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あらすじ
ドイツの映画監督ダービット・ジーヴェキングは、認知症を患った母グレーテルの介護を手伝うため、フランクフルト近郊の実家へ帰ってきた。
父マルティンは長年母の介護を続けていたが、疲れ果てていた。
ダービットは自身が介護を手伝いながら、カメラを回し始める。
記憶を失っていく母との日々、家族で過ごす時間、そして母が最期まで大切にしていたもの。
笑いあり涙ありの日常を通して、家族関係の変化と母の生きた証を記録した、息子から母へのラブレター。
特徴・見どころ
映画『わすれな草』は、私たちに家族の絆とは何か、そして記憶との向き合い方を静かに、深く問いかけるドキュメンタリー作品です。
監督を務めたのは、認知症を患う母を持つ息子自身です。
彼自らがカメラを回し、かけがえのない日々、そしてゆっくりと変わりゆく母の姿を、愛情深い視点から真摯に記録しました。
これは単なる介護の記録に留まりません。
記憶が薄れていく中でも確かに存在する母の個性と、それを見つめる家族の愛憎、そして再生の物語でもあります。
息子の視点で切り取る「ありのまま」の日常
本作の最大の特徴は、美化も誇張もない、その「ありのまま」の描写にあります。
認知症と共に生きる日々は、決して悲しいことばかりではありません。
息子のカメラは、予期せぬユーモラスな会話や、ふとした瞬間に見せる母のチャーミングな一面、そして家族の笑い声が響く食卓を捉えます。
しかし同時に、どうしようもない切なさや焦燥感、介護がもたらす現実的な課題も隠すことなく映し出されます。
時にぶつかり合い、戸惑いながらも、必死で母と向き合おうとする家族の姿は、観る者の心を強く揺さぶります。
きれいごとではない日常を丁寧に切り取るからこそ、そこに宿る家族の深い愛情と絆が、かえって鮮烈に浮かび上がってくるのです。
観客はまるで、その家族の一員になったかのような臨場感をもって、彼らの日々に寄り添うことになります。
母の最期の日々が問いかける「介護の本質」
物語は、静かに母の最期の日々へと進んでいきます。
観客は、重度の認知症の症状が具体的にどのように現れ、進行していくのかを、息子の視点を通して克明に目の当たりにします。
それは、時に目を背けたくなるような、痛みを伴う現実かもしれません。
言葉を失い、意思の疎通が難しくなっていく中で、家族は何を思い、何を選択するのでしょうか。
その極限とも言える状況の中でこそ、介護の本質とは何か、そして人としての尊厳をいかに守るかという重い問いが突きつけられます。
本作は、認知症という一つの病を通して、最終的には「生きる」こと、そして「看取る」ことそのものを見つめ直す、貴重なきっかけを与えてくれるでしょう。
今まさに介護に直面している方、将来に不安を感じている方、そしてすべての家族にとって、心の深い部分に響く示唆に富んだ作品です。









