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9月20・21日「注文をまちがえる料理店」開催 この日だけは「嵐を呼ばない男」に

ガンさんのおはなし

家内をひとりにしとけん

デイサービスに通われているガンさん(仮名 認知症の状態にある)が、デイサービス利用中「帰らにゃならん」と言われ聞く耳をもちません。

それもそのはず、その理由は「家内(奥様)を一人にしておけん」とのことで、デイサービスセンターから出て行かれたようです。

 

一人で行かせられませんから新人の若手職員が付き添ったようですが、いろいろ話をしても「帰る!」の一点張りで怒り出したようで、公衆電話からセンターに「〇〇辺りを▽方面へ歩いています。もう無理です」とSOS電話をかけてきました。

 

今なら携帯電話がありますので、こうした連絡も簡単にできますが、当時は見知らぬ人に「〇の■と申します。痴呆症の方に付いて歩いていますが、ここに書いてある△に電話をして、だいたいの場所をお伝えいただけないでしょうか」という一文を書いた紙を事前に用意して渡すか、公衆電話からかけられるように10円玉を持参するかの手立てをとっていました。

 

連絡を受けた僕が急いで駆けつけ何とか見つけ出すことができ付き添っていた職員と交代しました。

 

真っすぐの道を歩いているところから電話をしてきていたので先の方を歩いていたガンさんを僕の視野に入れることは容易く、後方から見守りますが、ガンさんは何となく気づいていたようです。

歩いて行く方向がガンさんの自宅方面で「何となくわかっているのかな」と思って見守りながらも、僕の姿を目にすると走り出すので、警察官の尾行のように、やや距離をとって気づかれないように隠れたりしながらついていきました。

 

警察に連絡してくれ

大きな通りに出たとき「右折か左折か、真っすぐか」と気をもみましたし信号を認識して行動できるか少々不安もありましたが、自宅がある方向へ左折されました。

きっと、方向がわかっていたわけではなく、道路左側の歩道を歩かれていたので左折だと道路を横断する行動が不要なので、道なりに曲がられたのだと思います。

 

歩道橋の下に隠れて歩く姿を見ていると、工事現場に差し掛かり歩道の安全を監視する警備員さんにガンさんが話しかけました。

「何を話したんだろう」気になって仕方がありません。

ガンさんが話を終え歩き出し少々距離が離れたところで警備員さんに聞いてみました。

 

「〇〇という者ですが、今〇〇しています。先ほど彼はどんな話をされたんでしょうか」

「いやァ、後ろから怪しい奴がついて来るから警察に連絡をしてくれって言われたんですよ」

 

ガンさんの言う通りで、かなり怪しいヤツですよね。

警備員さんと二人で大笑いしました。

 

ワクワク・ドキドキ

いよいよ自宅方面への道路との分帰路に差し掛かるときがきました。左に曲がれば自宅方面です。

今度はT字路なので「左に曲がるか真っすぐ行くか」なのですが、T字路の交差点にさしかかった時のことです。

 

ガンさんはT字路を渡る手前に差し掛かると、ゆっくりと歩きはじめ左側に目をやりT字路を渡ってから左に曲がりました。

しかも左に曲がってからは、それまでとは打って変わってゆっくりと歩きだし「ぶらぶら散歩する高齢者」の姿でした。

その姿を目にした僕は公衆電話からセンターに電話をして職員に依頼しました。

 

「ガンさんはきっと10分以内に自宅に必ず辿り着くから、奥さんに何にも言わないで笑顔でお帰りなさいと言って迎えるように伝えて。又、その後も、一切この話には奥さんから触れないようにと伝えて」

 

ガンさんは、T字路に差し掛かったとき「見たことがある」と思ったはずで、T字路を渡り終えるまでに自宅への帰路を確信でき左折したのではないかと思いました。

 

受け止めの言葉や態度

自宅に辿り着くまで、僕ものんびりと後方から歩き、辿り着いた姿を確認して約5分後にガンさんのお宅を訪ねました。

 

「ガンさん、こんにちは」

「あら、和田さん、今日はすみ・・」

 

すみませんと言おうとした奥さんに「シーッ」とジェスチャーで伝え

 

「近くまで来たんで、ガンさん元気なんかなと思って寄りました」

「和田さん、ものすごく元気にしていますよ」

 

微笑みながら言われる奥様を見て安心し「じゃぁ、ガンさんによろしく」と後にしました。

奥様が、とがめる言葉や態度でガンさんを迎えていたら、こんな風にはなっていなかったでしょうね。

 

後日、奥様が「皆さんにはお手間とらせましたが、家内を一人にしておけんと言ってくれたことが、とても嬉しかったです」と微笑まれたことが、とても心に残りました。

 

トメさんのおはなし

やることやったらおいとまする

グループホームに入居されているトメさん(仮名 認知症の状態にある)は、グループホームにお仕事に来ていると思われている方です。

というのも、もともと家政婦のお仕事をされていたので、買物や調理、掃除や洗濯といった日常生活行為を入居者自身が行えるように支援していましたから、本人からすれば入居前の暮らしと代わり映えしないため当然のことでしょう。

 

ひととおりのことが終わると「これで、おいとまします」と帰路につかれようとされますが、とっても理にかなった行動です。

いつもは、帰る行動をとることがないようにアレコレと支援していますが、この日は「おいとまします」の言葉に「気を付けてお帰りください」と送り出し、僕がそっと後方からついていくことにしました。

 

おせっかい

トメさんが帰ろうとする自宅(実家)は遠方なので、そこに帰りつけないことはわかっていますが、それでも時々送り出す理由は「帰ります」と言われてグループホームを出たとき、どっちの方角に向いて歩こうとされるかの傾向を把握しておくためです。

