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グループホームに住まう者同士のズレに何をなすべきか〈前編〉

入居者に手を焼いているんですが・・・

あるグループホームの職員研修会に招かれました。

研修会に直行ではなく「一旦グループホームに来てください」と言われ、時間的に余裕があったので行きましたが、
グループホームの中には入らず外で待機していると責任者から「和田さん、中に入ってください。ご相談したいことがあるんです」とのこと。

基本的に介護事業所の中に足を踏み入れたくない僕は「相談って何?」と、まずは外で聞きました。

「和田さんの著書(大逆転の痴呆ケア:中欧法規出版 廃刊)にもあったように入居者の中にボス的存在の方(発言が強い方)がいて、他者に強い言葉をかけるし職員の言うことも聞いてくれなくて困っているんです。だから中の様子を見てアドバイスをお願いしたいんです」とのこと。

自分の法人のグループホームの中に入ることさえ躊躇する僕ですが、あまりに言われるので中に入ってみることにしました。

 

まずは反発!

ここからは、読んでくださっている方にわかりやすくするのと、僕の記憶が曖昧になってきているので「正確ではない言葉づかい(表現)」になっているかもしれませんが、ウソはないのでお許しください。

グループホームの中に入って皆さんが集まっているリビングに行くと入居者5人ほどがいらっしゃいましたので「こんにちは。和田と言います。ご一緒させていただいていいですか」と声をかけました。

すると、入居者Aさんが僕のところに寄ってきて「いらっしゃい、どうぞここへお座りください」と言って手招きしてくれました。

僕は、その素振りや言葉の強さから「この方が言われている方(ボス)かな」と思えたので、
その方が勧めてくれた席ではなく「ありがとうございます。僕はここに座らせていただきます」とすぐそばの空席を指し、やんわりお断りしました。

するとAさんが「お客さん、私はココにお座りくださいと勧めているんですが」と重ねてきたので「ココに座らせていただきますね」と、やや強引に傍の空席に座りました。

「ほんとに、もう」

入居者Aさんは、自分の席に戻られましたが、座られた後も「不満タラタラ感」たっぷりの様子でブツブツ言われていたのを見て「この方だな」とほぼ確信しましたが、
Aさんにはお構いなしに他の入居者の方々に「こんにちは」と声をかけていきました。

 

つづいて一方的関係づくり

軽く世間話をしながら「どうしようかな」と探っていると、テーブルの上に置かれていた冊子が目にとまりました。

「ん、何かな」と手に取るとグループホーム自作の歌集でした。

僕がグループホームの中に入るまで歌集を使って皆さんで歌っていたのかどうかはわかりませんが、その歌集を手に取ってパラパラめくり、いきなりある歌を歌ってみました。

入居者たちは、僕がいきなり歌ったので驚かれていましたが、そもそも歌集にある歌は「聞き慣れた歌」だったんでしょうね。二曲三曲続けていくうちに口ずさむ方が現れました。

僕は、その様子を目に入れながらも、そんなことにかまわず歌を続けました。また、歌集の順番どおりには歌わず、ランダムに歌集をめくって適当に選曲して歌います。

すると、ほぼ全員が歌集を手に取り歌集をめくりはじめました。
それも見て向ぬふりをしてお構いなしに歌い続けます。

すると、歌集の中から僕が歌っている歌を見つけ出して一緒に歌い出す方が現れました。
中でも入居者Aさんはいち早く見つけ出すことができ歌集を見て歌っていました。

 

働いているけれど仕事ができてない

歌いながら見ていると、僕のペースについてこられる入居者は歌集をパラパラめくって僕が歌っている歌を探し出すことができ、僕を追いかけるように歌詞を見ながら歌い出しますが、ずっとめくっているだけの方がいました。

そこで、傍で様子を見ていた職員さんを手招きで呼び「仕事しないとネ」と伝えましたが、キョトンとされました。

つまり、歌集を自力でめくって且つ、今僕が歌っている歌を探し当てて追い付いてこられる方に支援は不要ですが、追い付いて来られない方には支援が必要ですネ。

ところが、それに職員さんは気づけておらず「傍らに居るという働きはできていても仕事をしていなかった(支援していない)」ということなので「仕事があるよ」と気づかせたということです。

