2027年度予定)
- 訪問診療時:28点(2024年度)→ 79点(2026年度) → 158点(2027年度予定)
さらに、令和6~7年度から継続して賃上げに取り組んでいる医療機関には「継続的賃上げ実施時の特例」として、さらに高い点数(初診時23点など)が設定されます。
介護という言葉を耳にした時、下記のような不安や疑問が頭をよぎりませんか? 親のことが心配だけど、何から始めればいいか分からない… 介護にはどれくらいの費用がかかるのだろう? 仕事や自分の生活と、どうやって両立すればいい[…]
物価高騰への対応:新設「物価対応料」と基本診療料の補填
エネルギー価格や資材高騰に対し、特定の医療行為の点数を調整するのではなく、基本診療料に付随してコスト増を直接補填する「物価対応料」が新設されます。
算定点数と段階的引き上げ
外来・在宅中心のクリニックにおいては、以下の点数が算定可能となります。
| 算定項目 | 令和8年度(2026.6~) | 令和9年度(2027.6~) |
|---|---|---|
| 外来・在宅物価対応料(初診) | 2点 | 4点 |
| 外来・在宅物価対応料(再診) | 2点 | 4点 |
| 外来・在宅物価対応料(訪問診療) | 3点 | 6点 |
また、調剤報酬においても「調剤物価対応料」が新設され、3ヶ月に1回、令和8年度は1点、令和9年度は2点を算定する仕組みとなります。
入院時の食費基準額も一食あたり40円引き上げられ730円となります。
病院機能の再編:病棟単位から「病院単位」への評価軸転換
2026年度改定における病院関連の重要事項は、評価軸が「病棟単位」から地域で果たす「病院単位の機能」へと重心を移したことです。
これは、次世代の地域医療構想を先取りした動きです。
急性期病院一般入院基本料の新設
救急搬送の受け入れ実績や手術件数といった、急性期拠点としての機能を直接評価する「急性期病院一般入院基本料」が新設されました。
集積する機能に応じてAとBの2段階に区分されます。
- 急性期病院A一般入院料:1,930点(年間救急搬送2,000件以上、全身麻酔手術1,200件以上が目安)
- 急性期病院B一般入院料:1,643点(地域の中核的役割)
急性期病院Aの1,930点は、入院物価対応料を含めると1,996点に達し、国内最高水準の評価となります。
看護必要度と救急応需の連動
「重症度、医療・看護必要度」の基準値も見直されました。
特筆すべきは、実際の救急応需実績が高い病院ほど基準値をクリアしやすくなる「救急患者応需係数」による加算(上限10%)が導入された点です。
医療DXの本格実装:情報の「活用」フェーズへ
医療DXに係る評価体系は、これまでの「インフラ整備」から「情報の実際の活用」を目的とするステージへと統合・強化されました。
電子的診療情報連携体制整備加算
既存の「医療DX推進体制整備加算」と「医療情報取得加算」が廃止され、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」として再編されました。
この加算の算定には、オンライン資格確認に加え、電子処方箋の発行体制、および2025年度から本格稼働する「電子カルテ情報共有サービス」への参加が必須要件となります。
- 加算1:初診15点/再診2点(電子処方箋+電子カルテ情報共有サービス活用)
- 加算2:初診9点/再診2点(電子処方箋発行)
サイバーセキュリティ対策の義務化
有床診療所や病院における入院時の加算算定にあたっては、厚生労働省の「安全管理ガイドライン」への準拠や、オフライン環境でのバックアップ保管といった厳格なサイバーセキュリティ対策が施設基準として課されています。
調剤報酬改定:対人業務の高度化と立地依存への介入
薬局においては、薬剤師がより患者に深く関与する「対人業務」へのシフトを促す改定が行われました。
門前薬局への厳しい評価
薬局の立地による収益格差を是正するため、調剤基本料の区分判定基準が厳格化されました。
処方箋受付回数の基準が月3.5万回に引き下げられ、特定の医療機関への集中率の閾値も85%に変更されます。
