あらすじ
71歳の谷光章監督が、99歳で認知症を患う実母・千江子さんとの日常を記録したドキュメンタリー。
認知症による記憶障害、昼夜逆転、幻覚、物盗られ妄想などの症状と、足腰の衰えにより自宅での生活が困難になった母。
息子が母の介護のために実家に戻り、四季折々の街の風景とともに、母の人生最終章の日々を優しく見つめる。
老々介護の現実と、親子の深い絆を静かに描いた感動作。
特徴・見どころ
71歳の息子が、99歳で認知症の母を介護する。
本作は、映画監督である息子・戸田ハーディさん自らがカメラを回し、ありのままの日常を記録したドキュメンタリー映画です。
超高齢社会を迎えた日本において、「老々介護」という決して他人事ではない現実を、そしてその過酷さの中にも確かに存在する深い親子の愛情を、静かに、しかし力強く描き出しています。
介護に直面している方はもちろん、すべての人々の心に深く響く、感動の記録がここにあります。
監督自身の撮影だからこそ描ける「日常のリアリティ」
この映画の最大の見どころは、監督自身が介護者であるからこそ捉えられた、圧倒的なリアリティにあります。
カメラは、母・光子さんの愛らしい笑顔やユーモアあふれる言動、そして認知症による不可解な行動の数々を、冷静かつ愛情深い視点で映し出します。
時には、出口の見えない介護生活に戸惑い、苛立つ息子の姿も隠すことなく記録されています。
しかし、そうした葛藤があるからこそ、ふとした瞬間に交わされる親子の会話や、互いを思いやる温かい仕草が、観る者の胸を強く打ちます。
作り物ではない、日々の暮らしの断片が紡ぎ出す物語は、介護の厳しい現実だけでなく、家族の絆の尊さや、人が生きることの愛おしさを私たちに教えてくれるでしょう。
これは日本の縮図。「老々介護」という社会問題を考える
本作は、ひとつの家族の記録であると同時に、現代日本が抱える社会問題を映し出す鏡でもあります。
総務省の統計によれば、日本の総人口に占める65歳以上の割合は29.1%と過去最高を更新し、私たちは誰もが介護の当事者になりうる時代を生きています。
特に、高齢者が高齢者を介護する「老々介護」は深刻な問題です。
健達ねっとの認知症発症に年齢は関係ある?関係の深いアルツハイマー型認知症について解説でも解説している通り、加齢は認知症の最も大きな危険因子であり、誰にとっても身近な問題です。
この映画を通じて、私たちは以下のような点を深く考えさせられるはずです。
- 公的な介護サービスだけでは支えきれない現実
- 介護者が社会から孤立してしまう問題
- 経済的な負担や精神的なストレス
- それでも在宅で暮らし続けたいと願う思い
この物語は、決して特別な家族の話ではありません。
自分や自分の親が同じ状況になったとき、何ができるのか、社会としてどう支えていくべきなのかを考える、重要なきっかけを与えてくれます。
介護の現実に日々向き合っている方々にとっては、深い共感と「一人ではない」という勇気を。
そして、これから介護と向き合う可能性のあるすべての人にとっては、家族との時間の大切さを再認識させてくれる、珠玉のドキュメンタリーです。