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あらすじ
ニューヨークで独身生活を送る大学教授の兄ジョンと、作家を目指す妹ウェンディ。
それぞれの生活を送っていた二人に、長らく疎遠だったアリゾナ在住の父レニーが認知症になったという知らせが届く。
仕方なくアリゾナに向かった二人は、父の介護施設を探し始める。
かつて子どもに辛い体験を強いた父親との再会に戸惑いながらも、ケンカをしながら父と向き合っていく。
認知症が進行する父の姿を通じて、兄妹は封印していた過去の家族関係を見つめ直していく。
特徴・見どころ
「家族」だからといって、必ずしも愛に溢れているわけではない。
「介護」だからといって、すべてが美しい献身の物語になるわけではない。
本作『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』は、そんな綺麗事では済まされない家族のリアルを、ユーモアと痛み、そして深い洞察力で描き出した、大人のための家族ドラマです。
その脚本の素晴らしさと、主演俳優たちの名演は高く評価され、第80回アカデミー賞では主演女優賞と脚本賞にノミネートされました。
物語の主人公は、それぞれに人生の悩みや問題を抱え、別々の場所で暮らしていた兄妹です。
演劇学者の兄(フィリップ・シーモア・ホフマン)と、劇作家志望で派遣社員の妹(ローラ・リニー)。
決して仲が良いとは言えない、そして精神的にもどこか大人になりきれない二人のもとに、ある日突然、長年疎遠だった父親が認知症が進行し、身寄りがいなくなったという知らせが届きます。
「愛していない父」を介護する、という葛藤
本作が他の介護映画と一線を画すのは、兄妹が父親に対して、愛情よりも「苦手意識」や「過去のトラウマ」を抱いているという点です。
かつて自分たちを支配し、傷つけた父親。
そんな父が、認知症によって弱々しい老人となり、自分たちの助けを必要としている。
二人は、「放っておきたい」という本音と、「それでも肉親だから」という義務感の狭間で揺れ動きます。
ここには、感動的な和解や、涙ながらの抱擁といったドラマチックな展開は安易には訪れません。
あるのは、施設選びの手続きに追われ、費用の工面に頭を悩ませ、互いの責任を押し付け合う、あまりにも現実的な介護の日々です。
しかし、この「美化されない日常」の描写こそが、多くの観客の共感を呼びました。
きれいごとだけではない、複雑な感情を抱えながら親と向き合うことこそが、本当の意味での「介護」であることを、本作は静かに突きつけます。
名優二人が魅せる、不器用な兄妹の再生
フィリップ・シーモア・ホフマンとローラ・リニー。
アメリカを代表する二人の名優が演じる兄妹の会話は、皮肉とユーモアに満ちており、その絶妙な距離感が物語に深みを与えています。
父親の介護という予期せぬ事態を通して、彼らは自身の人生の停滞や、兄妹間のわだかまりとも向き合わざるを得なくなります。
介護は、家族にとって大きな試練です。
しかし、それは同時に、バラバラだった家族がもう一度「家族」として機能し始めるための、リハビリテーションのような時間でもありました。
親の介護を通して、傷ついた大人たちが少しだけ成長し、新たな関係を築いていく。
切なさの中に温かい希望が残る、味わい深い秀作です。









