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あらすじ
かつて銀行に勤めていたエミリオは、認知症の症状が見られるようになり、養護老人施設へと預けられる。
同室のミゲルは、お金にうるさく抜け目がない。
食事のテーブルには、面会に来る孫のためにバターや紅茶を貯めている女性アントニアや、アルツハイマーの夫モデストの世話を焼く妻ドローレスらがいる。
施設には様々な老人が暮らし、重症の老人は2階の部屋へと入れられることがわかる。
ある日、エミリオは自分もアルツハイマーであることに気づいてしまう。
ショックで症状が進行したエミリオを思い、ミゲルはある行動に出る――。
特徴・見どころ
スペイン本国で高く評価され、第26回ゴヤ賞で最優秀アニメーション賞と最優秀脚本賞の2冠に輝いた、珠玉の手描きアニメーション作品『しわ』。
日本でもジブリ美術館ライブラリーの提供で公開され、多くの人の心に静かな感動を広げました。
本作が描くのは「高齢化社会」そして「認知症」という、現代を生きる私たちにとって非常に身近で重要なテーマです。
しかし、その描き方は決して暗く重いものではなく、驚くほど温かく、ユーモアに満ち、そして深い人間愛にあふれています。
なぜこの作品が世代や国境を超えて共感を呼ぶのか、その魅力と見どころをご紹介します。
人生の「しわ」を愛おしく描く、手描きアニメーションの魔法
本作の最大の魅力は、その「手描き」ならではの柔らかなタッチと色彩です。
原作はスペインの著名な漫画家パコ・ロカによる『皺(しわ)』。
その原作の持つ繊細な描線を活かしたアニメーションが、登場人物たちの心の機微を丁寧にすくい取ります。
物語の舞台は、老人施設(介護施設)です。
主人公は、元銀行員でプライドの高いエミリオ。
彼はアルツハイマー型認知症の初期と診断され、家族によってこの施設へと入所させられます。
最初は現実を受け入れられず、戸惑いと苛立ちを隠せないエミリオ。
しかし、そこで彼は、抜け目ないリアリストのミゲルをはじめ、個性豊かな同室の仲間たちと出会います。
彼らの日常は、認知症の進行という避けられない現実とともにあります。
記憶が薄れていく不安、思い通りにならない身体への焦燥感、そして施設の上階にある「絶望の部屋(重度の患者が集まる場所)」への恐怖。
そうしたシリアスな現実を、本作は真正面から描き出します。
それでいて、観る人の心を温かくするのは、困難な状況の中でも決して失われない彼らのユーモアと友情、そして人間の「尊厳」です。
「老い」と「認知症」を、他人事から「自分事」へ
日本もまた、世界有数の高齢化社会を迎えています。
「認知症」という言葉を聞かない日はないほど、私たちにとって身近な問題です。
自分自身が、あるいは大切な家族が、いつ当事者になるかわかりません。
本作は、そんな私たちに「老いとは何か」「認知症と共に生きるとはどういうことか」を深く問いかけます。
エミリオやミゲルたちの姿を通して、私たちは認知症ご本人が何を感じ、何を恐れ、何を望んでいるのかを垣間見ることができます。
それは、単なる「症状」ではなく、「その人」の人生や個性が、記憶の霞の向こう側にも確かに存在し続けているという事実です。
この作品を観ることで、私たちは以下のような大切な視点に気づかされます。
- 記憶が薄れても、その人の「尊厳」は失われないこと。
- 認知症の方々が見ている世界や、彼らの内面的な葛藤。
- 介護する側・される側という関係を超えた、人としての繋がり。
- 人生の最終章を、いかに豊かに、自分らしく生きるかという問い。
映画を観終わった後、多くの方がご自身の家族や、ご自身の未来について思いを馳せることになるでしょう。
そして、アルツハイマー病の原因や、もしもの時に備えた在宅介護の方法について、改めて考えるきっかけを与えてくれるはずです。
施設での友情と尊厳を描いた、静かなる感動作
本作は認知症というテーマを扱いながらも、その核にあるのは「友情」の物語です。
エミリオと、彼を支えようとするミゲル。
他の入居者たちも、それぞれに過去の人生があり、今を懸命に生きています。
彼らが時に協力し、時に衝突しながらも育んでいく絆は、年齢や状況に関わらず、誰もが共感できる普遍的な輝きを放っています。
施設での小さな反抗や、ささやかな楽しみを見出す姿は、私たちに「生きる力」そのものを感じさせてくれます。
重いテーマを、温かな視線と確かな画力、そして優れた脚本で描ききった『しわ』。
これは、介護に関心のある方だけでなく、ご家族を大切に思うすべての方、そして人生の豊かさについて考えたいすべての方に観ていただきたい、珠玉の感動作です。
ぜひ、この機会に、彼らの生きた証と温かな友情に触れてみてください。









