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あらすじ
テヘランに暮らすナデルとシミン夫婦には11歳の娘テルメーがいる。
妻のシミンは娘の将来を考え海外移住を望むが、夫のナデルはアルツハイマー型認知症を患う父親を残しては行けないと拒否する。
意見の対立から別居したシミンに代わり、ナデルは介護人としてラジエーを雇う。
しかしある日、ラジエーが父親の世話を怠ったことに激怒したナデルは、彼女を突き飛ばしてしまう。
その後、ラジエーが流産し、ナデルは殺人罪で訴えられる。
真実をめぐる裁判が始まり、二つの家族の運命が翻弄されていく。
特徴・見どころ
本作『別離』は、第84回アカデミー賞外国語映画賞をはじめ、ベルリン国際映画祭金熊賞など、世界中の映画賞を総なめにした、イランの名匠アスガー・ファルハディ監督の最高傑作です。
単なる夫婦の離婚騒動を描いた作品ではありません。
アルツハイマー型認知症を患う父親の介護をきっかけに、二つの家族の運命が激しく衝突し、思いもよらない事件へと発展していく様を描いた、極上のサスペンス・ドラマでもあります。
「父の介護」か「娘の未来」か。引き裂かれる家族
物語の発端は、ある夫婦の意見の対立でした。
妻は、娘の将来を案じて、イランを離れて海外へ移住することを望みます。
しかし、夫のナデルは、アルツハイマー型認知症を患い、一人では生活できない父親を置いていくことはできないと、頑なに拒否します。
「介護」をとるか、「子供の未来」をとるか。
この切実なジレンマは、国や文化の違いを超えて、高齢化社会を生きる私たちの心にも深く突き刺さります。
話し合いは平行線をたどり、ついに妻は家を出て行ってしまいます。
介護が生んだ「小さなボタンの掛け違い」が、事件を呼ぶ
妻が不在となったことで、ナデルは貧しい地区に住む女性を、父親の訪問介護ヘルパーとして雇うことになります。
しかし、この選択が、後に取り返しのつかない事態を引き起こします。
介護におけるほんの些細な行き違いや、判断のミス。
そして、介護者と依頼主の間に横たわる「貧富の格差」や「宗教観の違い」。
これらが複雑に絡み合い、ある日、ナデルとヘルパーの間で衝突が起き、それが裁判沙汰となる大事件へと発展してしまうのです。
ここには、介護が抱える問題の深刻さと危うさが、恐ろしいほどのリアリティで描かれています。
介護を他人に委ねることの難しさや、予期せぬトラブルのリスクが、サスペンスフルに展開していきます。
誰が正しいのか? 観る者を試す「正義」の行方
本作の最大の特徴は、登場人物の誰一人として「悪人」がいない、ということです。
- 父を守ろうとした夫
- 娘を守ろうとした妻
- 生活と信仰の間で苦しむヘルパー
それぞれの「正義」と「守りたいもの」がぶつかり合う中で、自己保身のための嘘と、隠された真実が入り混じっていきます。
観客は、次々と明らかになる事実に翻弄され、「自分ならどうしただろうか?」「一体誰が悪いのか?」と、最後まで問い続けずにはいられません。
介護と家族の在り方、そして人間の心の奥底にある弱さを鋭く抉り出した、世界が震えた人間ドラマです。









