食事のとき、私たちは無意識に食べ物を噛み砕いていますが、この「咀嚼(そしゃく)」には、単に食べ物を飲み込みやすくするだけでなく、全身の健康を守るための数多くの重要な役割が秘められています。
しかし、現代人の食事は柔らかいものが増え、咀嚼回数が激減していると言われています。
本記事では、咀嚼が持つ健康効果や、噛まないことで引き起こされる弊害、そして噛む力を維持・向上させるためのトレーニング方法について詳しく解説します。
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咀嚼(そしゃく)とは?
咀嚼とは、口に入れた食べ物を歯で噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい「食塊(しょっかい)」にする一連の動作のことです。
これは無意識に行われているように思えますが、実は歯、舌、唇、顎、頬の筋肉がすべて正常に連携して初めて成立する、非常に複雑な運動です。
驚くべきことに、現代人の咀嚼回数は過去と比べて大幅に減少しています。
硬い木の実や肉類を食べていた弥生時代には、1回の食事で約4,000回も噛んでいましたが、戦前の日本では約1,500回、現代ではわずか約600回にまで減っていると言われています。この咀嚼数の激減が、現代人の顎の筋肉の衰えやさまざまな不調の要因となっています。
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咀嚼が持つ5つの重要な役割
食事の際にしっかりと咀嚼することには、全身の健康を支える以下のようなメリットがあります。

1. 唾液の分泌を促し、消化吸収を助ける
胃は食べ物を溶かすことはできますが、すりつぶすことはできません。咀嚼によって食べ物を細かくすることで表面積が広がり、胃液が浸透しやすくなります。
また、よく噛むことで1日に1〜1.5リットル分泌されるといわれる「唾液」が豊富に出ます。
唾液には消化酵素が含まれており、胃腸への負担を大きく軽減します。
2. 虫歯・歯周病などの口腔トラブル予防
唾液には、口の中の汚れを洗い流す「自浄作用」や、細菌の増殖を抑える「抗菌作用」があります。
よく噛んで唾液をたくさん出すことは、虫歯や歯周病の予防に直結します。
3. がん予防への期待
唾液に含まれる酵素「ペルオキシダーゼ」には、食品に含まれる発がん性物質が作り出す活性酸素を除去する働きがあることがわかっており、がん予防の観点からも咀嚼が注目されています。
4. 脳を刺激し、老化を防止する
咀嚼には顎や頬、舌などの筋肉を総動員させるため、脳の広い範囲(特に大脳皮質)に刺激を与えます。
さらに、噛むことで頭蓋骨に力が伝わり、脳への血流が増加するため、子どもの脳の発達や、高齢者の認知症予防・脳の老化防止に効果があると考えられています。
5. ダイエット効果と食べ過ぎ防止
咀嚼回数が増えると、脳の「満腹中枢」が刺激されます。
満腹感は胃ではなく脳で感じるため、時間をかけてよく噛むことで少ない量でも満足感を得られ、食べ過ぎを防ぎます。
さらに、消化吸収が活発になることで「食事誘発性熱産生(食後に代謝が上がる現象)」が高まり、カロリー消費量が増加するダイエット効果も期待できます。
咀嚼が不足するとどうなる?3つの弊害
噛む回数が減り、咀嚼不足の状態が続くと、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。
唾液が減り、口内炎や口臭が悪化する
咀嚼による副交感神経の刺激が減るため、唾液の分泌が低下します。
口の中の雑菌が繁殖しやすくなり、口臭や口内炎、虫歯のリスクが跳ね上がります。
顎の筋肉が低下し、顔が老け込む
使われない筋肉は衰えます。
顎や頬の筋力が低下すると、顔のたるみやシワの原因となり、口元が緩んで実年齢より老けた印象を与えてしまいます。
栄養バランスが偏る
噛む力が弱まると、無意識のうちに柔らかいもの(麺類やパンなどの炭水化物)ばかりを選ぶようになります。
食物繊維が豊富な野菜や、硬い肉類・ナッツ類を避けるため、便秘やビタミン・タンパク質不足、肥満の原因となります。
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噛む力を維持する!口腔機能トレーニング
特に高齢になると、筋力の衰えから十分な咀嚼ができなくなることがあります。食事を安全に楽しむための簡単なトレーニングをご紹介します。
唇・舌のトレーニング
食べこぼしを防ぎ、食べ物をスムーズにのどへ送る力を鍛えます。
- 唇の体操: 口を思い切りすぼめて「ウー」、口角を横に引いて「イー」と発音する動作の繰り返し
- 舌の体操: 舌を前に「べー」と出す、上唇を舐めるように持ち上げる、左右の口の端を舐める動作の実施
- パタカラ体操: 「パ・タ・カ・ラ」と大きくはっきり発音することで、唇や舌の動きを滑らかにする有名なトレーニング
嚥下(飲み込み)トレーニング
誤嚥(食べ惹が気管に入ること)を防ぐには、首周りのリラックスと呼吸が重要です。
食事前に深呼吸(腹式呼吸)をし、首をゆっくり前後左右に回して筋肉の緊張をほぐしましょう。
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日常生活で「よく噛む」ためのコツ
毎日の食事で咀嚼回数を増やすためには、以下のポイントを意識してみましょう。
- ひと口30回を目安に噛むこと
- 根菜類など、歯ごたえのある食材や大きめのカットの取り入れ
- テレビやスマホを見ながらの「ながら食い」をやめ、食事への集中
- 早食い防止のため、食べ物を口に入れたら一度お箸を置く習慣づけ
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咀嚼を支える「歯」の重要性
高齢になっても何でも美味しく食べるためには、「20本以上の自分の歯」を保つことが理想とされています(8020運動)。
厚生労働省の調査によると、高齢者の残存歯数は年々増加傾向にあるものの、70歳以上になると20本を下回る方が増えてきます。
歯が抜けたまま放置すると、噛む力が落ちて柔らかい糖質偏重の食事になり、ビタミン類(B2、K、葉酸など)が不足し、低栄養やサルコペニア(筋肉減少)のリスクが高まります。
若いうちから定期的に歯科医院でメンテナンスを受け、大切な歯を守ることが、将来の咀嚼力を維持する鍵です。
近年、人がパリパリ、サクサクとものを食べる「咀嚼音」を楽しむASMR(自律感覚絶頂反応)動画が若者を中心に大流行しています。
心地よいと感じる人がいる一方で、「他人がものを食べる音(クチャクチャ音)」に強い不快感や怒り(ミソフォニア:音嫌悪症)を覚える人も少なくありません。
食事の際は口を閉じて噛むなど、周囲への配慮を忘れないようにしましょう。
咀嚼についてのまとめ
本記事では、咀嚼の重要性とその効果について解説しました。要点は以下の通りです。
- 咀嚼には、消化吸収の促進、虫歯予防、がん予防、脳の活性化、ダイエット効果など多くのメリットの存在
- 咀嚼回数の減少による、唾液の減少、顔のたるみ、栄養の偏り(低栄養や肥満)の発生
- 噛む力を維持するための、唇や舌のトレーニング(パタカラ体操など)の有効性
- しっかり噛むための、ひと口30回の意識と、自分の歯を20本以上残すケアの不可欠さ
毎日の食事で「噛むこと」を少し意識するだけで、未来の健康を大きく変えることができます。
ぜひ、今日の食事からよく噛んで味わうことを実践してみてください。


