あらすじ
アメリカの小さな町で、年老いたロバートはひとり寂しく暮らしていた。
ある日、ロバートはメアリーという美しい女性と出会い、恋に落ちる。
メアリーの積極的なアプローチと周囲の温かいサポートを受けて、二人は愛を育んでいく。
孤独だったロバートの日々に光が差し始め、クリスマスも近づいてきた。
しかし実は、メアリーには大きな秘密があった――。
それは、ロバートが重度の認知症を患い、メアリーは彼の妻だということ。
家族と周囲の人々の「やさしい嘘」が、二人に新しい恋のときめきを贈る。
特徴・見どころ
オスカー俳優であるマーティン・ランドーとエレン・バースティンが、長年連れ添った夫婦役として共演を果たした、心温まるラブストーリーが『やさしい嘘と贈り物』です。
認知症という、時に重く、目を背けたくなるような現実的なテーマを扱っています。
しかし、本作はそれを単なる悲劇としてではなく、深く、静かな愛と希望の物語として見事に描き切りました。
最愛の人が自分を忘れていく現実に直面した時、あなたならどう向き合いますか。
この映画は、観る者すべてに「愛のカタチ」を問いかける、静かな感動を与えてくれます。
記憶を失う夫と、彼に寄り添う妻の「やさしい嘘」
物語の中心となるのは、穏やかな老後を送る夫婦、ジョーとメアリーです。
ある日、夫のジョーがアルツハイマー型認知症であると診断されます。
記憶はゆっくりと失われ、ついには妻であるメアリーのことさえ分からなくなってしまいます。
絶望的な状況の中で、メアリーは一つの「やさしい嘘」をつくことを決意します。
それは、ジョーの記憶の中に残る「最愛の人」になりすます、という切ない選択でした。
なぜ彼女はそのような嘘を選んだのでしょうか。
本作の原題は『Lovely, Still』(変わらず、愛しい)。
そのタイトルの通り、記憶という形あるものが失われても、変わらずにそこに在り続ける愛の姿を、本作は丁寧に描き出します。
真実を告げることだけが愛ではない、というメッセージが胸を打ちます。
名優二人が織りなす、静かで深い夫婦の絆
本作の最大の魅力は、マーティン・ランドーとエレン・バースティンという二人の名優が魅せる、圧巻の演技にあります。
『エド・ウッド』でアカデミー助演男優賞に輝いたマーティン・ランドーが、記憶を失っていく不安と混乱、それでもメアリーに向ける純粋な愛情を、繊細な表情で演じきっています。
そして、『アリスの恋』で主演女優賞を受賞したエレン・バースティンが、夫の変化を受け入れ、大きな愛で包み込もうとする妻の強さと切なさを、静かに体現しています。
二人の間には、多くの言葉は必要ありません。
見つめ合う視線や、そっと触れる手の温もりだけで、彼らが積み重ねてきた時間の重みと、揺るぎない絆が伝わってきます。
また、本作が製作当時24歳だったニック・ファクラー監督の初長編作品であることも驚きです。
若い感性だからこそ、認知症というテーマを感傷的に描きすぎず、ユーモアを交えながら、温かな希望の光を当てることに成功しています。
「介護」の現実と、家族の愛が起こす小さな奇跡
本作は、美しいラブストーリーであると同時に、介護の現実に直面する私たちに多くの示唆を与えてくれます。
メアリーが選んだ「やさしい嘘」は、倫理的には賛否が分かれるかもしれません。
しかし、それは夫の尊厳を守り、彼が穏やかな時間を過ごせるようにと願う、妻としての精一杯の介護の工夫でもありました。
本作で描かれる夫婦の姿は、アルツハイマー病の終末期を迎えた方と、そのご家族がどのように向き合っていくべきか、一つのヒントを示してくれているようです。
この映画から私たちが学べることは、決して少なくありません。
- 記憶が失われても、その人の中に培われた「感情」や「その人らしさ」は残り続けること。
- 介護する側・される側という関係性だけでなく、一人の人間として、パートナーとして尊重し合う心。
- 常識や正しさにとらわれず、その人にとっての「幸せ」を最優先に考える柔軟な視点。
夫婦の絆と家族の愛が紡ぎ出すラストシーンは、観る人の心に静かな、しかし確かな感動の奇跡を届けてくれるでしょう。
大切な人と一緒に、または大切な人を思い浮かべながら、ぜひご覧いただきたい珠玉の作品です。









