あらすじ
新興住宅地で暮らす家族のもとに、認知症の症状が現れ始めた母が引っ取られてくる。
当初は日常生活にあまり問題がなかったものの、次第に物忘れが増え、同じことを何度も繰り返すようになる。
家族は戸惑いながらも、母の様子を注意深く見守るようになる。
そんな中、母が何かを探し続けている姿に気づいた家族は、母が本当に探しているものは何なのか、そのヒントが見つかることで家族の絆が深まっていく。
特徴・見どころ
本作『母のさがしもの』は、エンターテインメント作品であると同時に、認知症を正しく理解し、差別や偏見のない社会づくりを目指すという、明確な目的を持って制作された「人権啓発ドラマ」です。
企画・製作は東映株式会社が手掛けており、認知症の当事者と、その家族が「どのように向き合っていくべきか」という切実な問いに、一つの答えを示してくれます。
物語は、認知症を発症した「母」と、それに戸惑う「家族の視点」から描かれます。
「最近、なんだか母の様子がおかしい」。
家族が抱くその小さな違和感が、やがて「認知症」という現実に向き合う入り口となっていくのです。
介護現場の「リアル」から学ぶ、初期症状の大切さ
本作の大きな特徴は、実際の認知症介護の現場でよく見られる行動や、家族が直面する葛藤を、非常にリアルに描いている点です。
『母のさがしもの』というタイトルが象徴するように、認知症の人は、しばしば「何か」を探しています。
それは、物理的な「モノ」かもしれませんし、失われつつある「記憶」や、あるいは「安心できる居場所」なのかもしれません。
例えば、以下のような、認知症の初期症状として見られる場面が描かれます。
- 「大切なものが無くなった」と家族を責めてしまう(もの盗られ妄想)
- 同じことを何度も言ったり、尋ねたりする(記憶障害)
- 日付や約束を忘れてしまう(見当識障害)
こうした行動を、単に「困った行動」として描くのではありません。
なぜ本人がそのような行動をとるのか、その裏にある不安や戸惑いに光を当てます。
そして、家族がそれを「年のせい」と見過ごさず、認知症の初期症状かもしれないと「気づき」、いかに早く適切な対応をとるかが重要であることを、ドラマを通して伝えています。
「家族の問題」から「社会の問題」へ
認知症の介護は、当事者である家族だけで抱え込むには、あまりにも重い現実です。
本作は、家族が直面する精神的な負担や葛藤を描くと同時に、そこから一歩進んで、「社会全体でどう支えるか」という視点を提示します。
家族が孤立してしまう前に、地域のサポートや医療機関、相談窓口と繋がること。
そして何より、周囲の私たちが認知症について正しい知識を持ち、偏見の目で見ないこと。
短編作品でありながら、認知症とともに生きる家族の姿を通じて、「支え合う社会」の大切さを、観る者一人ひとりに強く問いかけます。
認知症は、誰の家族にも起こり得る、身近な問題です。
本作は、差別や偏見をなくすための第一歩である「知る」ことの重要性を、改めて教えてくれる、実用性と啓発性に富んだ作品となっています。









