配信サービスで観る
あらすじ
南アルプスのふもとにある大鹿村で、シカ料理店「ディア・イーター」を営む風祭善。
300年の伝統を持つ村歌舞伎の花形役者でもある彼の前に、18年前に駆け落ちして村を離れた妻・貴子と幼なじみの治が帰ってくる。
貴子は脳に血栓ができており、記憶が錯乱して善と治の区別がつかなくなっていた。
村歌舞伎の公演を5日後に控えた折、台風が村を直撃し、出演予定の役者が土砂崩れで大けがをする。
善は貴子の看病をしながら、代役を探し、村歌舞伎を成功させるために奔走する。
特徴・見どころ
本作『大鹿村騒動記』は、単なる一本の映画ではありません。
日本映画界を牽引してきた名優・原田芳雄さんが、自身の死期を悟りながら「どうしてもこの村で映画を撮りたい」と企画し、まさに命を削って主演を務めた、魂の遺作です。
スクリーンに映る彼の痩せ細った、しかし眼光鋭い姿は、役者としての凄みと、生きることへの執念を強烈に訴えかけてきます。
舞台は、長野県の山深い場所にある大鹿村。
実在する、300年以上もの歴史を持つ伝統芸能「大鹿歌舞伎」を題材に、村人たちの悲喜こもごもを描いた、笑って泣ける人情群像劇です。
阪本順治監督のもと、原田芳雄さんのラストステージを飾るために、岸部一徳さん、松たか子さん、佐藤浩市さん、瑛太さんといった、主役級の豪華キャストが結集したことでも話題となりました。
18年ぶりに帰ってきた妻は、記憶を失いつつあった
物語は、村で鹿肉料理屋を営みながら、歌舞伎の主役を張る風祭善(原田芳雄)のもとに、18年前に駆け落ちして出て行った妻・貴子(大楠道代)が突然帰ってくるところから動き出します。
しかし、戻ってきた貴子は、かつての彼女ではありませんでした。
彼女は認知症の進行により、記憶が混濁し、自分を捨てた過去さえも曖昧になっていたのです。
「なんで今さら」という怒り。
「放っておけない」という情け。
そして、認知症によって無邪気な子供のようになってしまった妻への戸惑い。
善は、村の一大イベントである歌舞伎公演の準備に追われながら、この予期せぬ「介護」という騒動に巻き込まれていきます。
「村全体」で生きる、温かいコミュニティの姿
本作が素晴らしいのは、認知症や介護といった重いテーマを、湿っぽく描くのではなく、あくまで村の日常の一部として、カラッとしたユーモアで描いている点です。
貴子が徘徊したり、突拍子もないことを言ったりしても、村の仲間たちは「しょうがねぇなぁ」とぼやきつつ、自然に手を貸し、受け入れます。
そこには、現代の都会が失ってしまった、濃厚で、少し面倒くさくて、でも温かい人間関係があります。
介護とは、家族だけで抱え込むものではなく、地域というコミュニティの中で支え合うものなのかもしれない。
大鹿村の美しい大自然と、村人たちのたくましい生き様は、私たちに「共に生きる」ことの原風景を見せてくれます。
ラストシーン、原田芳雄さんが舞台で見せる渾身の「六方(ろっぽう)」。
それは、役者・原田芳雄の最後の叫びであり、人生の幕引きを見事に演じきった男の、美しくも壮絶な輝きです。
映画を愛し、人を愛し、最後まで現役を貫いた名優が遺した、最高に愛おしい傑作です。









