配信サービスで観る
あらすじ
元レーシング・ドライバーのジャン・ルイは、今は老人ホームで暮らしている。
彼はかつての記憶を失いかけており、過去と現在が混濁している。
そんな中でも、彼がずっと追い求めていたのは、かつて愛した女性アンヌのこと。
息子は父の様子を見かね、53年前に別れたアンヌに連絡を取る。
ついに再会を果たした二人。記憶が薄れても、愛は色褪せることがなかった。
特徴・見どころ
1966年、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、世界中を恋に落とした名作『男と女』。
その流麗なカメラワークと、「ダバダバダ…」というスキャットは、映画史に刻まれる伝説となりました。
あれから50年以上の時を経て、クロード・ルルーシュ監督と、主演のアヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャンが奇跡の再集結を果たしたのが、本作『男と女 人生最良の日々』です。
これは、単なる同窓会的な続編ではありません。
かつて情熱的な恋をした二人が、人生の晩年を迎え、老いと記憶の喪失という現実に直面しながら、再び魂を触れ合わせる。
「人生の美しさ」を極限まで描き切った、珠玉のラブストーリーです。
記憶を失う男と、過去を抱きしめる女
かつてレーシングドライバーとして鳴らしたジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、現在は老人ホームで暮らしています。
彼はアルツハイマー型認知症を患っており、最近の記憶は曖昧になり、時に息子の顔さえ分からなくなってしまいます。
しかし、そんな彼の記憶の中で、唯一鮮明に輝き続けているものがありました。
それは、かつて愛した一人の女性、アンヌ(アヌーク・エーメ)のことです。
父の姿を見かねた息子は、アンヌを探し出し、父に会ってほしいと懇願します。
半世紀ぶりの再会。
しかし、ジャン・ルイは目の前に現れた老婦人が、あのアンヌだとはすぐには気づきません。
この再会のシーンは、切なくも、スリリングです。
認知症によって「分からなくなってしまった」男と、それを優しく、少しの寂しさとともに受け止める女。
名優二人の視線の交錯だけで、50年という時間の重みと、老いの現実が静かに語られます。
「愛した記憶」は、消えずに残るのか
本作の白眉は、1966年の『男と女』の実際の映像(フラッシュバック)と、現在の二人の姿が交互に映し出される構成にあります。
若き日の美しく輝く二人と、皺(しわ)を刻んだ現在の二人。
その対比は残酷なようでいて、実は「変わらないもの」を浮き彫りにします。
ジャン・ルイは、事実は忘れていても、彼女に対する「感情」や、彼女が放つ「愛おしさ」を本能的に感じ取ります。
認知症が重度になっても、あるいは記憶の引き出しが壊れてしまっても、心の奥底に刻まれた愛の記憶は、決して消え去ることはない。
二人の笑顔は、そう私たちに語りかけてくるようです。
劇中で引用されるヴィクトル・ユーゴーの言葉、「人生最良の日々とは、まだ生きていない日々のことである」。
老いは終わりではなく、愛がある限り、人生は最期の瞬間まで輝き続けることができる。
そんな温かい希望と、豊かな余韻に包まれる、大人のための傑作です。