さらに、「門前薬局等立地依存減算(▲15点)」が新設されました。
在宅業務と多職種連携の推進
「かかりつけ薬剤師指導料」は「服薬管理指導料」の中へ統合・再編され、実績に応じて点数を積み上げる形へと転換されました。
また、在宅訪問の算定間隔制限が「週1回」へと緩和され、医師と薬剤師が同時に訪問した場合の評価(150点)も新設されました。
介護報酬臨時改定:処遇改善と生産性向上の三位一体
介護分野では、人材流出を食い止める緊急避難的措置として、2026年6月に「臨時改定」が実施されます。
介護職員等処遇改善加算の拡充
最大で月額1.9万円相当の賃上げを目指す枠組みが構築されました。
- 幅広い賃上げ支援:月10,000円(ケアマネ、事務員を含む全体)
- 生産性向上等の上乗せ:月7,000円(DX・ICT活用事業所)
- 定期昇給分:月2,000円(事業所の自助努力)
介護DXが上位区分の必須要件に
処遇改善加算の上位区分を算定するためには、デジタル化への強力なインセンティブが要件化されています。
- 訪問・通所系:「ケアプランデータ連携システム」への加入と実績報告。
- 施設系:「生産性向上推進体制加算IまたはII」の取得(見守り機器やインカムの導入など)。
ケアマネジャー・看護職の初の処遇改善対象化
これまで対象外であった「居宅介護支援(ケアマネジャー)」「訪問看護」「訪問リハビリテーション」が新たに加算の対象となったことは、今回の改定の画期的な点です。
加算率は居宅介護支援2.1%、訪問看護1.8%などに設定されました。
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患者・利用者への影響:自己負担の増大と公平性
報酬の引き上げは提供体制の維持に不可欠ですが、一方で患者の負担増も明確にされました。
- 入院時食費:一般所得者の自己負担は一食460円から550円(+90円)へ引き上げられます。
- 長期収載品の選定療養:後発医薬品がある先発品を患者が希望する場合、価格差の「2分の1」相当を自己負担する仕組みが強化されます。
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経営戦略と今後の展望:2027年度の「倍増」を見据えて
「6月施行」の継続により、各機関は答申から施行まで十分な準備期間を確保できます。
この期間にベースアップ評価料の届出準備やシステム改修を丁寧に行うことが重要です。
テクノロジーへの投資
人材不足が深刻化する中、テクノロジー導入は「コスト」ではなく「持続可能な運営のための投資」です。
今回の改定では、生成AIを活用した書類作成が人員配置緩和の要件として認められるなど、先進的な取り組みへの評価が盛り込まれています。
2027年度(令和9年度)には、今回の点数をさらに倍増させるというさらなる引き上げ方針が示されています。
医療・介護機関は、この改定を契機に体質改善を図り、地域における役割を再定義していくことが問われています。
引用文献
- 【2026年答申】令和8年度診療報酬改定の要点と対策を開業医向けに…, 4月9, 2026にアクセス
- NEWS 2026年度診療報酬改定、本体改定率は2年度平均3.09%増で決着 賃上げ対応に1.70%を充当, 4月9, 2026にアクセス
- 2026年の介護報酬改定は6月に臨時施行! 改定内容と対策を解説 ナースコールのケアコム, 4月9, 2026にアクセス
- 2026年度診療報酬改定率「+3.09%」で決定 | メディコム – PHC Holdings Corporation, 4月9, 2026にアクセス
- 2027年度の2年度平均で3.09%引き上げ。うち賃上げ分は1.70%引き上げ――2026年度の診療報酬改定, 4月9, 2026にアクセス
- 令和8年度診療報酬改定について 【全体概要版】-厚生労働省, 4月9, 2026にアクセス
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