トメさんにしてみれば「そんなこと頼んでない」わけですから「おせっかい」なことで、このおせっかいこそ僕の仕事なんですよね。

 

この日は、トメさんがとる行動としては最も確率の高い方角に歩かれましたが、この方角は交通量の多い道路方面で、電車の駅もありますから慎重に後方から見守って歩きます。

トメさんはガンさんとは違って「後方からついてきている」なんていうことは思いもしない方であり、後方を振り返ることもなく歩かれるので隠れることもなく堂々と後方近距離でついて行けます。

 

トメさんが誘拐された

交通量の多い道路で心配しましたが、しっかり歩道を歩かれ視界も良い場所なので公衆電話からグループホームに電話をかけながら見守っていると、トメさんにクルマが近寄ってきて乗車していた人がトメさんに声をかけたかと思うと乗車させて走り去っていきました。

 

「エーッ!!! 誘拐」

 

すぐに職員に家族に連絡を入れるように伝え、警察に通報し、上司や役所に報告しましたが、さすがに「誘拐された」とは言えず、あるがままに起こったことを伝えました。

 

「あんな年寄り、誘拐するやろか」

「いずれにしても、どうしようもないなぁ」

 

なんて頭の中をあれやこれや巡りますが、どうすることもできず警察を頼るしかないと諦め、グループホームに戻ると、職員が飛んで出てきてくれました。

 

「和田さん、トメさん、戻られましたよ」

「無事か」

「ご無事です」

 

何が起こったのかを聞くと笑い話で、グループホームに実習に来ていた学生がトメさんのことを憶えていて、トメさんが一人で歩いているところを見かけたので声をかけて乗車してもらい、送ってきてくれたとのこと。

「そうなんや、ハハハ」

起こったことは想定外、聞けば美談でしたが、肝を冷やした出来事でした。

 

注文をまちがえる料理店のおはなし

健達ねっとでもご紹介していただきましたが、今週末20・21日(各①11時30分~13時 ②13時30分~15時 ③15時30分~17時)に東京原宿「東急プラザハラカド5階FAMiRES(ファミレス)」で「注文をまちがえる料理店」を開催します。

 

この取り組みに際しクラウドファンディングさせていただきましたが目標額を最終日に達成させていただくことができました。

この場をお借りして感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

 

2日間各3回転264名のお客様を迎えるホールスタッフ(認知症という状態にある方)は総勢39名で、その方々をサポートするのは現役の大学生と一部卒業生、サポーターをサポートするために「介護事業ベテラン職業人」がマネジャーを務める編成です。

サポーターたちは、ホールスタッフとの関係づくりを事前に行うため2日以上、その方々が暮らす介護事業所や利用する介護事業所を訪問しました。

又、認知症という状態にある人たちが置かれてきた状況や置かれている状況、その状況から注文をまちがえる料理店が誕生した経緯、その背景にある考え方や実践史を学んでいただく時間を複数回とりました。

今サポーターたちは「単なるイベント参加」だなんて全く思っていないことでしょう。

上手くいくこと上手くいかないこと、そのどちらも貴重な体験となり「次代の社会づくり」へ役立ててくれることを期待しています。

 

また、今回の取り組みはドキュメント映画化し来秋の公開を目指しています。

これも「思いや考え方を次代に繋げていきたい」という想いからで、2017年初開催から8年経って「次代」を意識するようになったのは、この取り組みが僕らにとって8回目ではありますが、資金集めから何から何まで全てのことを自分たちでやるのは今回が二度目で、
主催:一般社団法人注文をまちがえる料理店と法人格を有してはいますが、超多忙な本業をもつ者ばかりのボランティアチームですから、その大変さを思えば「三度目はない・できないかも」となるのは致し方なく、チームメイトの誰も口には出していませんが「これが最後」の覚悟の現れが「映画化」のような気がしています。

ただ、映画化すれば「もっと大変なことになる」とも思っていますがね。また、こちらもよろしくお願いします。

 

合わせて今回は「ま、いっかの日」と謳って9月21日同日開催の呼びかけをしたところ北海道から沖縄まで1都1道2府14県で34団体の方々が応えてくださり、一緒に取り組んでくださいます。

写真は、広島県「注文をまちがえてもおいしい店」を主宰する実行委員会の皆さんが製作された缶バッジで、デザインは一般社団法人注文をまちがえる料理店デザイン担当者が作成したもので、これを統一のシンボルデザインにして取り組んでいます。

注文をまちがえる料理店の缶バッジ

ただ心配なのは「台風」だわ。

和田さんがやることに「嵐」はつきもので、2017年も朝鮮半島に抜けるはずの台風が半島手前で90度直角に曲がって東京を直撃しましたからね。

日本中で「てるてる坊主吊り下げ」にご協力をお願いします。

 

中国地方の山中の稲穂
中国地方の山中、稲穂が実り、いよいよ収穫の秋ですが・・・まだまだ陽射しが痛い!
稲穂の色づき模様だと巻雲(すじ雲)が似合うかと思いますが、まだ厚みのある夏模様の色合いが残っていて不思議な光景に感じます。
近年の日本は、僕が学生だったころとは「異国か」と思うほどの違いを感じますが、きっと多くの方々が同じように感じていることでしょうね。
ちなみにこの日の夜中から明け方、ホテル泊まりだったんですが土砂降りの雨で「大雨警報」が出され「和田さんが連れてきた」とのささやきが聞こえてきましたわ。
車に積載する「非常災害用品」が増えてきました。

 

和田 行男 さん

1987年、日本国有鉄道から介護業界へ転身。1999年には、東京都初となる認知症高齢者グループホーム「こもれび」の施設長に就任した。淑徳大学客員教授。