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体で覚えた記憶の不思議5(上書き保存)

できなかったことが練習や経験を重ねるうち、しだいにできるようになる。リハビリを行う醍醐味だと思います。

一日一日と新しい自分に入れ替わっていくようなものとも言えるのかもしれません。産まれた赤ちゃんが寝返りをし、お座りができるようになり、つかまり立ち、ついには歩み始める。

発する言葉がそのうち会話となり、言葉からものを考え、自ら行動し始めます。それは毎日、毎日新しい体を手に入れているようなものです。

つまり、人の生活は毎日がリハビリしていると言っても良いのでしょう。

 

ところで、リハビリに携わっていると、目標とした動作ができるようになっていく過程で、以前のうまくできなかった時の動きは“忘れた”とおっしゃる方が多いように思います。それで良いのだと思いますし、実際にそうなのでしょう。

健常者と言われる人だって、例えばダンスや機械の操作など、今何気なくできることでも、うまくできなかった時の体の動きはわからなくなっているはずです。

つまり、体で覚えた記憶というのは、英単語や数学の公式のような溜め込み式の記憶と異なり、あなたの動きのファイルという一つのファイル上で経験の度ごとに自動で上書きされていくものと考えて良いのだと思います。

 

そう考えますと、リハビリや日々の新たな物事へのチャレンジに必須の大切な要素が見えてきます。それは小さくても良い経験をする、ただそれだけです。

小さい、でも良い経験によって、少しずつ良い方向に体は改善していきます。

一方で、なんとなくでも本人にしっくりきていない動きを繰り返し練習すれば、その記憶は一旦上書きされてしまいますから、そこから改善するためには改めてマイナスからのスタートとなり、非常に効率の悪いものとなってしまいます。

特に高齢者の場合は、一日だって無駄にはできない非常に貴重な時間ですから、介護者など本人にかかわる人は介助したい気持ちをグッとこらえて、少しだけ良い経験をしてもらえるよう、まずは本人が動きたいようにさせてみて、その動きを拾って差し上げるような介護が望まれるのです。

きっと次の機会には上書きされたその新しい体を通じて本人の動きをもっと感じられるようになるはずです。

誤りのない状態で体のファイルを保存させて差し上げるのが介護です。

 

良い経験を上書き保存

筆者
大堀 具視(おおほり ともみ)
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