- 「最近、親の物忘れが増えた気がする……」
- 「自分もそろそろ認知症の検査を受けたほうがいいのだろうか?」
超高齢社会を迎えた日本において、認知症への不安は誰もが抱える身近な問題です。
しかし、これまでの認知症検査といえば、「痛い(腰に針を刺す)」「高い(数十万円する)」「大きな病院でしかできない」といったハードルがあり、受診をためらう方も少なくありませんでした。
しかし今、その常識が覆されようとしています。
「血液検査」だけでアルツハイマー病のリスクがわかる技術が、ここ数年で飛躍的に進化しているのです。
2025年11月、日本の大手検査薬メーカーである富士レビオが承認申請を行ったというニュース(※)は、医療業界に大きな衝撃を与えました。
さらに、世界的な製薬企業であるロシュや、すでに国内で先行するシスメックスも、次々と新しい検査技術を市場に投入しています。
この記事では、2025年から2026年にかけて実用化が進む「認知症の血液バイオマーカー検査」について、その仕組みや主要メーカー3社の動向、そして私たちの生活や介護の現場がどう変わるのかを、徹底的に解説します。
特定の製品や検査を「健達ねっと」(メディカル・ケア・サービス株式会社)が推奨するものではありません。
検査の実施や判断については、必ず専門の医師にご相談ください。
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なぜ今、「血液検査」なのか?認知症診療の劇的な変化

2025年問題と認知症700万人時代
「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者となる2025年。
厚生労働省の推計によると、日本の認知症高齢者数は2025年には約675万人に達し、さらに2040年には約800万人を超えると予測されています。
これは、65歳以上の約5人に1人が認知症になる計算です。
認知症はもはや「特別な病気」ではなく、誰もが当事者になりうる「国民病」と言えます。
しかし、その診断体制は決して十分とは言えないのが現状でした。
新薬「レカネマブ」の登場が検査の常識を変えた
これまでの認知症治療薬は、症状を一時的に和らげる「対症療法」が中心でした。
しかし、2023年に承認された新薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」は、脳内に溜まった原因物質(アミロイドベータ)を取り除くことで、病気の進行そのものを抑える画期的な薬です。
ここで重要なのが、「この薬を使うためには、脳内にアミロイドが溜まっていることを証明しなければならない」という点です。
薬の効果を最大限に発揮し、副作用を防ぐためにも、事前の正確な検査が必須条件となったのです。
これが、高精度な検査技術への需要が一気に高まった最大の理由です。
従来の検査(PET・脳脊髄液)が抱える限界
これまで、脳内のアミロイド蓄積を確認するには、主に2つの方法しかありませんでした。
- アミロイドPET検査
特殊な薬剤を注射して脳を撮影する方法。精度は高いですが、高度な設備が必要で実施できる施設が限られます。また、費用が非常に高額(数十万円単位)であることも課題でした。 - 脳脊髄液(CSF)検査
腰の背骨の間に針を刺し、髄液を採取する方法。精度は高いものの、痛みや身体への負担(侵襲)が大きく、高齢者や腰に持病がある方には実施が難しい場合がありました。
「もっと手軽に、痛くなく、安価に検査できないか?」
この切実なニーズに応えるために開発されたのが、通常の健康診断と同じように腕から採血するだけで済む「血液バイオマーカー検査」なのです。
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血液で脳の状態がわかる仕組みとは?
アルツハイマー病の原因物質「アミロイドベータ」と「タウ」
アルツハイマー型認知症は、発症の20年以上も前から脳の中に変化が起きています。
最初に溜まり始めるのが「アミロイドベータ(Aβ)」というタンパク質です。
これが脳にゴミのように蓄積(老人斑)し、その後に「タウタンパク質」が変化して神経細胞を壊し始めます。
物忘れなどの症状が出たときには、すでに脳の神経細胞がかなり減少している状態なのです。
脳から血液に漏れ出す微量なサインをキャッチする技術
かつては、「脳の中の物質は血液には出てこない」あるいは「微量すぎて測定できない」と考えられていました。
脳には血液脳関門(BBB)というバリアがあり、物質の行き来が制限されているからです。
しかし、近年の測定技術の飛躍的な進歩(超高感度測定法など)により、脳から血液中にごくわずかに漏れ出したアミロイドベータやタウタンパク質を、高感度に検出することが可能になりました。
今、最も注目される物質「pTau217(リン酸化タウ217)」
現在、世界中の研究者が「本命」として注目しているのが、「pTau217(ピータウ217)」という物質です。
これはタウタンパク質の一部が変化したもので、アルツハイマー病の患者さんの血液中で、非常に早期から上昇することがわかっています。
最新の研究では、このpTau217を測ることで、高額なPET検査と同等の精度でアルツハイマー病の病理を予測できると報告されています。
【徹底比較】開発を競う主要メーカー3社の最新動向
日本市場において、この革新的な血液検査の実用化をリードしているのが、富士レビオ、ロシュ、シスメックスの3社です。
それぞれの特徴と最新の動きを見ていきましょう。
富士レビオ(H.U.グループ):グローバル実績と承認申請
- 動向:
2025年11月、厚生労働省へ製造販売承認を申請(※)。米国FDAではすでに早期承認を取得している技術基盤があります。 - 技術の特徴:
「pTau217」と「アミロイドベータ比」を組み合わせた測定技術などを用いて、非常に高い精度を実現しています。 - 強み:
