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あらすじ
トビリシの旧市街。
作家のエレネは79歳の誕生日を迎えるが、家族の誰もそれを覚えていなかった。
娘は、姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始めたため、エレネの家に引っ越しさせるという。
ミランダはソヴィエト時代、政府の高官だった。
そこへかつての恋人アルチルから数十年ぶりに電話がかかってくる。
やがて彼らの過去が明らかになり、ミランダは姿を消す……。
特徴・見どころ
ジョージア映画界の伝説的存在であるラナ・ゴゴベリゼ監督が、91歳にして発表した本作『金の糸』。
日本の伝統技術である「金継ぎ」から着想を得たというこの物語は、老いと記憶、そして人生の修復をテーマにした、美しくも静かな感動作です。
壊れた器を漆と金で修復し、その傷跡さえも新たな「景色」として、芸術的な価値に変える金継ぎ。
その精神は、老いによって生じる身体や心の「ひび割れ」や、過去の辛い記憶さえも、否定せずに受け入れ、人生の一部として輝かせるという、監督の深い人生哲学と重なります。
人生の晩年をどう生きるか、その美しい答えがここにあります。
記憶を失うミランダと、向き合うエレネ
物語の中心となるのは、79歳の作家エレネと、娘の姑でありアルツハイマー型認知症を患うミランダの、奇妙な同居生活です。
かつてソヴィエト連邦という抑圧された時代を、共に生き抜いてきた二人の女性。
しかし、ミランダは認知症によって、その記憶さえも曖昧になり、過去と現在を行き来します。
記憶を失っていくことは、その人の尊厳をも奪うことなのでしょうか。
本作は、認知症という現実を単なる悲劇として描くのではなく、過去のしがらみから解き放たれた、ある種の「自由」や「無垢」な状態としても捉え直します。
ミランダの姿を通して、記憶とは何か、そして人間としての尊厳とは何かを、静かに、深く問いかけます。
過去の傷を「金」で継ぐように
本作の大きな見どころは、高齢者の介護と向き合う家族の姿を、ジョージアの古い街並みと共に詩的に描いている点です。
実はエレネにとって、ミランダはかつて夫をめぐる複雑な関係にあった女性でもありました。
しかし、介護という時間を通し、二人の関係にも変化が訪れます。
以下のような「人生のひび割れ」が、物語の中で丁寧に紡がれていきます。
- 過去の確執や愛憎
- 若き日の叶わなかった夢
- 言論統制された時代の苦しみ
それら全ての「壊れた過去」を、金の糸で繕うように肯定し、未来へと紡いでいく二人の姿。
それは、老いや過去の傷跡を隠すのではなく、それも含めて自分の人生だと愛することの尊さを教えてくれます。
静謐な映像美の中で、人生の豊かさを噛みしめることができる、宝物のような一作です。









