あらすじ
6年前に父を失い、認知症を患う母・佳代子と2人で暮らす芽衣。
母は徐々に変わり果てていき、夜間徘徊も目立つようになった。
母を養うため否応なく夜の世界に身を置く芽衣には、友達も恋人もいない。
孤独と疲労の渦に飲まれていく芽衣は、昔から母に対して抱いていたわだかまりと向き合おうとする。
特徴・見どころ
本作『虹のかけら』は、現代社会が抱える深刻な問題の一つ、「ヤングケアラー」の現実に真正面から向き合った意欲作です。
もし、自分の親が若くして認知症になり、その介護を自分一人が担うことになったら。
本作は、そんな過酷な状況に置かれた若い世代の孤独と、親子の絆を静かに、しかし力強く描き出しています。
物語の主人公は、認知症が進行する母親の介護を一人で担う若い女性(篠崎雅美)。
彼女の日常は、友人たちが謳歌するような「若者らしい」生活とはかけ離れています。
仕事や自分の将来、恋愛や結婚といった人生の選択肢が、介護によって奪われていく。
その疲弊した姿は、社会から孤立しがちな若年介護者が直面する現実を、リアルに映し出しています。
記憶の狭間で揺れる「絆」と「わだかまり」
本作の深みは、単に「介護は大変だ」という側面だけを描いているのではない点にあります。
認知症によって記憶が失われていく母親と、それを介護する娘。
二人の間には、単なる「親子の絆」だけではない、複雑な「過去のわだかまり」が存在しています。
記憶を失っていく母は、時に娘が忘れたいと思っていた過去の記憶を呼び覚まし、あるいは無邪気に娘を傷つける言動をとります。
一方、娘も、献身的に介護をしながらも、心の奥底では母親への愛憎や、過去の確執に苦しんでいるのです。
記憶と忘却の狭間で交差する二人の姿は、「親子の愛」という言葉だけでは片付けられない、介護の孤独と家族の複雑な内実を丁寧に描き出しています。
長編初監督が切り込む「孤立」のリアル
本作は長編初監督作品でありながら、その描写のリアリティは観る者に強く迫ります。
主人公を演じた篠崎雅美さんの、疲弊しながらも母親と向き合おうとする姿。
そして、認知症によって変わっていく母親の姿。
そのどちらもが、ドキュメンタリーのような切実さを持って胸に突き刺さります。
なぜ彼女は社会から孤立しなければならなかったのか。
周囲に助けを求められない若年介護者の苦悩は、決して他人事ではありません。
それでも消えない親子の愛情のかけらを静かに見つめた本作は、私たちに「ヤングケアラー」という問題を「自分ごと」として考えるきっかけを与えてくれる、重く、しかし大切な作品です。









