病気や怪我によりベッド上での生活が一定期間続くと筋力の低下や関節の拘縮(硬くなる)などが起こりやすくなります。その結果、ベッドから起き上がることや立ち座りなどの生活動作が難しくなるという事態を総じて廃用症候群と言います。
では、単純に筋力や関節の動きを改善すれば生活動作は可能になるのでしょうか。答えは「ノー(No)」です。
ベッド上での生活、つまり臥床した状態から寝返ること、起き上がること、立ち上がること、歩くことなどの動作は全て自身の体を前方に投げ出す動きを必要とします。
一方、臥床を余儀なくされ生活動作を介助されているときには、自ら体を前方に投げ出すという経験は一旦なくなります。
果たして病状が回復し、いざ自分でベッドから起き上がろうとしたときに、どうにも上手く起き上がれない、あるいは立ち上がれない、歩くための一歩が踏み出せないのは、単純に筋力低下といった体の機能の問題だけではありません。
いざ寝返ろうとする、ほんの少し体を前方に向かわせることに対して、体が素直に反応してくれないのです。たった数日の臥床でも自力で起き上がれなくなってしまう人がいるという現実は、筋力や関節の動きに原因を求めても解決しないことを意味します。
大袈裟ではなく私たちは三次元の果てしない空間の中で生活しています、自身の体の前方には、いかようにも動ける空間が広がっています。しかし、自身の体以外でその動きを支えてくれる存在はありません。
改めて、自ら動くことが少なくなってしまった方にとって、体を前に向かわせるほんの少しの動きでも恐ろしいのです。だから動ける能力はあるのに、動けないという矛盾が生じてしまいます。
一人で寝返ることができない、起き上がることができない人を介助するのはいつでもできます。
でも恐ろしくて動けないのだとしたら、その介助はちょっと控えて、その代わりの一言を伝えてみてください。「私が前にいますから(どうぞ安心して動いてください)」
本人にとっての果てしない空間を、介助者の存在によって少しだけ小さく動きやすい空間に変えることができるはずです。あるいは、本人の体の前に手をあてがうだけでも本人の安心感は大きくなります。
まさに介助者の存在が安心感であり病気や障害に対する“手当て”になるのです。