 

そのうち、声量を増やして歌声を大きくしました。

すると皆さんが、今までとは比べ物にならないくらい大きな声を出して歌い出しましたので大合唱になりました。

険しい顔をしていた入居者Aさんもステキな表情で歌っていました。

入居者Aさんと、まずは関係を築こうと「策」を響き合わせた結果響き合ったってことですし、さらなる関係づくりへ歩を進められたということです。

 

頃合いを見て歌うのをやめ、僕が一方的に皆さん方に拍手を贈ると、皆さん、僕につられるかのように拍手されましたので「お上手ですね」とお上手を言い「いやぁ、愉しかったです。ありがとうございます」とお伝えしました。

その時には入居者Aさんを含めて皆さんの硬い表情は崩れ、ニコニコされていました。

これで僕と皆さんの関係性はグッと深まったと思いますが、その結果、再び世間話を切り出すと、先ほどとは打って変わって言葉も表情も緩んできました。

もちろん、入居者Aさんとも和気あいあいです。

 

ボスが本領発揮

その後しばらく様子を見ていたのですが、次にこんなことが起こりました。

僕がリビングに入ったのと同時位に居室に戻られたトメさん(仮名)が、歌声が聞こえなくなったのを見図らったかのように居室から出て来られ、リビングの窓から外を眺めて「雨が降ってる」って言われたんです。

外は夕暮れの上天気でした。

その直後のことです。入居者Aさんが席を立ってトメさんの所に行き「何言ってるのよ、雨なんか降ってないわよ。いつもおかしなことを言うんだから」ととがめました。

「やはりボス婆さんは、あの方のことだったんだな」

確信した僕ですが手は打たず、その方の言動に対してその場に居た職員さんは「どうされるのかな」ということに興味をもち、何もしないで様子をうかがうことにしました。

すると職員さんはトメさんに「トメさん、良いお天気ですよ」と声をかけられたんです。

「なるほどなぁ」

さて、皆さんなら、どんな言葉をかけますか?

 

コミュニティにおける僕らの仕事

その日の夜に職員研修会があったので、グループホームに入って見て気づいたことを題材に「僕らの仕事」「共同生活介護とは」についてやりとりさせていただきました。

つまり、グループホームというコミュニティにおいて、そこに住まう者同士のズレに対して仕事をするということについてです。

この場合で言うと、上天気という事実に対して「雨が降っている」と言うトメさんと「雨なんか降ってないわよ」というボス婆さん(入居者Aさん)との間の「ズレ」に対して「何をなすべきか」についてです。

随分前に研修会でこの話をお題にして参加者の皆さんとやりとりしていましたが、僕と「同じ理屈」で「この言葉をかけます」と言ってくれた方が高知県におひとりだけいらっしゃいました。

その方は、研修会後の夜の懇親会でその方の上司とやり取りしているのを傍で聞いていて、他の事でも僕と同じような思考をされる方だということがわかり、めちゃくちゃ嬉しくなったのを今でもクッキリ憶えています。

この話の続きは次回(11月15日版)にしますネ。

 

追伸

やっとこさ、新しい総理大臣が決まり内閣がスタートしました。

介護職員の処遇改善を前倒しでやると言っていますのでありがたい話ではありますが、生活保護受給者の生活扶助費の見直しをやってもらいたいもんです。

というのも、生活扶助費が改善されないと生活扶助費から徴収できる介護保険事業の食材料費(実費相当徴収)の値上げができず、食材料費の値上げができないと食事の量や品数を減らすか食材の質を下げるしかないからで、事業所管理者からは「やりくりにも限界があります」と嘆き節の声が大きくなってきましたからね。

これが「先進国NIPPONの実情」だと思うと哀しくなります。

韓国料理屋の写真

韓国料理屋の可愛い置物
ステキなお店(韓国料理)の可愛い置物に微笑んでしまいます。

 

和田 行男 さん

1987年、日本国有鉄道から介護業界へ転身。1999年には、東京都初となる認知症高齢者グループホーム「こもれび」の施設長に就任した。淑徳大学客員教授。