日本全国の病院や検査センターに広く普及している全自動化学発光酵素免疫測定システム「ルミパルス」を使用できるため、承認されれば一気に普及する可能性があります。
富士レビオは、長年アルツハイマー病の検査試薬(主に脳脊髄液)をグローバルに展開してきた実績を持つ企業です。
米国での先行事例をベースに、日本国内での実用化が秒読み段階に入っています。
ロシュ・ダイアグノスティックス(Roche):世界標準の技術で日本市場へ参入
- 動向:
2025年4月、研究用試薬として「pTau217」の測定キットを日本で発売(※)。 - 技術の特徴:
世界最大のヘルスケア企業としての圧倒的なデータ量と、信頼性の高い測定技術(Elecsysシリーズ)を持っています。 - 強み:
アルツハイマー病治療薬の開発メーカー(イーライリリーなど)とも提携しており、「薬と検査」をセットで提供できる体制を整えています。
ロシュは、「治療薬があるなら、それに合う患者さんを正しく見つける検査が必要だ」という戦略のもと、開発を進めています。
現在は研究用(大学病院などでのデータ収集用)としての導入が中心ですが、近い将来、一般診療向けの承認申請を行うことは確実視されています。
シスメックス(Sysmex):日本初の承認と「副作用予測」への展開
- 動向:
2023年6月、日本で初めてアルツハイマー病の血液検査試薬(アミロイドベータ測定)の承認を取得しました。 - 技術の特徴:
わずかな血液量から、短時間(約17分)で結果を出せる技術(HISCLシリーズ)を持っています。 - 新たな展開:
2025年、治療薬の副作用リスクを予測する「遺伝子検査キット」の承認も取得するなど、多角的な展開を見せています。
シスメックスは、この分野のパイオニアです。
他社に先駆けて承認を取得し、すでに一部の医療機関や検診センターで導入されています。
さらに、「認知症を見つける」だけでなく、「治療薬を安全に使えるか調べる」ための検査(APOE遺伝子検査)も開発するなど、トータルでのサポート体制を強化しています。
2026年、私たちの「認知症検査」はどう変わる?
これらのメーカーの努力により、2026年以降、認知症診療の風景は大きく変わると予想されます。
「かかりつけ医」で検査ができる未来
これまでは、認知症の詳しい検査を受けるために、大学病院や専門センターまで足を運び、長い予約待ちをする必要がありました。
しかし、これらの企業の検査機器は一般的な病院や検査センターに普及しているものが多いため、近所のかかりつけ医で採血をし、その検体を送るだけで、数日後には結果がわかるようになる未来が近づいています。
費用は安くなる?保険適用の可能性
現在、人間ドックなどで受けられる認知症リスク検査(MCIスクリーニングなど)は、数万円程度の自費診療が一般的です。
しかし、富士レビオなどが申請している検査薬が正式に承認され、保険適用となれば、患者さんの自己負担額(1〜3割負担)は数千円〜1万円程度に収まる可能性があります。
高額なPET検査に比べれば、経済的なハードルは劇的に下がります。
早期発見がもたらす「予防」と「治療」のチャンス
血液検査の最大のメリットは、「発症前の段階」や「ごく初期の段階(MCI)」でリスクに気づけることです。
もしリスクが高いとわかれば、以下のような対策を早期に打つことができます。
- 生活習慣の改善:
運動、食事、睡眠の見直しや、対話(コミュニケーション)を増やすことで、発症を遅らせる取り組みを始められます。 - 早期治療:
専門医による確定診断を経て、新薬(レカネマブ等)の治療対象になるかを検討できます。 - 将来への備え:
ご家族と話し合い、介護や財産管理についての準備を早めに進めることができます。
検査を受ける前に知っておきたい注意点
夢のような技術に見える血液検査ですが、正しく活用するために知っておくべき点もあります。
「血液検査=確定診断」ではない
現時点での血液バイオマーカー検査は、あくまで「脳内にアミロイドが蓄積している可能性が高いかどうか」を判定する補助的な検査(スクリーニング)です。
「陽性(リスクが高い)」という結果が出ても、必ずしもすぐに認知症を発症するわけではありません。
また、アルツハイマー病以外の認知症(レビー小体型など)の可能性もあります。
最終的な診断は、専門医による問診、MRI検査、そして必要に応じたPET検査などを組み合わせて行われます。
血液検査は、専門医にかかるべきかどうかを決めるための「入り口」としての役割が大きいです。
結果を知ることへの心の準備
「将来、認知症になるリスクが高い」という結果を知ることは、大きな心理的ストレスになる可能性もあります。
検査を受ける前に、「もし陽性だったらどうするか」「どのようなサポートが得られるのか」をご家族やかかりつけ医と話し合っておくことが大切です。
現代の医療では、早期にわかれば打てる手はたくさんあります。
「怖いから検査しない」ではなく、「早く知って対策する」という前向きな捉え方が推奨されています。
まとめ:怖がらずに正しく知ることが、安心への第一歩

2025年から2026年にかけて、認知症の医療は「症状が出てから対処する時代」から「発症前に予測し、予防・治療する時代」へと大きくシフトしています。
富士レビオ、ロシュ、シスメックスといった企業の技術革新により、血液検査という手軽な方法で、脳の健康状態をチェックできる未来がすぐそこまで来ています。
- 痛みや費用の負担が少ない検査が普及しつつある。
- 早期発見により、新薬の活用や生活習慣の改善が可能になる。
- ただし、検査はあくまで「補助」であり、医師との相談が不可欠。
「健達ねっと」では、今後もこうした最新の医療情報をわかりやすくお届けしていきます。
もしご自身やご家族の物忘れに不安を感じたら、一人で悩まず、まずはお近くの医療機関や地域包括支援センターに相談してみてください。
新しい技術は、あなたとあなたの大切な人の未来を守るための強力な味方になってくれるはずです。






