あらすじ
母親を病気で失った旭仔(カイヨク)は、再婚した父を探しに広州から香港に向かう。
しかし心がすさんでいるため、仕事も住む場所も失ってしまう。
そんな彼は、アルツハイマーの症状が出始めた老婦人と偶然出会う。
彼女との交流を通じて、旭仔は次第に心を開いていく。
認知症が進む老婦人と、行き場のない若者の、不思議な共同生活が始まる。
特徴・見どころ
本作『幸福な私』は、香港映画界の名優カラ・ワイが、その圧倒的な演技力でバルセロナ国際映画祭最優秀女優賞を受賞した、温かくも切実なヒューマンドラマです。
大都会の片隅で孤独に生きる老婦人と、行き場を失った青年。
全く接点のなかった二人が、アルツハイマー型認知症という病をきっかけに、奇妙な同居生活を始め、やがて血の繋がりを超えた「家族」になっていく過程を描いています。
孤独な二人が見つけた、ささやかな「幸運」
主人公のフェン(カラ・ワイ)は、独り暮らしの気難しい老婦人です。
しかし、彼女はアルツハイマー型認知症を患っており、日々の生活に不安を抱えていました。
一方、とある事情から家を追い出され、職も金もない青年・アヨ(カルロス・チャン)。
ふとしたきっかけで出会った二人は、反発し合いながらも、互いの孤独な心を埋め合わせるように距離を縮めていきます。
タイトル(原題:幸運是我)が示す通り、本作には「あなたに出会えて幸運だった」というメッセージが込められています。
血縁関係がなくても、人は支え合い、誰かの人生を照らす光になれる。
その温かい絆の物語が、観る者の涙を誘います。
「その人らしさ」を守るケアの在り方
本作は、認知症の進行に伴うリアルな日常も丁寧に描いています。
例えば、リモコンを冷蔵庫に入れてしまったり、同じものを何度も買ってきたりといった症状に対し、最初は苛立ちを見せていた青年が、次第に理解を示し、ユーモアを持って接するようになります。
この変化は、高齢化社会における介護の課題に対する、一つの答えを示唆しています。
それは、管理したり矯正したりするのではなく、「その人のありのままを受け入れる」という姿勢です。
失敗しても責めず、そばにいて安心させてあげること。
そんな青年の姿を通して、認知症ケアにおいて最も大切な「尊厳の尊重」と「その人らしさを大切にする心」を教えてくれます。
香港も日本と同様、急速な高齢化が進んでいます。
孤独死や介護問題といった重い社会的テーマを背景にしながらも、決して暗くならず、人と人との繋がりの温かさを信じさせてくれる秀作です。
明日を生きる希望と、誰かに優しくしたくなるような余韻を残す、心温まる物語です。









