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あらすじ
かつて舞台や映画で活躍した大スター・桑畑兆吉は、84歳になった今も俳優養成所を主宰し、芝居への情熱を失わない。
しかし認知症の疑いを抱えながら、老いた心と身体は次第に彼を苦しめる。
ある日、彼の前に18年前に駆け落ちして村を出た妻・貴子と、彼女の相手だった旧友・治が戻ってくる。
貴子もまた認知症を患っており、善と治の区別がつかなくなっていた。
兆吉は亡き恋人・リアの面影を追い求め、海辺をさまよい歩く日々を送る。
特徴・見どころ
84歳(当時)を迎えた日本映画界の至宝・仲代達矢さんが、渾身の演技で挑んだのが、本作『海辺のリア』です。
かつての大スター俳優が、認知症の進行により記憶を失い、家族に裏切られ、海辺を彷徨う。
シェイクスピアの四大悲劇の一つ『リア王』をモチーフに、老いと喪失、そして最後に残る人間の尊厳を壮絶なまでに描き出した感動作です。
狂気か、正気か。仲代達矢が魅せる「老い」の凄み
本作の主人公・桑畑兆吉は、かつて映画や舞台で名を馳せた大スターです。
しかし、現在は認知症を患い、高級老人ホームに入居させられています。
ある日、彼は施設を抜け出し、パジャマ姿のまま海辺を彷徨い歩きます。
そこにあるのは、「演じること」に人生を捧げた男の、あまりにも切ない現実です。
過去の栄光と、現実の惨めさが混濁する意識の中で、彼は朗々と『リア王』のセリフを叫び続けます。
その姿は、単なる「認知症の老人」の徘徊ではありません。
記憶を失ってもなお、役者としての業(ごう)と魂が燃え続ける、一人の男の「最後の輝き」そのものです。
仲代達矢さんの、鬼気迫る表情と圧倒的な存在感は、観る者を物語の世界へと引きずり込み、老いることの残酷さと美しさを同時に突きつけます。
豪華実力派キャストが織りなす、愛憎と介護の現実
兆吉を取り巻く人々を演じるのは、黒木華さん、原田美枝子さん、小林薫さん、阿部寛さんといった、日本を代表する実力派俳優たちです。
彼らの存在が、この物語に「家族」というテーマの深みを与えています。
かつて父に捨てられた娘(黒木華)との邂逅。
遺産や世間体を気にする長女(原田美枝子)とその夫(阿部寛)。
それぞれの思惑が交錯する中で、認知症の初期症状から進行していく兆吉の姿は、家族に重い問いを投げかけます。
親の介護、家族の確執、そして赦し。
『リア王』の物語がそうであるように、本作もまた、認知症というきっかけを通して、決して綺麗ごとだけでは済まされない家族の愛憎と、介護の現実を浮き彫りにします。
人生の幕引きにおいて、人は何を残し、誰と心を通わせるのか。
静謐な映像美の中で語られるラストシーンは、深い余韻と共に、私たちの心に「生きること」の意味を問いかけます。









